第17話 モブの自由を満喫~魔法編~

「ファンタジーといえば魔術だな!」


「……またですか?」


今度は何だろうと、最近ではちょっと楽しみになっているオタク殿下の暴走劇。


「魔道を極めし者、異世界を制す!!」


イナ〇ウアーみたいな仰け反った立ちポーズで、顔の半分を手で隠してこちらを睨んで?来るヴェスファード殿下を見ながら、聞いてみた。


「腰を痛めますよ?」


「〇ョ〇ョ立ちだ!腰は痛めん!」


「そうですか……それで魔術と仰いましたが、既に魔術は習っておられますよね?」


殿下のよく分からない〇ョ〇ョ立ちをサラッと無視して、話の先を促してみた。


「むぅ……一応さ、学園に入学前だけど魔術師団長に魔術は教えてもらっているんだよ」


「うわぁ、贅沢ぅ。魔術師団長直々のカテキョですか?」


「ああ、国一番の指南を受けられると思って楽しみにしていたのに」


「していたのに?」


ヴェスファード殿下はロイヤルソファーに座りながら、また顔を半分を手で覆って隠しながら私を見ている。よく見れば指先が出ている皮手袋を着用している。


何だろう?手が痛いのかしら……


「メテオもホーリーもギラも教えてくれない」


「……はぁ」


良く分からないけど、魔術なのそれ?あ、そうだこんな時こそ……


「検索、魔術メテオ」


『ウキウキペディ』の画面が目の前に浮かび上がり、メテオとは……と検索結果が出て来た。


「メテオ……空から降って来る隕石!?こんな危ない魔法は駄目ですよ!」


「師団長に聞いたらそんな魔法は無いというし、じゃあ代わりに暗黒魔法を教えてくれと頼んだら物凄く怒られた。禁術なんだって~」


「暗黒魔法!?あっ殿下のおまけ★にあった攻撃魔法の最上級位の暗黒魔法のことですか?」


ヴェスファード殿下は顔を隠すのを止めると、もう冷めてしまったと思われる紅茶をがぶ飲みした。


「あの付喪神にヤられたよ、暗黒魔法を使えると言われてはいたけど、使い方までは教えられていなかった」


「使い方……ですか?」


「暗黒魔法がどんな手順で発動するのか、魔術式は?とか、全然分からない」


「あっ!」


そういえば、私の方の袋とじにも再生魔法が使えますと書いてあったけど、やり方とか全然分からないかも。


「起動確認済み、と書かれていた中古ゲーム機を買ったら一瞬立ち上がってブラックアウトしたみたいな感じだな!」


いや……その例えはどうかしら?前世の殿下の実体験かな。


「暗黒魔法が使える使える詐欺じゃどうにもならないよっ!名前から察するにブラックホールを呼び出したり、異空間吸収とか出来そうな強力な魔法っぽいのになぁ~」


殿下の発言に仰天した。


「ブッ!?ブラックホールなんて吸い込まれたら世界が滅んじゃうじゃないですかっ!絶対駄目ですよ!」


ヴェスファード殿下はジト目で私を見ながら、無言で頷き返してくれた。


ふぅ……シナリオ破綻する前に暗黒魔法で世界が滅んでしまうのを回避した。


「もっと安全で皆が喜んでくれるような魔法を開発しましょうよ、ね?」


私の話を聞きながら、ヴェスファード殿下は呼び鈴でメイドを呼んだ。


「じゃあさ、喜んでくれる魔法ってどんなの?」


と、聞いてきた。


喜んで?どういうのが喜ばれるんだろ?


「それこそ殿下の『ウキウキペディ』に聞いてみては?あ、そういえば前に冒険者のお話になった時に殿下は冒険者の規定みたいなのをご存じなかったように思うのですが、『ウキウキペディ』を使って検索してみたのですか?」


メイドが部屋に入って来て、殿下がお茶のおかわりと菓子の追加を頼んでいるのを聞きながら、私の目の前に立ち上がっているウキウキペディの画面を見詰める。


この立体画像って使っている本人にしか見えないみたいなのよね~不思議な構造。


「どんな魔法があったら便利かな?」


つい口に出して呟いていると、ウキウキペディが勝手に音声を拾って検索ページを映し出してくれた。


ダイエット魔法、シワ取り魔法、白髪が生えない魔法……すっごく切実な叫びが聞こえてくるようだ。


メイドが退出したのを確認した後に殿下もウキウキペディを起動している。


私の方からは殿下のウキウキペディの画像は全然見えない。


「冒険者ギルドの規定を調べようとしたら、検索条件が難しいんだ。『異世界』『ヒルジアビデンス王国 冒険者ギルド、ギルド規定』と入力すると、向こうの世界の創作されたギルド規定がズラーッと出てくるんだ。事細かに設定を考えている書き手もいるし、冊子形式で冒険者の手引を自作してイベントで販売しているツワモノもいたりで、どれが本物の規定なのか判別出来なかった」


「情報過多になっているのですね」


「そうだ、ウキウキペディが異世界と今居る世界の情報をごちゃまぜにしている。やっぱりあの付喪神は使えんな」


私はウキウキペディの画面を閉じてから、ヴェスファード殿下に向き合った。


「取り敢えず……まずはダイエット魔法を開発してみては如何でしょうか?」


ヴェスファード殿下は腕を組んて、天井を見たりして考え込んでいる。


「ダイエットか、何だか……地味だな」


「何を言っているのですかっ!隕石を呼ぶより百万倍はマシですよ!ダイエット魔法が成功すればメイドの女の子達から喜ばれること間違いなし!ご令嬢の皆様から王子様素敵♡と言われること間違いなしですよ!」


私が拳を突き上げて力説すると、ヴェスファード殿下は渋々頷いてくれた。


「まあいいか、食べても太らないということは胃の中にブラックホールを作ることだからな、これも暗黒魔法の一種か……」


こらーーーっ!!人体を使って不穏な魔法を作ろうとするなあ!!!


この後、ヴェスファード殿下が胃のブラックホール化に成功したかどうかは、内緒にしたいと思います。


更に、ヴェスファード殿下の9才のお誕生日に、メリケンサック付きの皮手袋をプレゼントしたら小躍りしながら喜んでいた。


「ヘル〇スカーァァァ!!とうぅ!」


とか意味不明なことを叫びながら、へんてこな踊りをしながら素振り?をしていた。


怖っ…………

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