第14話[チョコ]

今日はバレンタインの日。

この世界にもそんな日があるなんて思わなかったが、普通にチョコは売っていたので特段、驚きはしなかった。

前の世界では引きこもるまで普通に貰っていたけど、この世界ではどうだろうか?

学校というものが無いから普通に貰えないか。

まあ、家族から貰えるだけありがたい。


「タッティーナ、はいコレ」

「私とお母さんからだよ」


ルリ姉、恐らく買ったチョコを溶かして固めただけだろうけど、俺の事を想って作ってくれたんだ。

普通に嬉しい。


「タッくん、来たよ」

「あっ、ルリ姉ちゃん」

「ちょっとタッくん借りてくね」


このゴリラは俺の襟を掴み、引きずる様に何処かへ俺を連れて行く。

人気の無い場所まで来て、俺はようやく解放された。


「タッくん、今日は何の日か知ってる?」


「蟯虫検査の日」


「そう、バレンタイン」


セツコさん、人の話しはちゃんと聞こうよ。


「それでね、バレンタインチョコを持ってきたの」


ケッ、どうせ買ったチョコを溶かして固めただけだろ。

そんな物、誰が喜ぶかよ。

俺何か、ホワイトデーのお返しにスマホ画面の中に居る嫁にカカオ豆から作った手作りチョコをプレゼントしたんだぞ。

まあ、食べられないから課金アイテムのチョコを渡し、二人でチョコを食べ合ったけど……。

ああ、あのソシャゲもう一度プレイしたかったなぁ。


「チョコ、受け取ってくれる?」


「いや、いいよ」

「俺、甘い物苦手だし」


するとセツコはチョコをバッグにしまい、ダイヤを俺の前に出してきた。

なるほど、今度は金目の物か。

中々素晴らしい考えではないか。

だが、この世界ではダイヤは無価値。

そこら辺で見かけるくらいだ。

それに娯楽の無いこの世界で金目の物を渡されてもなぁ〜。

俺がそんな事を考えていると……。


「タッくん、見ててね」

「フン」


ダイヤを投げ、手刀でダイヤを真っ二つに切るセツコを見て、俺は冷や汗が止まらなかった。

ヤダッ、何この子。

俺を脅す為にダイヤを持って来たって事?

普通に怖いわ。


「タッくん、チョコ」

「受け取ってくれるよね」


「勿論だとも」

「ありがたく食べさせて頂きます」


まあ、受け取るだけ受け取って、後でトイレにでも捨てよう。


「タッくん、今食べてね」


フッ、どうやら俺はこの女に勝てない様だな。


第14話 完

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