第97話 追 跡(1)
【357日目 11月1日 午前3時頃 長野県長野市】
千曲川。埼玉県、長野県、山梨県の県境の甲武信ヶ岳を源流とする日本で一番長い川、信濃川の別称で、信濃川の長野県部分を千曲川と呼称する。全長367キロメートル のうち、信濃川の部分が153 km、千曲川の部分は214 kmである。
アリス達三人は女盗賊である如月茜のスキル「お宝探知」を用いて首都圏から離脱しつつある死霊使いを追尾していると思われる強化カモメ2羽を追いかけていた。
新宿から北西に飛行し続けて標高2400メートルを超える甲武信ヶ岳付近を通過、長野県側に入って佐久市上空から小諸市など千曲川流域の市街地を北東に進み現在は長野市に到達していた。
「茜ちゃん、ミラちゃん、ちょっと休憩しよう。あそこのコンビニでご飯買って食べよう。昨日の昼から何も食べてないからね、お腹減ったでしょ?」
私たちは首都圏から離脱する死霊使いを飛行神器に乗って追跡、200km近く飛行してきたんだけど、真夜中に関東から長野県側へと山岳地帯を越えて来たため店もトイレもなくて大変だった。超寒いし。山脈を超えてすぐにトイレに入ったけどご飯は後回しにしたんだ。でももう限界。
郊外のロードサイドにある広々としたコンビニ駐車場に着地した私たちは店内に入っていく。航空自衛隊の救難ヘリにピックアップしてもらう予定の河川敷までは1kmも離れていない場所なので好都合なので。
「サンドイッチとおにぎり、それからカフェオレでも買おうかな〜」
ハロウィン仮装の魔女二人と忍者は長野県の深夜のコンビニでは浮いていた。長野県においてはハロウィン仮装は珍しいみたいだ。食べ物を購入した後にイートインスペースで食べようとしたところ、エマ園長から電話。電話の内容は……
「みんな、食べながら聞いて。エマ園長、御子柴君、伊集院君のチームは皇居乾門付近でゾンビ50体の制圧に成功したんだけど、近辺に死霊使い2体の反応を感知、これから制圧に向かうって。エマ園長の見立てだと、新宿にいたはずの死霊使いじゃないかってことだけど」
「分かった。じゃあ、こっちも大至急追跡を再開したいね。そこの河川敷の滑空場に航空自衛隊のヘリが来てくれるんでしょ? 早く来ないかなー?
ーーおおっと、電話だ。
はいはーい、ミラです。はい、アメリカの特殊能力者ですよ~ 5分後に滑空場に着陸ね、搭乗員が案内するからローター回したままの機体に乗れとーー了解です!」
ミラ副園長は電話を切ると通話内容を教えてくれる。
「航空自衛隊入間救難隊からの直電だったわ。予備機を含めて2機の救難ヘリが五分後に滑空場に到着するから乗ってくれってさ。アリスちゃん、茜ちゃん、行こうか」
コンビニの外に出てから食べかけの弁当、飲料を亜空間ルームにぶち込んで空中に飛び上がる。
コンビニの中だと分からなかったけど、すでにヘリコプターのエンジン音が響いている。飛行しながら斜め後ろ、南の方を見ると赤青の衝突防止灯とサーチライトを点灯させたヘリ2機が進入してくるのを認める。私たち三人は150mほどの高度をとって滑空場に向けて飛行する……距離が近いとはいえ、十分に高い高度を取らないと恐ろしいのだ……まだ夜明け前で暗いし、高圧電線とか見えにくい障害物なんかいくらでもあるうえに鳥なんかも飛んでるからね……
千曲川河川敷の滑空場にはパトライトを点滅させている警察のPCが10台ほど集合していた。あらかじめ「話が通っている警察の人たちがいるから声をかけてくれ」と聞いてるのでPC周辺で屯する警官たちの目の前に着地する。
「Good morning! We are special ability persons belonging to the U.S. government, and came to board an Air Self-Defense Force helicopter!」
ミラちゃんは英語で話しかけた! 警察官の皆さんは絶句して誰も言葉を発しない……別に英語で話す必要ないからいいけど……でもアメリカの特殊能力者ってのを強調したいのかなミラちゃんは?……ミラちゃんは日本語に切り替える。
「あ、すいません、私たちアメリカの特殊能力者です。航空自衛隊のヘリに乗るのはここで良いですか?」
「……おおう、お嬢さんたちがアメリカの特殊能力者なんだね? 日本語話せる人がいてくれて助かるよ。確かにここで合ってるよ、たぶんあのヘリだと思うんだけど、そこの滑走路に着陸するはず……」
滑空場に進入してきた2機編隊の航空自衛隊救難ヘリUH-60Jはもの凄いエンジン音、爆音を響かせ、猛烈なダウンウオッシュを発生させながらゆっくりと滑走路に接地した。2機のうち1機のヘリ胴体横にあるスライドドアが開いて搭乗員が一名飛び降りるとこちらに駆け寄ってくる
「ーー入間救難隊です! 内閣官房危機管理センターからの指示でアメリカ政府関係者をピックアップしてテロリストを追跡しろってことですけど?」
「はい、はーい! アタシたち3人です! よろしくお願いします!」
忍者みたいな黒装束を着た茜ちゃんが手を振りながらヘリコプター搭乗員に返答する。私はできるだけ目立たないようにするって事前に決めたので交渉事や会話はミラちゃんか茜ちゃんが応対することになってる。
いちおう、私はアメリカ政府指定の重要人物だから表に出ないほうがいいよねって話し合った結果です。
ピックアップするのが3人だから1機にまとめて乗ればいいよねって事でヘリコプター搭乗員の案内でヘリに近寄る私たち。開放されている機体横スライドドアから中に入っていく。私たち三人はキャビン後部の簡易座席に座らせてもらう。
「では今から離陸します、あ、私はメディックーー救難員ーーの上尾2等空曹です」
「上尾2曹さん、よろしくお願いします。アタシの事はニンジャと呼んでください。こっちの人たちはウイッチ1とウイッチ2です。飛ぶ方向は、えーと、あっちです!」
茜ちゃんは北西の方向をビシッと指差すとニッコリと微笑んだ。茜ちゃんは可愛いんだけど、変なアイマスクしてるから良く分からないかもな~
2機の救難ヘリはエンジン音を高めて一気に上昇すると北西の方向に進路を取ってぐんぐんと加速していく。救難員の上尾2曹がいうには、時速200kmちょっと、新幹線くらいの速度で飛んでくれるらしい……思ったより早くないなあ……この速度で強化カモメと死霊使いに追いつけるんだろうか? そもそも死霊使い達が何処に向かっているのか……たぶん宇宙間ゲートなんだろうね、この方向だと……
長野県北部と新潟県西部の間に横たわる2000m級の山が連なる妙高戸隠連山国立公園上空に達すると厚い雲の中に突入、機外は上下も分からない漆黒に包まれている。
GPSとINS、電波高度計や気象レーダーを使った計器飛行状態での飛行が続く。機外は高度3000m、気温-5.1℃、風速西15.8m/s、にわか雪が降っているらしい。窓から見ても全然わかんないけど。
山岳地帯を抜けてから15分ほど飛行すると日本海に出たということだ。ここからはスマホも使えなくなる。
日本海にでて富山湾上空を進む。更に、15分ほど飛行しているとーー
『アリスちゃん、エマちゃん、すぐ近くだと思うよ……ああ、いま追い抜いた! もうヘリを降りたほうがいいかも?』
ヘリコプターは高度3000mほどを取っていて、外は夜明け前でまだ真っ暗、雪が舞っている(らしい)。強化カモメなど肉眼では見つけることは出来ない。
「パイロットさん、今どのあたりですか?」
機内インターコムを使って現在位置を確認する。飛行中のヘリコプター機内はエンジンの騒音でうるさいからインターコムを使わないとうまく聞き取れない。
「ああ、能登半島、珠洲市を通過して日本海を5マイルほど北西に進んだところなんだけど……どうします、引き返します?」
「いや、このへんで速度を落としてホバリングしてください。大気速度がゼロになったら私たち三人は外に飛び出しますので。その時はドアを開けてくださいね?」
「え、こんなところで? とりあえず了解、速度を落としてゼロに……
……しかし、機外は雪で外気温氷点下ですよ? 高度を下げますから、もうちょっと海面に近づくまで乗っててください……それと、目標はテロリストってことですけど本当は何ですか? 機密事項で言えないなら良いんですけどね……?」
「……とりあえずの目標は鳥、カモメです。近辺に人間、もしくは鳥、あるいはそれ以外の姿をした危険生命体が居ると思われるので危険ですよ?」
「ウッ、危険生命体? ……でも、とりあえず海抜高度300m位までは高度を落として接近しますよ。ナイトビジョンゴーグルを準備するのでちょっと待ってくださいね……
内閣官房危機管理センターからは凶悪なテロリスト対応ということでコンバット・レスキュー(戦闘捜索救難)装備での出動を指示されているんですよ。さすがに敵は地対空ミサイルまでは持ってないと思うけど、ミサイル警報装置とチャフ・フレアも搭載してるから回避はできるよ。いちおう、武器も積んできてるしね……」
ミラ副園長の発言にちょっとビビったパイロットさん。でも、もうちょっとだけ私たちに付き合ってくれるみたいだ。ありがとうございます。
メディック(救難員)の上尾2曹はキャビン奥から機関銃を取り出してフロアーに取りついている銃架に取り付け始めた。
この機関銃はベルギーFN 社製 MINIMI軽機関銃だね。口径5.56x45mm NATO弾を毎分1000発の速度で発射できる。副操縦士はショルダーホルスターから9mm拳銃と弾倉を取り出して戦闘準備を始めた。操縦者の拳銃は護身用なんだけどね。
MINIMI軽機関銃を準備する間も救難ヘリは高度を下げていく。高度300mくらいになったところで機体横のスライドドアを解放、MINIMI軽機関銃の銃口を機外に出してとりあえずのターゲットである強化カモメの捜索を開始する。近くに死霊使いがいる可能性があるから注意は怠れない。
高度800mあたりの雲底を通り過ぎて既に高度300m以下になっているから雲中飛行ではなくなっているけど間欠的に激しい降雨があって視界は悪い。雨が弱いときで視界は100m、強いときは10m先も見えなくなる。解放されたスライドドア開口部から激しい雨が降りこんでくる。
救難ヘリは茜ちゃんの指示に従って高度を下げていく。今は海面からは高度70mくらい、斜め下45度の方向に反応ありということでターゲットが海面にいるなら直線距離で100mくらいだ。しかし、激しい雨で海面は全く視認できない。
「ミラちゃん、茜ちゃん、これ以上ヘリで接近するのも危険だろうから私たち三人はヘリから降りて接近しよう。既に私の『探知』でも二体の生命体の存在を確認できた。近くに他の反応は無いから死霊使いやゾンビはいないと思う」
「分かった……アタシの探知でも把握できた。生意気な伊集院カモメ、勝手に死霊使いを追跡するとは褒めべきか制裁すべきなのか……どっちにしろ彼らの話をきかないとね。
じゃあ機長さん、私たちは機外に出てターゲットに接近して状況を確認しますのでこの位置で高度300mくらいで空中待機していてください。時間はそんなにかからないと思いますよ……」
ミラ副園長はそう言い残すと頭に付けていたインターコム用ヘッドセットを座席に置いて解放されたスライドドアから空中に飛び出した。ミラ副園長に続いて機外に飛び出す茜ちゃん。私も搭乗員さん達に手を振りながら機外に飛び出す。
空中に飛び出した私たちはホバリングする救難ヘリのダウンウオッシュによって10mほども高度を低下させたけど落ち着いて飛行神器を使用して空中集合していく。
激しい降雨によってずぶ濡れになって体温が奪われる。飛行神器を縦にして障壁を頭上に展開、巨大な傘をさしている感じで雨を防ぐ。
探知した二体の生命体に更に接近していくとーー波高1mくらい、緩やかに泡立つ海面に漂う二羽のカモメを発見。こいつ等、寝てやがるのか……この様子だと死霊使いを追跡していたとしても既に見失っているな……
『ミラ副園長、カモメへの声掛けヨロシク』
『りょうーかい、ーー念話ーーこちらマスター・ミラ! チャーリーとデルタ、起きなさい? 起きたら返事しなさい。アンタたちは死霊使いを追跡してきたんでしょう? 死霊使いはどこに居るの? もしかしたら見失っちゃった?』
『…………』
『…………』
『あれー? おかしいな、返事もしないなんて……』
ミラ副園長が首を傾げている…… んん!
魔力が凝集して?ーー攻撃魔法だ!
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