第3話 老害になりたくない
子供が巻き込まれる悲惨な事件が目に付く昨今、そんな事件の報道を見て
「まだ小さい子なのに……」
とか、言っていた。
その言葉の後には
「子供の代わりに老害ジジイが変わってやればいいのにね!」
と言う言葉を常に考えていた。
それが今、自分自身に降り掛かっている。
まさに自分が老害ババアの立ち位置になっていたとは……
こんな時だからこそ若い子達に優先的に譲るべきなのか。そりゃ譲ってやるべき……だけどさっ!
はい、そうですかじゃ〜なんて、大人しく引っ込むかっての!!
私は自称神様の胸ぐらを掴んだ。
「そうね、若い子の為に老人は踏み台になってあげなきゃね」
「そ、そこまでは言ってませ……」
「ババアは残り物で充分だろうって神様の判断も分かりますよ〜」
「そんなこ……」
「だけどねっ?これでもおひとり様で国に税金もたっぷりお渡しして国民の義務を果たしてた訳だ。頼る家族もいなくて一人で踏ん張っていたの、分かる?」
「……」
「セクハラやパワハラするしか脳のない、その辺のオヤジと一緒にされちゃ困るわけだよ、分かる?」
「……」
私は更に自称神様の白くのっぺりした顔に、グイイッと顔を近付いた。
「残り物掴ませるつもりなら、せめてこっちにもそれ相応の謝礼があってもいいんじゃない?あん?」
「っひ!!」
顔がくっつくくらいにまで近付くと、自称神様の首元を締め上げた。
「いい?転生させるなら、私の容姿は最高級の極上ボディで、遊んで暮らせるほどの超大金持ちにしてくれるわよね?あ、そうそう確か魔法もあったわよね?当然、魔法も最上級の魔法を無制限に使えるようにしてくれるわよね?それと、あんたも神様の端くれならチートスキルとか付与出来るんじゃない?出来るわよね?勿論それも付けてくれるわよね?ねっ?ねえ?そうよね??」
「………………………………ハイ」
自称神様は蚊の鳴くような声で了承した。
私は手の力を抜いて、自称神様の首元を緩めた。
もう認めてやるしかない。
これは夢ではない、私は死んでしまったのだ。
今までの人生で悔いがあるかと聞かれたら、一度くらいは結婚もしたかったし、子供も欲しかった。その悔いの残る人生から新しい人生を歩めるなら……頑張って見たいという気持ちが芽生え始めていた。
自称神様は何度か深呼吸をしてから、私の持っている本を指差した。
「では……参りますよ。貴女の新しい生に幸あれ」
自称神様がそう呟いた瞬間、目の前が真っ白になった。
体がフワリと浮いたような感覚の後、どこかに引っ張られて行く。
悲鳴を上げたような気がするが、それは泣き声に変わって行った。
泣き声?
え?
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
自分の出している声に驚いて、ひいっと声を出してしまってから気が付いた。
自分の手が小さい……っていうか皺くちゃ……え?何?
私、赤ちゃんになってるんじゃないかーーーい!?!?
°˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧˖°
まあね……正直に言うと、もう少し余韻を楽しみたかったって言うか、今から物語の中に転生します!心の準備はいいですか?とかの、前振りが欲しかったのよ。
あんな秒で転生するとは思わなかったよ。
ていうかさぁ、あの時に色々自称神様にお願いしておいたけど、ぶっちゃけちゃんと私に魔法とかチートを添付?してくれたんだろうか?
魔法を使えるのかどうか、今確かめてみても大丈夫なんだろうか?
「うぅ~」
自分の手を持ち上げて見てみても、持ち上げるだけで精一杯だ。爆発系の魔法がうっかり発動したらヤバすぎる。止めておこう。
現状、赤子である私の枕元には常にメイドさんらしき女性がいる。
その彼女を挟んで隣のベッドに居る妖精みたいな女の子がいる。
その二人の会話から察するに、私は妖精みたいな女の子の子供で、公爵令嬢だということが分かった。
うんうん、なるほどこれが皆が嫌がった『婚約破棄される令嬢』の生まれた時なんだね。ちゃんと物語の中に入れたみたいだ。
しかしだな、もしかして赤ちゃんの時から物語始めるの?それはそれで面倒だな……と思った。
はっっ!?
こんなことなら自称神様から渡された『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』をもっと読み込んでおけばよかったよ。
魔法ってどうやって使うんだっけ?小説の中に詳しく描写されてた?これからどんな成長をするのさ?
『ジルファードは政略婚約の相手の公爵令嬢と婚約破棄をし、真緒を迎えに行った』
アカン…………私の人生、一行に凝縮されてたわ。
あぁ〜私って速読のうえに熟考するタイプじゃないから一行の人生以前に、小説の内容が全体的にうろ覚えだよ!
どうしようぅ!?聖☆ジュ、読みたーーーい!
ドサッ……
私の枕元に何かが落ちてきた。
横目で枕元の落下物をチラ見すると…………文庫本だった。背表紙の文字を読んだ。
『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』だっ!!
どこから出て来た?落ちてきた?まさか、見たい〜とか思ったから?まさか異世界召喚されてきたのかもっ!?
「……ぶぅ……ぐぅ」
何とか短い赤子の手を使って、文庫本を枕の下に押し込んだ。
メイドや母に見付からないようにして、後で読んでみよう。
しかし物まで異世界召喚出来るのかな?ありゃ?これもしかして、チート加護つけろや、ごるぁ!って言ってたチートの加護の一種なんだろうか?
分からんよぉ!あの自称神様もポンコツだなあ、もっと説明してから転生してよ!
「ご機嫌ね」
私の枕元に妖精ママンがやって来た。優しく私の頬を撫でてくれる、ママン。
ママン、マジ妖精。
そんな時、部屋の扉が開き……超絶美形の精霊様が入って来た!?
キラキラと綺麗過ぎて、目が潰れるぅぅ…………ここはファンタジーな世界なのか?
そうでした……
「ぶぶっーー!」
一人、ボケツッコミも虚しいな。
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