第5話 思えば遠く(異世界)へ来たもんだ
赤ちゃんって突然に危機に陥るものなんだね。
爆睡してたら枕元に、乳母のメメとメイドのお姉さん二人が来たんだよね。
「リジューナ様、敷布を交換致しましょうね」
「ぅぶ!!」
敷布交換ってもしかして?うそーっ!?枕の下なんか覗いちゃったりしますぅ!?
この枕の下には聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜が鎮座しているんだよぉ!?
どうしようっ!?どこに隠すっ?腕っ!我の腕よっ動いてたもれっ!!!
「ふ……び……」
……………………無理でした。
紅葉みたいな小さいお手手では、ぶ厚い文庫本を掴むことすら出来ない。
ああ、無情にもメメが私を抱き上げてもう一人のメイドが枕に手をかけた。
聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜の存在がばれてしまう!!!
ああ、見付かっちゃった……捨てられちゃう……
そして、メイドは枕カバーを交換して敷布を敷き直して退室して行った。
……ん?あれ?反応が無い?
「さあ、終わりましたよ~」
メメがゆっくりと私の体をベビーベッドに横たえた。
枕の下に恐る恐る手を差し入れてみた。
……!!無い?本が無い!?
小説、どこいったぁ!?
何度、枕の下を弄っても本に触れることが無い。
一瞬で消えてる?まさか……あっ!!私が念じたから異世界に戻ったのかも?
いやぁ……知らんけど。
もしかすると例の自称神様のチート加護が発動して【召喚と逆召喚?】が発動したのかもしれないね、そういうご都合よさげなものが、起こったとしておきましょう。
なにせファンタジー小説だし、ツッコミは無しよ、お約束。
よしよし、本の召喚する時は周りに人のいない時にしてみましょう。
という訳で転生人生最初の危機は無事に回避できた。
しかしそこからが長かった。
乳幼児の私は乳母のメメやメイドの女の子達、フレデリカママン、姉兄に常に見守られている。
夜になったら読めるかな?とか軽く考えていたけれど、すぐに眠気は襲うしお腹が空いて目が覚めて満腹になったら爆睡……と、乳幼児の自分の体が恨めしいよ。
そして転生してから一ヶ月ほど経ったある日、とうとう私の首が座ってきましたよ!
確か、寝返りが出来るのは一才くらい?だったかな?自信が無い……赤ちゃんなんてここ数年抱っこすらしたことないからね。
思い出せぇぇ、甥の一樹はどうだった?妹の芽衣はどうだった?
気が付いたら寝返り打ってた記憶しかない……まあいいか、いつかは私も打てるようになるさ。
そんな中、この物語の重要なことで分かったことがある。
ヒロイン真緒の相方、メインヒーローはジルファードという名だった。どうやらジルファードはこの国の第二王子殿下らしいのだ。
同名の可能性もあるけど、小説の中だからメインキャラとの名前被りは、なさそうだよね?
あれ?もしかして他のメインキャラってもうすでに登場してるの?
文章の早読みの流し読みは駄目だね。しかしね~日本人離れした名前ってどうも覚えにくくてさぁ……年のせいかな?
「うぶうぶうぅー!!」
いかん……自虐ツッコミも小さき手では振りかぶっても威力が出ない。
°˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧ ✧˖° °˖✧ ✧ ✧˖° °˖✧
はい、そうして待ってましたよ~
もうやっとね、寝返り打てるようになったんだよ!さっきからローリングを繰り返しているけど、兄姉やママンが転がる私を見て、喜んじゃって喜んじゃって~
はいっ本日は大目に回って見せましょう!!
グルグルグルグルグル…………目が回った。
三半規管はまだ未成熟のようだ。
兎に角、この寝返り修練期間中に自身の加護について追加で分かったことが増えた。
どうやら【召喚と逆召喚】だと思っていた、聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜の本の出没条件が収納?のような状態になっていると分かったのだ。
それは人々が寝静まった夜半の出来事だった。私は【召喚】発動させようとベビーベッドで意気込んでいた。
異世界から召喚出来るなら、読みかけの時代小説を召喚しちゃお!よ〜し来い!来い!
家の本棚に置いてあるハードカバーの書籍を頭に思い浮かべてこっちに飛んで来るように念じた。
聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜もすぐにこちらに飛んできたし…………
あれ?
来ないな?
「んぶぅぅぅ!!!…………ぷーーーーーっ」
おしりのニュルとしたこの感触は!!
き、気張り過ぎて〇〇〇出ちゃったぁぁ!?ひぃぃぃ乙女の恥っ!!
おしりが気持ち悪い、誰かぁオムツを変えて下さいぃぃ!
「ひ……ひぎゃああ!」
渾身の叫び声をあげました。
それからというもの、異世界から呼び寄せる為にありとあらゆる物を召喚しようと試みたのだけど、例の小説本以外は全然現れない。
流石に【召喚と逆召喚】だと思っていた加護スキルが、実は違うものじゃないか?ということに気が付いた。
だったら呼べば現れて、消えろと念じたら消える機能と言えば……
【便利収納】ぐらいしか思いつかない。
ぼんやりしたネーミングだって?おばさんの語彙力舐めんなよ!
という訳で、収納系の加護スキルではないかと当たりを付けて何かを収納してみることにしたのだ。
まずは小さな動物のぬいぐるみを収納してみるとこにした。
収納?に入れ~!
いきなり目の前から消えた。
「ぶーぃ!」
そして、再び呼び出してみた。
ぬいぐるみぃ~戻って来~い!
何も無い空間に、ポンッとぬいぐるみが現れた。
「ぶーぃ!」
ぬいぐるみを手に取ってみたが、ほつれたり生地が破れたりはしていないようだ。
これはまさに便利機能だね。見られたくないものや、へそくりとか隠しとけるじゃない。
今のところ乳幼児にへそくりは御座いませんがね。
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