第6話 少しおねいさんになりました
「ふぅぅぅ……」
深く息を吐きながら、足に力を入れて立ってみた。
よろめくがなんとか一歩を踏み出した。
「歩いたぁぁ!!!」
「見たかっ!?歩いたよ!」
精霊パパンと精霊パパンに似ている大柄なお兄様が、二足歩行を覚えた私に歓喜の声を上げている。
この大柄なお兄様……皆様ご記憶であられるだろうか?
聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~の裏表紙に描かれていた、マッチョイケオジその人なんだよ~
なんとメインキャラのイケオジの正体は、精霊パパンの異母弟、マグリアス=オーデンビリアさんだった。因みに今はマグリアスさんはオジサマではない。まだ20才なのでオジサンと呼ぶのは流石に
パパンとマグリアスさんは異母兄弟とはいえ、兄弟仲は大変良いみたいでマグリアスさんは暇さえあれば、うちに遊びに来ている。
最近のマグリアスさんの最大の喜びは、産まれたばかりの私……リジューナに構いまくることらしい。
ジィィ…………
今も、記録魔道具の『トッチャ』でヨロヨロ歩く私を近距離から録画している。ハンディカメラみたいな魔道具なんだけどマグリアスさんってば、また新商品を買ったみたいだね。
「兄上これいいよ!近くで撮っても画像が綺麗だ」
「本当だね!これ、私も買おうかなぁ」
新商品には接写モードが付いてるのかな~パパンは別の『トッチャ』すでに持ってるじゃない?無駄遣いやめなよ。
精霊兄弟はグヘヘ……と、とんでもない笑い声をあげて録画魔道具に映る私の姿を確認している。
綺麗な人達だけど、キモイと思うのは私だけだろうか?
さて、いよいよ私も歩いて移動出来るようになったので『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』を再び読んでみることになったよ。
昼食の後……いつものお昼タイムの時間は乳母のメメ達の監視?の目が緩むのだ。
呼び出した文庫本を抱えて、見付からないようにクローゼットの中に忍び込んでみた。
万が一、この状態でメイドに見付かった時の言い訳として「クローゼットでかくれんぼしてて、寝ちゃってた☆」を装うつもりだ。
「よしっ!」
意を決してほぼ1年ぶりに本を開いてみた。
そうだ、最初のページはキャラクター紹介だった。キャラ絵と登場人物の名前をじっくりと確認した。
名前を見ても今の所、マグリアス叔父様以外で直接会ったことある人はいないようだ。
登場人物紹介ページに目を落とした。
ヒルジアビデンス王国一のイケメン王子と言われる、ジルファード=キールドラド第二王子殿下。(18)
次期宰相と誉れ高いクール美形のツンデレ、オルン=テランディ侯爵子息。(19)
魔術師団最高の魔力を誇る、お色気たっぷりネイサン=イコリーガ魔術師団長。(24)
近衛騎士団一の鋭い目付きの美形剣士、剣技も凄腕のリック=ソノバ騎士団長。(21)
ワイルドマッチョな大人の魅力溢れる頼れるお兄様、マグリアス=オーデンビリア第一騎士団団長(37)
叔父様以外の登場人物の名前を後で貴族名鑑で確認してみなきゃね。
そして前回とは違い、落ち着いてじっくりと読み進めていった。
「…………っ!うぅ……」
ちょっと待て?真緒が異世界に来てから少し経っての描写で、マグリアス叔父様の登場シーンで悲しき事実が告げられましたよ。
マグリアス叔父様は20才の現段階でも、ワイルド系精霊の美貌を撒き散らしているイケメン様なのに……
37才まで何故だかモテないお一人様設定になっちゃってるよ、おい?そんなファンタジーみたいな存在のイケオジがいるの?
…………ここはファンタジー小説の世界でした、うん。
ファンタジーだからっ!ファンタジーでしょ?で全て結論づけてしまいそうで、何だか怖い。
辛いなぁ〜これって後15年以上お一人様確定よね?設定とはいえ辛過ぎる。主人公の登場を待ってる間、私が存分に構って寂しさ紛らわしてあげたほうがいいのかな?
その後のページも一語一句読み漏らさないように、目を見開いて文章を頭の中に叩き込んで行った。
「にゃ……」
無い……
兄や姉も物語のメイン登場人物なのでは?と、疑っていたけれど、キャラクター紹介ページには載っていないし、マグリアス叔父様の登場シーンの前後でもオーデンビリア家の他の親族の名前も出てこない。
プロローグを読み終えて本編に入った。緊張しているから手汗が酷い。
今度は速読しないように、ゆっくりと文章を目で追った。
パパンやフレデリカママン、ラナニアス兄やナミア姉、私の名前のリジューナが載っていないか……私達の存在を匂わせる描写はないか、息を詰めて文章を読み進めてみた。
「………さ………リジューナ様?」
「っ!!」
乳母のメメが私を呼ぶ声が部屋の中から聞こえてきた。
寝室の続き間にこのクローゼットのある衣裳部屋がある。私は本を【収納】すると、クローゼットの扉を少し開けて叫んだ。
「リー、いないよぉ!」
するとメメが寝室の扉から顔を覗かせた。
急いでクローゼットの扉の陰に隠れた。
そう……私は子供。子供の遊びを再現するんだ!
「リジューナ様?」
「いなぃ~よ~」
私がそう叫ぶと、メメの小さな笑い声が聞こえて、その後にメメの芝居がかった声が響いた。
「あらぁ~リジューナ様いないわねぇ~どこかしら?」
わざとらしく声を上げながら、衣裳部屋に入って来て「ここかな~」とか言いながら椅子の裏なんか覗き込んでいる。
私も楽しくなってきて
「そこいないよぉ~」
と、叫んでみた。
メメはニコニコと微笑みながらクローゼットに近付いて来た。
私はさりげなく見えそうで見えない位置に立つと
「みつかちゃう~」
と、呟いてみた。
「見付けましたよ!フフフ」
「きゃあ!」
メメはこんな風な感じで悪乗り?しながら遊んでくれる。私も全力で乗っかって遊んであげているのだ、勿論元大人の羞恥心は捨てている。
メメが来たことで本の四分の一くらいしか読めなかったけれど、物語の前半の流れは把握出来た。
やはり、婚約破棄される令嬢は名前すら出て来ないみたいだった。
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