第10話[克服]
セッちゃんに振られてから数年。
このままじゃ駄目だと思い、引きこもりから抜け出そうと勇気を出した事があった。
母の財布から野口を二人連れ出し、震える足を押さえ家から一歩踏み出し、やっとの思いでたどり着いたコンビニで俺はアダルトコーナーで立ち止まっていた。
レジには俺と歳が近い女の子。
初めてのバイトなのだろうか、一生懸命笑顔で接客をしていた。
そんな中、三次元は駄目だからという理由でエロ漫画を手にする俺。
正直、止めようとも思った。
こんなセクハラ紛いな悪行。
やってはいけないのだ。
これがもし、男性店員だったら……。
「ご一緒に近藤さんも如何っすか」
などとギャグも入れてくれただろう。
一度漫画を棚に戻し、コンビニから出ようとする。
だが、内に眠る勇敢な俺が語りかけてきやがった。
「お前はそれでいいのか?」
「いつまで雪子の呪縛に囚われるつもりだ?」
「いい加減、目覚めろよ」
「そして、その漫画でハッスルしろよ」
「生きたいんだろ」
うるせぇ、分かってるよ。
分かってる。
だけど、俺のトラウマのせいで何の罪もない女の子を傷つける何て、俺には絶対にできない。
「違うな、お前は彼女を言い訳に逃げてるんだ」
「その証拠に、お前はその二千で通販で漫画を買おうと思っている筈だ」
くっ、奴の言う通りだ。
俺は逃げていた。
通販でエロ漫画を購入すれば良いと心の何処かで思っていた。
目が覚めたぜ。
俺は勇気を振り絞り、エロ漫画をレジに置いた。
「千二百円になります」
野口を二人渡し、お釣りを渡す彼女の手が俺の手と触れ合った。
その時だ。
全身に鳥肌が立ち、吐き気がした。
この時俺は、女性恐怖症を克服する事が無理なんだと悟った。
フッ、どうしてあの時の記憶が蘇るんだ。
もしかして今、女性恐怖症を克服しろとでも?
確かに彼女は俺の知るセッちゃんじゃない。
名前や声は同じでも、顔は違う。
セッちゃんとは幼馴染だったんだ。
子供の時の顔だって、今でもしっかりと覚えている。
そうさ、この世界のセツコは俺の知るセッちゃんじゃない。
ましてや、ガキだぜ?
何を怖がる事がある。
そうだ、この世界で女性恐怖症を克服するんだ。
あの時のエロ漫画の事を思い出せ。
あの時の勇気を……。
俺は目を覚ましベッドから体を起こした。
「あっ、やっと目を覚ました」
俺は再び気を失って倒れた。
第10話 完
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