第13話 8才の悪い顔
なるほどね……イケメンに早く会わせろとの発言を聞く限り、真緒は結構な我が道を行く性格なのかもしれない。自称神様の焦りも気持ちは分かる。
ヴェスファード殿下(前世は社畜?)は茶菓子のクッキーを摘まみながら話を続けてくれた。
「付喪神は真緒と話してから、転生先に誰を転生させるかを考え直したと言っていた。自然に主人公のサポートに回れる立ち位置の人物となると限られてくる。君をリジューナに……と考えたのは前世の経歴や年齢、性格などを考慮したと言っていた。それで男性側のサポートは俺って訳。つまり第一王子と公爵令嬢という立場を最大限に活かせることが出来る技量と、小説の方向性を修正出来るような権力を正しく行使出来る才覚の持ち主でこの人選になったそうだ」
「そうですか。あれ?でも私、残りものだと言われて公爵家の令嬢に転生したと思うのですが……」
ヴェスファード殿下はまたニヤニヤと笑い出した。
「ああ、それ?嘘も方便とか言ってたよ?普通に転生先は公爵家の令嬢だと言うと、貴女は面倒臭がって嫌がりそうだと言っていた。当たってる?」
「……当たってる」
流石?一応神様らしい鋭い洞察力だ。普通に貴族のお嬢様の転生枠を言われていたら、貴族のマナーや政略結婚とか面倒だからと断っていたと思う。
煽られたわけか……自称神様のくせにっ!
「それで、貴女から転生の加護をつけろと言われた時に更に閃いたらしい。女子枠はリジューナで、男子枠は俺。もし、主人公が駄目なら二人合わせて『聖女』の代役をさせればよいとね」
二人で聖女の代役?……あっ!
私は無限収納機能『ぽいっとボックス』から、聖ジュの小説を取り出して袋とじの中を見た。
リジューナは治療魔法の最上級位の再生魔法が使える……の一文を凝視した。
これってもしかして、実は聖女しか使えない魔法だとか?
そしてヴェスファード殿下の小説の、マル秘おまけ★の方も見てみた。
攻撃魔法の最上級位の暗黒魔法と大浄化魔法が使える、大浄化魔法?これが聖女の?
「あ、それって貴女の小説?あ、袋とじ見せてもらってもいい?」
「……」
妙にワクワクした感じのヴェスファード殿下に私の小説を差し出した。
ヴェスファード殿下は、本当に袋とじだ!と、嬉しそうにしながら中を見ている。
「あ~なるほどね。やっぱり俺の大浄化魔法とリジューナの再生魔法の二つは聖女の固有加護スキルだね」
「っ……そうですか」
ヴェスファード殿下は暫く目を瞑って何かを考え込んでいるみたいだった。その間に私はウキウキペディを呼び出すことにした。
「『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~聖女の再生魔法、検索」
目の前に検索ページの画像が浮かび上がり、ウキウキペディが回答を見せてくれた。
【再生魔法とは主人公の聖女のみが使える治癒魔法の一種。文字通り、失った体の部位や先天性の病、不治の病も癒すことが出来る。但し、寿命で死期が迫っている場合は再生魔法や治療魔法は効かない】
「はぁ……」
思わず溜め息が漏れる。
やってくれたなぁ?自称神様めっ!こんなチートな魔法を使ったら一瞬で聖女認定されてしまうじゃない!ヴェスファード殿下の大浄化魔法だって、文字通り魔素を浄化する魔法じゃないのか?これまた、使った瞬間にヴェスファード殿下が聖女にされちゃうじゃない!
あれ?殿下は男性だから、女子では無いか。え~と聖人?聖者?まあどっちでもいいか。
「そうだなぁ、リジューナには申し訳ないけどマルっと話してしまってこちら側に引き込んでしまうか」
「!」
ブツブツ言いながらヴェスファード殿下が不穏ワードを呟いてるよ……
ヴェスファード殿下は、何度か頷いてから私の小説を返してくれた。
「俺のマル秘 おまけ★を読んでみて欲しい」
「マル秘……」
そうだ、ヴェスファード殿下の小説のおまけに続きが!
慌ててマル秘のページを開いて読んでみた。
【ヴェスファードにお願いしたいこと
リジューナ=オーデンビリアと話をしてみた結果で君に判断してもらって構わない。
自らの失態により、この本の中の世界が崩壊する危険性のある異世界の住人を招き入れる事態になり、その解決を君に託すことになり申し訳なく思う。
ヴェスファードとリジューナの二人ならばこの世界の導き手になると信じて、最大限の加護を授けた。神の代行者としてこの世界を護ってくれ】
そ、そ……壮大になって参りました!!いつのまに神の代行者になってたんだ!
チラチラとヴェスファード殿下の顔を見ると、若干8才の幼児が悪い顔をして笑っているのに気が付いた。
「読んだ?先に言っておくけど、俺は別に代行者になんてなるつもりないよ?付喪神が勝手に名指ししてるだけだもん。勝手に加護つけてきてるんだから、知らねぇわ?て感じだね。但し、後10年後くらいに主人公がこっちに来るだろ?そいつが俺の幸せな生活を阻害してきたら、シナリオに介入しようと思う。リジューナ、君は好きにしていいよ。こんなことに付き合う事は無い」
「私は……」
ぶっちゃけると、ヴェスファード殿下と全く同じ考えでしたっ!!
やっぱりこの殿下と根本的な考え方が似ていると思う。
私はビシッと右手を差し出した。
「私も殿下とマルっと同意見です!主人公の出方次第で殿下にご協力させて頂きます!」
ヴェスファード殿下は嬉しそうな顔をして、差し出した手を握り返してくれた。
「こちらこそ宜しく!」
こうして、王子と公爵令嬢のモブ同士で固く握手を交わしたのだった
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