第96話 舞浜大橋(2)

【357日目 11月1日 午前4時15分頃 首都高速湾岸線 舞浜大橋】



 地面から上半身を生やした男の右手から激しい火炎が辺り一面に噴き出すのと離脱する鎧男が地面にダイブして道路に沈み込んで消えるのが同時だった。







 地面から上半身を生やした男が生み出した激しい火炎は持続せずーーすぐに消滅した。

 鎧男に蹴り飛ばされた俺は火炎の範囲外まで飛ばされたため火炎の影響はなく、エマさんと伊集院君は道路に倒れこんでいたため火炎を避けることができたようだ。



 自分の右手を見ると手首から先がスッパリを切断されており白い骨の断面が露出して血液が大量に噴き出している。慌てて左手で右手首切断面を握り締めて血の流出を止める。

 足下を見ると道路が血の池になっている。俺の血なのか……傷口を適切に処理しないと命に関わるかもしれない……


 まずは……「浄化1」

 続いて……「回復5」


 これでいいのか分からんけど……大量に出血したせいか頭がクラッとする……

 ボウッとする目で周りを見るとエマさんが伊集院君に組み付いている女ゾンビに「浄化」を撃ち込んで手足を吹っ飛ばしてから蹴り飛ばしたところだ……



「伊集院君立って! 敵がまだ近くにいるかも知れない、警戒して!」


「エマ園長、さっき敵が道路面から出てきたり消えたりしてましたけど、たぶん吸血鬼が使っていた闇空間スキルです! 僕たちがソウルで閉じ込められた異空間と同じ。

さっきの奴らの中に吸血鬼伯爵かそれに匹敵する敵が混じってますよ!」



「分かった……ジョナサン1、ジョナサン2! さっきから道路から出たり入ったりするやつ発見次第、火弾で攻撃! もう捕獲なんか必要ない、殲滅する! スプレッド!」



 エマさんと伊集院君はM 4カービン型神器を構えて背中を互いに合わせるようにしながら俺に近づいてくれた。



「……エマさん……俺、敵の鎧男に右手を切り飛ばされちゃった。

しかも鎧男に聖剣『レーヴァティン」を奪われたから聖剣スキル使えなくなっちゃいましたよ。『エネミーサーチ』『治癒』とかも使えないです……

切られた手は応急処理を自分でやったけどヤバいかも……」



「ええっ? アー! 御子柴君、凄い出血してるーー大怪我じゃん! ヤバい直ぐにアリスちゃんに治して貰わないと!

えーと、亜空間ルーム展開! 御子柴君、この中に入って。私が運んであげる! 大至急東京に戻ってコリンズ大将と合流するよ!」



 俺はエマさんの亜空間ルームに入り込んだ。入り込むと直ぐに亜空間ルーム開口部は閉じたのでルームの内部を見回して横になれる場所を探す。

 エマさんの亜空間ルームの内部は内径が直径10mくらいあって平らな床面をパーテーションで幾つかの区画に区切ってあるみたいだけど、今居るリビング風の区画にソファーセットがあったので使わせてもらおう。


 三人掛けの大型ソファーに横になった俺はもう一度「浄化」を右手にかけてから目を瞑った。


 ……


 ……あの鎧兜と白銀に輝く聖剣……アイツは異世界で同じ魔王討伐パーティーにいた聖騎士、王国騎士団長なのか……?





♢♢





「フハハハハ! やった! やってやった! あの生意気な第二王子ーー勇者から聖剣『レーヴァーティン』を奪ってやったぜ!」


「さすが亞星、やったね! ……でもアイツが第二王子の正体……思ったより普通のガキじゃん。あんなのにヘコヘコしてたかと思うと超ムカつくんですけど?」


「まあまあ、落ち着け樹里愛。俺様としてもアイツはぶっ殺すつもりだったけど聖剣「レーヴァテイン」を奪えたのはナイスだぜ、十分だ。

あの野郎、聖女並みの治癒は使えたけどこの聖剣を使った聖剣技だからまともに回復できないぜ? ざまあみろ。

これで勇者の厄介な『探索スキル』を封じてやった。ホント厄介なスキルだからな……」


「……勇者の近くに女盗賊は居なかったね。戦闘力の高い仲間が他に二人居たから真正面からやりあったらヤバいよ。早いとここの辺から逃げよう」


「樹里愛、俺様は逃げるんじゃないぞ? 早いとこゲートまで戻れって指示されたからゲートに向かうんだぜ?

よーし。強個体ゾンビ、ここから離脱する。まだ魔力はあるよな? 場合によっては闇空間を連続使用してある程度距離を稼ぐぞ」



 聖騎士は鎧兜、聖剣二本をアイテムボックスに格納する。その後、聖騎士達三人は闇空間の中を東に進んで開口部を開けて舞浜大橋橋梁の直下に出現、強個体ゾンビは吸血鬼が持つスキル「飛行」、聖騎士と聖女は死霊使いの能力「浮遊」で橋梁の下を空中機動していく。

 流石に警察も橋梁部の下までは警戒していなかったようである。





 橋梁部分から引き続く高速道路の高架部分の下を空中を1kmほど進んだところで目についたコンビニエンスストアに入店する。



 コンビニに入った三人は弁当やおにぎり、ペット飲料をゾンビ男に購入させてイートインスペースで食事を始めた。

 死霊使いとゾンビの食事は人間を含む動物の死体が普通なのだが、普通の食事を摂ることもできる。聖騎士と聖女に憑依した死霊使いは、なぜか亞星と樹里愛の人格が混入していて死体なんか食べる気にはならなかった。



「あれ、亞星、どーした? 頭痛いの?」



 聖騎士の亞星(死霊使いア・プチの憑依体)はテーブルに突っ伏して頭を抱えていた。

 聖女の樹里愛(死霊使いイシュ・チェルの憑依体)がそれを見て声をかける。

 強個体ゾンビは一切の興味を示さずひたすらコンビニ弁当を腹に掻き込んでいる。既に弁当三個目である。




「……イシュ・チェル、いや、樹里愛よ。さっきの勇者襲撃の時に神聖属性の魔法弾を受けたせいかーー

ちょっと調子が良くない。聖騎士の鎧がなければこの身体は崩壊していたかもしれん。神聖属性の影響を多少受けたみたいだ。まあ時間をかければ回復するだろ……」


「分かったーー車の手配はあーしにまかせて! カッケーの捕まえるから! あ! いま駐車場に入った車がいいんじゃん?」



 樹里愛は小走りでコンビニの外に出ると、千葉県に比較的多く存在すると言われるDQN ミニバンに近寄っていった。



 無事DQNミニバンのドライバーをゾンビ化して眷属にした樹里愛。食べ残している弁当をイートインコーナーに放置して三人でミニバンに乗り込む。





♢♢





 DQNミニバンを走らせて再び高速道路に入り東関東道を進んで成田空港まで一時間。


 朝の6時頃には空港駐車場に到着して三時間ほど待機して9時すぎに第一ターミナルのエアロフロートロシア航空カウンターへいって窓口職員をゾンビ化してカウンター内に入り込んで上役のところまで案内させる。



 自由裁量のある会社マネージャーを眷属化してグランドスタッフの作業着に着替えた聖女以下三人は職員員通路から滑走路側に出て離陸準備が完了しているウラジオストク行きの機体に乗り込んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る