第95話 舞浜大橋(1)
【357日目 11月1日 午前4時頃 首都高速湾岸線 舞浜大橋】
首都高速湾岸線 舞浜大橋。
首都高速湾岸線を東に進むと渡ることになる、葛西臨海公園と東京ディズニーランドの間を流れる旧江戸川にかかる橋である。
亜神アリスの司祭にして異世界帰りの「勇者」であるこの俺、御子柴平次はーー
舞浜大橋の上空50mを飛行神器を使って空中に浮遊しながら多数の警視庁車両と警察官に囲まれている黒い大型SUVを見下ろしていた。
右には同じく異世界帰りの「魔王」伊集院平助。
左には第3使徒、エマ・ベーカー合衆国空軍少尉。在日本アメリカ大使館直営保育園の園長なのでエマ園長と呼ばれることが多いアメリカ美人で、いちおう俺たち三人の指揮官である。
……皇居乾門において「死霊使い」を探知した俺たちはただちに飛行神器を使って捜索を開始したんだけど、千鳥ヶ淵戦没者墓苑の首都高トンネル出口から地上に出てきた黒い大型SUVに死霊使いが乗っていることが判明した!
飛行神器に乗って黒い大型SUVを追跡するも、車内は見通せず、どんなに近づいても中の死霊使いは目視できない。運転席と助手席の男女は辛うじて視認できたものの、ゾンビだった。みた感じ、日本人の犠牲者だろう。車内後部にもゾンビがいることが判明。
コリンズさんに状況を説明したら首都高に警察車両をのせてSUVを止めるってことで位置情報を発信しながら追跡。
首都環状線を外れて6号線にはいったところでようやく進行方向をしぼれたので本格的に警察車両を指向させてついさっき包囲、停止させることが出来たってわけ。
警察はここ舞浜大橋橋梁上に死霊使いを閉じ込める作戦で、橋梁の両端にバリケードを設置して上下線とも封鎖されている。
しかし大変だったなー。首都高速の高架道路を走行する車の追跡。どんな空中構造物があるかわかんないのであんまり近づけないから。
エネミーサーチが効くから見失っても良いんだけど警察に位置情報を通報し続けないとだから大変。飛行神器を操縦しながら電話しながらなんで。空中に浮遊しながら黒い大型SUVを見下ろしつづけるのも飽きてきたのでエマ園長に聞いてみる。
「エマさん、こうして上空で待機してますけど良いんですか? 死霊使いとゾンビ合わせて5体。強敵かもしれませんよ……」
「そうなんだけど、現場の警察と情報共有が出来てないんだって。私達が警察に協力するって体制になってないから突然介入したらかえって混乱するのよね……
だから様子をみてて、ヤバそうだったら臨機応変に手を出す感じかな~。死んでなければアリスちゃんに治癒してもらえるから、死人が出ないように立ち回ろう」
「はーい、了解です」
「伊集院君もそれでお願いね」
「はい、分かりました ……なんか動きがありましたよ? 運転席と助手席の男女が出てきました
……運転席から出てきたのは30代くらいの男、助手席からは20前後のおねえさん……日本人っぽいですか? 歌舞伎町にいたゾンビは中国人でしたけど」
「隠密を使って気付かれないようにしながら近づいて様子を把握しよう。御子柴君、伊集院君、M4カービンの隠蔽障壁を展開しながら付いてきて。会話は念話使用のこと。行くよ」
俺たちは「隠密1」「暗視1」「筋力1」「持久力1」「衝撃耐性1」を発動させて突発的な戦闘に備えつつ、舞浜大橋橋梁部高度50m上空からゆっくりと降下して車から降りてきた男女のすぐ側、上空4mくらいのところまで接近する。
『二人とも、警官隊の携行火器の射線に入ってるから隠蔽障壁で防ぐようにして。アタシはSUVの内部をチェックする』
伊集院君は警官隊と正対するように男女ゾンビの斜め上方5mくらいに浮遊する。俺は聖剣を持っていたいから飛行神器はアイテムボックスに格納して道路上に着地した。
エマさんも道路上に着地してゆっくりとSUVに接近していく。フロントガラスを通して車内を確認するつもりだ。
男女ゾンビの方を見ると警官隊から立ち止まってうつ伏せになれと命令されている。
男女ゾンビは二人ともノーリアクションで突っ立っていて警官の指示に従うつもりはないようだ。
『さてさて、車内にいるのはどんな奴か。人型なのか鳥型なのかーー
……誰も乗っていない? ーー探知! フロントガラス越しだからハッキリしないけど居ないのかな?」』
エマさんはSUVのスライドドア側に移動してスライドドアを開け放った! そのとき、辺りに響く大声!
「勇者様! 第二王子殿下! そこにいるのは分かっています! お姿を見せてくれませんか!」
俺は「勇者様」「第二王子殿下」と名指しされたことにビックリしながら声のした方に顔を向けるとゾンビ男とゾンビ女が俺の方に身体を向けて叫んでいる!
「第二王子殿下! お願いします! 我々を助けてください!」
「そうなんです! お願いします、私たちは被害者なんです!」
『御子柴君、君はこの人たちを知ってるの?』
『いや、知らないです! 初めて見る人たちですけど、俺のことを「勇者」だの「第二王子」だの呼ぶ人に心当たり無いんですけど……ちょっと声をかけてみますか?』
『そうだね、なぜかSUV車内には人が乗って無いよ。あのゾンビたちが知ってるかもしれないから聞いてみる?』
『はい、「隠密」使ったままで会話してみます』
「そこの男女二人組! あなた達は誰だ? 『助けて』とか『被害者』っていうのはどういうことだ?」
「俺たちは新宿で襲われてゾンビにされたんだが自由意思を失わなかったんで仲間と逃げてきたんだ! 一緒に逃げてきた他の三人は怖がって後部座席とトランクの床に隠れてる!」
「マジか……お~い、後部座席に隠れている人!出てきてくれる?」
エマさんが車の中に声をかけた時!
エマさんの身体が急に見えるようになった! 伊集院君も見える! と思ったら身体が急に重くなって水中にいるように身体の動きが阻害される!
『こ……攻撃されている! 反応速度5!』
!! 「反応速度」の効きが悪い? しかも、あらかじめ掛けていた「隠密1」「暗視1」「筋力1」「持久力1」「衝撃耐性1」の効果が失われている! 敵はーー探知5! 右後ろか!
右回りに回転しつつ聖剣技を発動ーー「ホーリースラッシュ!」
俺が回転しながら放った聖剣技「ホーリースラッシュ」を屈んで避けた敵が伸びあがりながら斜め上に剣を振り抜く!……剣? 不覚! 斬られた!
敵は続けて左ローキックを俺の右ひざに叩き込んで俺の姿勢を崩すとミドルキックを俺の顎に蹴り込んで俺は後方に吹っ飛ばされる!
白い鎧兜に白銀に輝く剣を装備した敵は、切り飛ばされて落下してくる「俺の右手首」と「聖剣」を手で触れて消滅させる! アイテムボックス!?
敵は後方に振り向き空中を高速で機動、俺たちから離脱していく!
『伊集院君、全力で攻撃! 「浄化5!」「浄化5!」「浄化5!」ーー』
エマさんと伊集院君が連射する「浄化5」が複数弾、空中を機動して離脱する敵の鎧男に直撃するも効果を発揮しない!
と、ゾンビ男がエマさんにタックルをして引き倒した! エマさんは倒れこみながら「浄化5」をゾンビ男の手足に撃ち込んで反撃。伊集院君にはゾンビ女がタックル、伊集院君は狼狽えて引き離そうとするもゾンビ女は伊集院君に抱き着いて離れない!
鎧男が離脱していく方向には道路面から上半身を生やした男がいて右手をこちらに向けている!
男の右手から激しい火炎が辺り一面に噴き出すのと離脱する鎧男が地面にダイブして道路に沈み込んで消えるのが同時だった。
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