第98話 追 跡(2)

【357日目 11月1日 午前4時頃 能登半島、珠洲市沖5マイル北西】



 激しい雨が白いカモメの身体を叩く。深夜の日本海海上において翼を休めていた死霊使いカモメ「チャーリー」とチャーリーの眷属であるゾンビカモメ「デルタ」は激しく降り続ける冷たい雨の中、海面上を漂っていた。


 他の生命体に憑依した死霊使いは死霊使い本体から遠隔操作出来る「端末」なので定期的に本体と通信接続することによって記憶のアップデートや消去を行う。

 強化カモメチャーリーに憑依した死霊使い「テスカ」は激しい雨が降り続く中、日本海洋上に浮かびながら帝国の首都「大都」に居る「本体」との通信を行っていた。この通信接続を行う間は身体を動かすことは出来ないため、傍から見れば睡眠をとっているように見えるかもしれない。




「…………我が主……テスカ様……起きてください。いつの間にか何者かに接近されています…… 敵かもしれません」


「……なに? 『探知』…… 確かに。三体、空中を浮遊して接近しておる……この反応の感じ、一人はマスター・ミラ・アンダーソンじゃな……ならば、他の二つの反応はアリス一味の人間か強化カモメか……」



 死霊使いカモメ「チャーリー」は思考を加速する。

 ミラ・アンダーソンが儂、又はデルタを追跡してきたなら、なぜワシ等の場所が分かったのか?  ……わからん……何かのスキルか? 少なくともミラ・アンダーソンはそんな能力を見せたことは無かった……


 死霊使いカモメ「テスカ」、憑依する前は魔王伊集院の眷属カモメ「チャーリー」は他者に対する興味が薄く、勇者の御子柴平次や女盗賊の如月茜が持っている探索スキルについて全く知らなかった。

 死霊使いテスカは現状について分析していく。



「おいデルタ、儂たちを包囲しているアリス一味のうちミラ・アンダーソンじゃない奴が何らかの方法で儂たちの居場所を遠方から探知できるのじゃろう。

先手を打って逃げるぞ。もし、追跡されて追いつかれそうになったらデルタ、お主はミラ・アンダーソン以外の二人に突撃して接近戦を試みるのじゃ。出来るだけ儂が離脱する時間を稼げ……」



 このゾンビカモメ「デルタ」はなかなか見どころのある強個体ゾンビじゃからできれば持ち帰りたいが、アリス一味との戦闘になって全滅するくらいならデルタを囮にして儂だけでも逃げなければならない。


 接近する敵がアリス一味なら3対2で儂たちの方が不利だ。戦いにおいては敵よりも数が多いこと……数的有利であることが重要なのだ……異世界の中国春秋時代(紀元前500年ごろ)の軍事思想家「孫子」もそう言ってたような気がするからの……





 激しい雨の中からミラ・アンダーソンほか、人間2名……真ん中がミラ・アンダーソン、右に同じ服装の女魔法使い、左に忍者?が空中に浮遊しながら姿を現した! 儂たちとの距離は5mを切っている!



『ーー念話ーーこちらマスター・ミラ! チャーリーとデルタ、起きなさい? 起きたら返事しなさい。アンタたちは死霊使いを追跡してきたんでしょう? 死霊使いはどこに居るの? もしかしたら見失っちゃった?』


『しまった、先に念話の問いかけをされてしまったわい、デルタ、「反応速度」発動、北に飛べ! 儂は西に飛ぶ!』



 儂は「反応速度」「遠視」……を発動すると同時にミラ・アンダーソンの右側に浮かんでいる女魔法使いに「火弾4」を連射しながら海面から飛び立った!




♢♢



んん! 魔力が凝集してーー攻撃魔法だ!

『ーーみんな、反応速度を使って!』



 私が念話で叫ぶと同時に私は「反応速度」を発動する! 海面に漂うカモメから青白く輝く魔法弾頭が私の顔面に迫っている!「火弾」だ!

 敵の攻撃魔法「火弾」の魔法弾頭の発射と私の「反応速度」の発動が辛うじて同時だったのだろう、青白く輝く魔法弾頭は「反応速度」の効果によって相対速度時速90kmほどに補正されるものの距離が短い!


 私は反射的に両膝を胸の辺りまで抱え込んで顔面に突進する魔法弾頭をギリギリ回避した。「火弾」は私の魔女の三角帽子に直撃、消滅させながら飛び去っていく。


 右手で持っていたM4カービンをカモメに向けながら障壁を展開、カモメが放つ火弾の次弾以降を辛うじて防ぐ。同時に、M4カービンの発射アシストを使わないで「闇弾6」をカモメに連射していく!

「遠視」を発動併用しないで連射されるレベル6攻撃魔法「闇弾6」はターゲットのカモメと10mも離れていないのに狙いから50cm程度の誤差を生じていてしまっている。しかも命中する軌道にある「闇弾」でさえ、強化カモメは信じられない急激な空中機動を行って回避していく。


 ターゲットの強化カモメは強化された翼を使った鳥としての飛行能力と魔法「飛行」を巧みに組み合わせて私たちでは到底成し遂げられない不規則で急激な速度と方向の変化を実行、駆使しながら上昇、私の「探知」範囲外である半径20mの球状空間から離脱していった。



 茜ちゃんの方を見ると、元居た場所から10mほど後方に後退していて障壁を展開したM4カービンを構えて「火弾」を連発しながら周囲を飛び回りながら襲い掛かる強化カモメに防戦一方。ミラ副園長は近くで戦闘に介入しようとしつつも強化カモメの動きがあまりにもトリッキーかつ素早すぎて手を出せないでいる! ヤバい、どうしたらーーええい、時空間操作「時間加速!」



「時間加速」と「魔術阻害空間の展開」のどちらかを、と考えたけど、「魔術阻害空間の展開」は範囲指定が必要なうえ指定範囲に出られたら効果が無い。ここは「時間加速」を選択!


 私は周囲の空間と切り離されて……



「遠視」と「探知」を併用してターゲットである強化カモメの位置を把握する。把握できた。コノヤロー、突然攻撃してきやがって、気でも狂ったか、下剋上なの?


 茜ちゃんとエマ副園長に影響が無いように……「闇弾6」「闇弾6」「恐怖6」



 いちおう、時空間操作「時間加速」が発動できたので落ち着いて、余裕をもって対応できる。この強化カモメたちの異常行動の原因を解明しなければ今後も安心できない。ゆえに翼部分を直撃、消滅させて無力化するのだ。



 時間加速と反応速度の多重効果によって1024倍に引き延ばされた私の主観時間は私の発射した秒速800mを超える「闇弾6」「恐怖6」の速度を秒速0,8m程に補正する。


 私の発射した「闇弾6」がカモメの翼の先端に命中、両翼の大部分を消滅させた。直後「恐怖6」が胴体に命中。



 よし、「恐怖6」が命中したから無力化ーーあれ、カモメから魔力の凝集を感知! 攻撃魔法を撃とうとしている! なんで? 「恐怖6」が効かないーー死霊使いか!?


 カモメのステータスを閲覧する、「ステータス!」



名前 ー 

種族 ゾンビ カモメ(女性) 

年齢 0歳(カモメ 3歳)

体力 G

魔力 G

魔法 水弾4光弾4土弾4風弾4火弾3

   睡眠4回復5ステータス5神託5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5調教耐性3

   思考強化5老化緩和5

死霊スキル ゾンビ化E ゾンビ修復E

   ゾンビ再生E ゾンビ強化E

称号 亜神アリス・コーディの眷属カモメだったもの

   司祭 伊集院平助の眷属カモメだったもの

   ゾンビ 死霊使いの眷属



 ゾンビだったのか……強化カモメをゾンビ化されてしまうことがあるのか?




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