第14話 霞むメインヒーロー

「はい、そこで一度胸を反らせて〜はい!」


ダンスの先生の指示に従い、上体をグイッと反らして体に力を入れた。


今はダンスのレッスン中だ。小説の中なのにガッツリ社交ダンス……ワルツを踊っている。


優雅に踊って見せていても実は筋トレ並に筋力を必要とするみたい。


ええ、ここ最近は筋肉痛との戦いですよ……


でもね、私って加護スキルあるじゃない?治療魔法でバーンと治せちゃう訳よ!


アーハハハッ!偽?聖女の魔法の威力凄いね〜


そしてダンスの授業が終われば、休憩を挟んでからテーブルマナーのレッスンだ。


テーブルマナーは自分の知っているマナーと同じようだったので、今のところマナーの先生から怒られることにはなっていない。


そうして、いよいよ王家主催のお茶会の前日……


「ナニコレ?」


「ドレスと靴とアクセサリー一式だね」


私の呟きにパパンがのんびりと答えてくれた。


私とパパンの前には濃い目アメジスト色を基本色にした、銀糸のレースに縁どられた可愛いドレスと同系色の子供用パンプス。


「ヴェスファード殿下からよ、リジューナいいわね?殿下にお会いしたら、教えたとおりにお礼と……」


ママンからお礼は~とかご挨拶は~とか長々と有難いお話を頂いた。


そして次の日……


姉のナミア(12才)と兄のラナニアス(11才)と共に、王城に突撃しましたよ。


ナミア姉は王子殿下のお相手として年上過ぎる、ラナ兄はご学友として付き合うにはこちらも年上過ぎる……ということで、兄と姉は王子達と懇意にならなくても良いと言われたみたいで、二人共私の付き添いに徹してくれるみたいだ。


先程から、女官や侍従ばりに私のお世話をアレコレとしてくれている。


ナミア姉様が髪の飾りを直してくれながら、何度も同じ事を言ってくる。


「リジューナ、困ったことがあったらすぐに私かラナに相談よ?」


「変な男に付いて行っちゃ駄目だよ?会場を離れる時は兄様が付いていく、いいね?」


精霊の如く美しいナミア姉と妖精の如く可愛いラナ兄に、朝からしつこいぐらいに言い聞かされた。何回このやり取りをすれば気が済むんだろう?


子供じゃないんだから、わぁーかったって!……あ、私ってば今は子供だった。


そして茶会が始まったのだけど……


「あーっあぁーっ……あぁぁ」


第一王子殿下のヴェスファード殿下と、ジルファード第二王子殿下が登場したのだけど、ヴェスファード殿下の装いさぁ~


……私のドレスにデザイン似てない?っていうか、元は同じ図案で男女に作り替えたように見えるよ?アハハ……


おまけにヴェスファード殿下の服の色目がさぁ、エメラルド色と金色がいっぱい使われてて、それって私の髪の色と瞳の色じゃない?


対になるデザインの正装でお互いの色を使っているなんて……色々と誤解されるじゃないか!


勿論、ヴェスファード殿下が登場した時に私の周りに居た令嬢と子息達がヒソヒソコソコソ騒いでいましたよ。


「あんなあからさまな……」


私の隣で絶句しているナミア姉様の呟きが聞こえる。


「チッ!!」


激しい舌打ちの音がラナニアスお兄様から聞こえてきた。


はぁぁ……ヴェスファード殿下ってば、なんでお揃いコーデにするのかなぁ。


ヴェスファード殿下のお揃いコーデの衝撃が凄すぎて、聖ジュのメインヒーローのジルファード殿下に会えた感動?みたいなのが大分薄れちゃったよ!


おまけにヴェスファード殿下が真っ先にこっちに向かってくるのは、なんで?ねえなんでぇ!?


「やあっリジューナ嬢!私の送ったドレス似合ってるね!」


ヴェスファード殿下っ!?


わざとらしく大きな声を張り上げるのヤメいっ!!


「まぁ……」


「どういうこと……」


ひえぇぇ!!またお嬢様方に扇子越しにヒソヒソ囁かれちゃってるよ。


「あ、兄上……お知り合いなの?」


「!」


ヴェスファード殿下の後ろから、可愛い顔したジルファード殿下がこちらを覗いて見ている。


ああ、こんな時だけど流石メインヒーロー子供の時も可愛いね~


でもあんたの兄ちゃんのインパクトが凄すぎて、弟は完全に霞んでるけどな!


そう……私とお揃いコーデのせいで悪目立ちしているヴェスファード殿下はお茶会の間中、何故か私の隣にくっ付いていた。


「あら、殿下?あちらのテーブルのご令嬢が、殿下を熱く見詰めておられますよ?」


「あ~そうかな?でも今はリジューナ嬢との親睦を深めている時間だしね!」


「まあぁ?あちらのご子息が殿下とお話したいと近付こうとされてますよ?」


「男子たるもの物怖じしているのはいけないぁ~話があるならここまで来るだろ?」


「……」


「……」


ヴェスファード殿下と静かに睨み合った。


何が何でも、ここから動かないつもりね?


困ったことがあったら……というナミア姉様の言葉を思い出したので、周りを見ると姉様もラナニアス兄様もいないっ!?


「……あっ!」


二人共、茶会の会場の端に設置されているビュッフェで豪快にお菓子を食べていました。


基本的に姉と兄は精霊パパンの、のほほんとした能天気な性格を受け継いでいて、ここぞという時に役に立たないことが多い(注:フレデリカママン証言)


何の為に茶会に付いて来たんだよぉ、もうっ!


成す術もなく、ヴェスファード殿下を見返した。


なんかニヤニヤしているぞ?可愛いくせに腹立つなぁ。


「まあ、今日はお披露目も出来た。外堀も埋まったし上出来だな」


「?」


中身はおっさん?の8才の王子殿下が意味不明なことを呟いておりますが、どういうこと?


「あ、あの……ご挨拶おくれまして、第二王子のジルファードです」


「!!」


私の背後から、小さいなお声でジルファード殿下の自己紹介が聞こえてきた。


ヴェスファード殿下の奇行のせいで、メインヒーローにご挨拶してなかった!?


「こっこちらこそっ、でで殿下にご挨拶おくれまして申し訳ごじゃいません!リジューナ=オーデンビリアで御座いましゅっっ!!」


メインヒーローにご挨拶するのを忘れてるなんて、何たる失態!!動揺して盛大に噛みまくってカーテシーをしたが、そんな私をヴェスファード殿下が指差して大笑いしていた。


「あははっ!おかしぃ~めっちゃカミカミ!!」


ちょっとぉ!!あんたモブ王子のくせに、メインキャラよりでばってるんじゃないわよ!

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