お呼びじゃないけど、オバサン令嬢頑張ります
浦 かすみ
第1話 物語にツイ(憑)てるんです
婚約破棄……それがしかもそれが産まれた時から分かっていたなんて、なんて滑稽なのだろうか。
私は破棄を叫んだ王子殿下を見つめていた。
°˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧˖°
実はこの世界は物語の中の世界らしい。
……らしいと曖昧な表現をしたのは、私がこの世界に産まれる前に聞かされた、自称『この世界の神様』から与えられた情報が非常に胡散臭いからだ。
私自身が記憶している前世の最後の記憶は、日曜日のお昼過ぎの電車の車内で終わっている。
座席に座って半分寝かけていたところまでは覚えているが、その先の記憶が私には無いのだ。
目を開けると私は白い空間に寝転がっていた。最初はこの異質な状態を電車内で寝落ちしていると夢と思っていた。
暫くぼんやりと暫く白い空間を見詰めていると、目の前に光る玉が現れてそれが人型に変わり、全身真っ白の人が立っていた。
おおっ!!我が夢ながらファンタジー!
当然、私はソレを見て夢の中の創造物だと思っていたし、驚きもせずにその全身白い、若い男性?を見詰めていた。そして私の前に黙って立っていた白い人は私に向かって…開口一番
「色々間違えてしまってすみません!」
と、ジャンピング土下座しながら叫んだのだ。
その白い男性は突然、自己紹介と現状の説明を始めた。
白い人は、自分は神様だと名乗った。但し私達が想像する神様とは違い、人が産み出したモノに神が宿り、物体に付くソレを神様と呼ぶらしい。
ではあなたは私達の世界で言う所の、付喪神と呼ばれるものと一緒か?と聞いたら、広い意味ではソレも眷属ではあるが、私達の世界の付喪神は精霊の類などを指す呼称で、厳密に言うと私達の思い描く“神様”ではないらしい。
モノに宿る付喪神の神様……その白い神様(仮称)曰く、白い神様は小説や物語に宿る物憑きの神様だそうだ。
小説なんて実態の無い想像の産物に宿るのか!?と、驚愕したが小説などは書籍化とかコミカライズ化やアニメ化などした際に、紙や円盤商品に記憶されるので“付くモノ”が発生し、なお且つ人々の好意や沢山の情熱や熱い想いを物語が吸収し、それが神様の力の源になり、神様を具現化するとか力を得ることが起こるらしい。
……取り敢えず分かったフリして頷いていたが、自分で編み出した夢なのはずなのによく分からん。
そうして一通り神様の話を聞いて、私がここに居る原因の話に行き着いた。
ここまで話を聞いていても、私はまだ夢の中だと思っていた。夢の中の話にしては上手い具合に想像してるなぁ〜と、思い込んでいた。
そして話し終わった神様から
「ご理解頂けましたか?」
そう聞かれたので、自称神様に聞き返した。
「つまり“
「はい、その通りです」
なんて複雑な夢……え?夢?こんな設定、私が考えたの?
その考えに至り、血の気が引いてきた。いや待て待て?自分の夢だよ?どこかで辻褄が合わなくなっておかしい所が出てくるっていうのが夢だもの。
しかし、なんて複雑な設定なの?理解が追いつかないわ。
「え……と、その小説の中で起こる聖女召喚のくだりは、私も道連れになる設定になってるの?」
白い神様(自称)は首を横に振った。
「小説の中では電車に乗り込んだ瞬間に、主人公だけが召喚されるとなっています。私が違う世界に干渉してしまい、現実世界の女性仮にA子さんと呼びますが、A子さんを物語の中に召喚してしまったので、周りにいた方々が巻き込まれて、一緒に引っ張られてしまう現象が起こってしまったのです」
んん?今……なんと言った?周りに居た方々?
「あのっ今、方々と言った?と言うことは……私以外にも一緒に車内に乗り合わせていて、物語の中に複数人が巻き込まれたの?」
自称神様は首を縦に振った。
なんてことだよ、巻き込まれて異世界へ~がいっぱいるだと?
「それと……非常に申し上げにくいのですが私の神の加護がかかっている主人公、今回はA子さんですが、彼女は肉体を所持したままこちらの世界に召喚されたのですが、巻き込まれた方々は……すでに肉体を失っています」
肉体を失っている?肉体……それってまさか……
「いや、ちょっと待って?じゃあなに私、死んでるの?」
聞き返す私の声がひっくり返っていて、震えている。
何、その設定?夢なのに、死んでるって言われてるの?こんな荒唐無稽な……
驚愕した私を置いてけぼりにして、白い神様は話を続けていく。
「はい、本当に本当にぃ申し訳御座いません!!つきましてはそのお詫びとしまして、この物語の登場人物にあなたの魂を転生させて頂いて、そこで第二の人生を歩んで頂く特別待遇をお約束致します!」
「……ん?えっ!?」
白い神様は何も無い空間に手を挙げると、なんと文庫本を掴んでいて、それを私に差し出してきた。
「因みに残っている転生枠は、その『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』の中の婚約破棄される公爵令嬢のみになっております」
「はああぁっ!?」
私の絶叫が白い空間に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます