第2話 年食ってて悪かったな!

婚約破棄の令嬢……


あまりの驚きに、自称神様が差し出した厚めの文庫本を思わず受け取ってしまった。


手に持った文庫の表紙を見ると、ラノベ系文庫のようで、キュルンとした可愛い女の子の周りに美形の男の子が配置されている構図のイラストが描かれている。表紙絵を見る限り逆ハーレムみたいな構図だ。


え〜と、タイトルは『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~』と書かれていた。


タイトル、クソダセェ……


ダセェタイトルにどん引きしてる私の方に、顔を近付けて神様が表紙絵を指差した。


「この表紙に描かれている女性が主人公の真緒で、その隣の金髪が相手役のヒーローです」


神様の説明に頷きながら気になっていたこと聞いてみた。


「はぁ……あのそれで、婚約破棄される令嬢って、裏表紙に載ってるの?」


本をクルリとひっくり返して見た。しかし裏表紙には、鋭い目の格好良い男の子とイケオジなマッチョなキャラクターが描かれていた。


女子がいない。


「……表も裏にも描かれてないとな?」


む?婚約破棄の令嬢はメインキャラクターじゃないのか?


「本の内容を読んで見ても大丈夫ですか?」


神様が頷いたのを確認してから本を開き、一ページ目に目を落とした。


最初のページはキャラクターイラストとあらすじが載っていた。ふむ、聖女が活躍する話なんだね。


続けてプロローグの辺りをさらりと読んでみた。冒頭は真緒が異世界に召喚される場面だけだった。


本当だ、電車に乗って脱線事故にあった時に召喚されてる。しかし、電車の脱線ね……これ、冷静に考えれば真緒以外の乗客は事故で亡くなってる方がいるんじゃないの?


実際に事故死している方がいる状況に、手放しで楽しい物語が始まるよ〜なんて笑えないわ。ドッと冷や汗が溢れ出る。 


そうよ、小説の中で簡単に書かれている『追突事故が起こった』の、たったそれだけの説明の中には何十人、何百人の乗客が一瞬で命を奪われているという描写が潜んでいるのだ。


私みたいに……死んでしまった。


沈みそうな気持ちを奮い立たせて、何とか先の文章も読み進めてみる。真緒が召喚されて異世界の王子やその他イケメン達と対面しているイラストが載っている。


キラキラした絵だな……内容は何と言うか、中二病満載(作家さんゴメンね)の内容で確かにアニメなどにしても受けそうなテンポの良さを感じる。


更に読み進めると、邪悪な魔術師によって世界が未曾有の危機に陥るが、異世界から召喚された聖女として真緒はイケメン達と協力しあって大活躍をし、その未曾有の危機を乗り越えていく。


その間に学校にも通っちゃうのか、へえ〜異世界なのに教育機関はしっかり描写されてるな……ふむ。


……あれ?思わず読み耽ってしまったけど、もう内容の半分くらい読んだよね?これまでに婚約破棄される令嬢って出てこないんだけど……


「?」


更に読み進めて行って、なんと最終ページに辿り着いてしまった。ここまで来て出て来ない登場人物ってモブっていうしかないんじゃないかな。


仕方なく最終ページを読んだ。


『……真緒とジルファードは見詰め合った。もうお互いの思いを隠すことはしない。ジルファードは政略婚約の相手の公爵令嬢と婚約破棄をし、真緒を迎えに行った』


「ん?」


見間違いか?もう一度最終ページの一文を読んでみた。


『……真緒とジルファードは見詰め合った。もうお互いの思いを隠すことはしない。ジルファードは政略婚約の相手の公爵令嬢と婚約破棄をし、真緒を迎えに行った』


政略婚約の相手の公爵令嬢。


ん?


「……っ!!これかっ!?ええっ?これ?この公爵令嬢ってこれのこと?嘘でしょう!?たった一行しか出て来ないじゃない!」


私は神様の方を唖然として見た。


自称神様は困り顔を見せつつ


「はい〜そうなんですぅぅ。その一文しか出てきていない令嬢が最後に残ったキャラクターでして〜転生待ちの他の女性達は皆さん揃って『聖女が出て来て、婚約破棄なんて、断罪イベされる悪役令嬢だ!』と言われて、拒否されてしまったんですよねぇ~」


と、堂々と断罪イベの悪役の公爵令嬢は残り物発言をしてきた。そして淀みなく説明を続ける自称神様。


「取り敢えず物語に絡むキャラクターは台詞とかありますし、シナリオ破綻を起こされるのも困りますので、転生の対象外でしてぇ〜と言う訳で、他の転生待ちの皆さんに、出来るだけ不自由がないようにと、裕福なお家のモブをご用意しておりましたが、何分枠が少なく転生希望が殺到しまして……」


枠が少なく希望殺到?


「……で、私は残り物なの?普通さ、少ない枠に希望が殺到したら私も交えて抽選とかにするもんじゃない?」


「それ、は……」


私の疑問に自称神様は言い淀んだ。何かあるな?ジロリと自称神様を睨んだ。


自称神様は大きく息を吐き出した。


「抽選ではなく、巻き込まれた方の年齢の若い方から順番に要望をお聞きしている形です。私のミスで未来ある若者の人生を奪ってしまいましたので……沼渕佳子ぬまぶちけいこさん、貴女が転生された方の中で、一番年齢が高……」


「分かったぁ!そう、はいはい!」


名前をフルネームで言うな!全部言われなくても分かったよ。つまりは未来ある若者がこれから楽しいことも嬉しいこともあったのに、突然命を奪われて可哀想でしょ?だから人生残り少ないおばさんは若者の為に譲ってあげて残り物よ、ってことでしょ?


年食ってて悪かったなぁ!好きでアラフィフになってる訳じゃないわ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る