第15話 自由なモブって素晴らしい

「はぁぁ!?……っすみません。お父様もう一度お聞きしていい?」


パパンの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


私の前で、珍しく困ったような表情を浮かべているマクシミリアンパパンを見詰める。


そんな困り顔のパパンの執務机の上には、御璽が押された怪しげな封筒が一つ……


決して指で摘まんだりして持ってはいけないけれど、そんな扱いしたくなる内容が手紙には書かれていたらしい。


「ヴェスファード殿下からリジューナに婚姻の打診だ……」


パパンが深く深く頭を下げて俯いている。


「婚姻なんてまだ早くないか?」


パパンの懸念事項はそこですか?


婚姻だってぇ?と、私も色々とツッコみたくてうずうず?イライラ?していますよ。


おかしいなぁ?私はジルファード殿下から婚約破棄されるご令嬢ではなかったかな?それがお兄様のヴェスファード殿下に婚姻申込されちゃってるのかな?


シナリオをガン無視って、モブで王子って自由だね。


「はぁ…………」


パパンの今年一番の大きな溜め息、頂きましたぁ!


「王族からの打診は断れないでしょう?それにヴェスファード殿下は評判も宜しくてよ?」


あ、フレデリカママン居たんだった……


ママンは静かに移動して来ると、ずっと俯いているパパンの背中を撫でている。


「いつかはお嫁に行くじゃない~?遅いか早いかの違……」


「そんな話はしないでくれっ」


珍しいぃ……フレデリカママンの言葉に被せる様にパパンが声を上げた。


ママンと目が合ってお互いに苦笑いを浮かべた。



°˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧



数日後……


そんなパパンとママンと一緒に王城に登城して婚約打診の返事(まあ臣下としては了承しかない訳だけど)の話を国王陛下と妃殿下、ヴェスファード殿下と話し合うことになった。


まあ実際行ってみてびっくりなことに、話し合いっていうよりは婚約同意書なるものに既にサインをするだけの段取りになっていたんだよね。


パパンは既に準備されていた婚約同意書を見て、白目を剥きかけていた。


そうして国王陛下の見守る中、同意書にサインを済ませてヴェスファード殿下と二人きりになれた。


さあ、聞いてやろうじゃねぇか!!!


「さあ、殿下?どうぞお話になって」


ロイヤルソファーの対面に腰掛けた、ヴェスファード殿下にニッコリと微笑みかけながら話を促した。


微笑みかけた私を見ながら、先程までロイヤルスマイルを浮かべていたはずの殿下が、急にニタニタと笑い出した。


「いやいや、今更畏まってどうしたの?」


「……」


「リジューナならすぐに気が付くと思ったけどなぁ」


「何に、でしょうか?」


「『ジルファードは政略婚約の相手の公爵令嬢と婚約破棄をし、真緒を迎えに行った』」


『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~』の私が唯一登場する一文だ。それが何?


私が首を捻っているとヴェスファード殿下は、前のめり気味になった。


「小説には公爵令嬢と書かれてはあるけれど、リジューナ=オーデンビリアとは書かれていないだろ?つまりは我が国に公爵家は他に三家あるし、他国の公爵家の令嬢でも適用される文面だと思わない?」


「そ、それは……」


確かに言われてみればそうだけど……


「俺は大人しくモブでお助けキャラって言うのかな?そんな立場に甘んじるつもりはないよ?よく考えてみてよ、主人公を助けたければあの付喪神が直接すればいいと思わない?それをしないで俺と君にサポートしろと言ってきた。つまり逆に考えると付喪神はサポートんじゃないかと思わない?」


自称神様がサポート出来ない?あ、もしかして……


「神様は物語の中に、直接干渉出来ないとか?」


前のめりになっていたヴェスファード殿下は、何故かガッツポーズをした。


どうした?満塁ホームランでも打ったのか?


「そうなんだよ!だから転生前に付喪神はあれほど俺達にお願いしてきたわけだと思うんだ。現に俺とリジューナの婚約もすんなり出来ただろ?もし付喪神が世界に干渉出来るなら、婚約すら出来ないと思ったんだ、一か八かだけど確信が取れた」


「なるほど、ね」


自称神様の干渉……つまり強制力のような力が予定外の婚約で働くかどうか、この婚約イベント?で試してみたわけだね。


「でもモブだから、婚約ぐらいでは物語の流れには関係無いと判断されたのでは?」


私がそう言うとガッツポーズを止めたヴェスファード殿下は、スン……みたいな表情をしてロイヤルソファーに座り直した。


「まあそうだね……所詮はモブ同士の婚約だし、ちょっと配役が変わるだけだと判断されたのかもね」


ヴェスファード殿下が落ち込んでいるようにも見えたので、慌ててフォローを入れてみた。


「殿下、私達所詮モブですし~台詞も無いから逆に自由にのびのび出来るじゃないですか?気負わず楽しく行きましょうよ、ね?」


ヴェスファード殿下は暫く口を尖らせていたが


「まあいいか……主人公が来るまでこっちは好き勝手させてもらうかな」


と、何だかゾクッとする不穏な言葉を発してきた。


好き勝手ね……常識の範囲内でお願いしたいけど、大丈夫かな?殿下は見た目8才でも中身は大人だもんね?常識あるよね?


……ね?


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