第93話 聖騎士と聖女(2)

【357日目 11月1日 午前3時半頃 皇居乾門内側第一機動隊現地本部】



 皇居の森の中のゾンビ制圧現場から機動隊現場本部まで戻ってきた俺たちは第一機動隊の皆さんとのデブリーフィングを簡単に済ませた後アリスさん達を追いかけることにする。

 さっきアリスさんから電話かかってきて確認したところ、現在は長野県長野市で小休止。

 死霊使いにはまだ追いつけておらず、この後は新潟県と富山県境の親不知を通り過ぎて日本海に出てしまうから電話が繋がらなくなるらしいんだって。


 コリンズさんが内閣官房と緊急調整して航空自衛隊入間基地で救難待機についているUH-60J救難ヘリを長野県千曲市に向けて発進させて千曲川河川敷でアリスちゃん達をピックアップしてもらうことになった。同時に日本海側の富山空港にも小松救難隊のUH-60J救難ヘリ2機を前進待機させる。


 そして俺たちを防衛省屋上ヘリポートから入間救難隊のUH-60Jに乗せて長野県千曲市に向けて飛んでくれるくれるらしい。やったね!



 では、いちおうアリスさんが追跡している死霊使いの現在地を確認してみようかな……エネミーサーチ:死霊使い!




 ……あれ? 


 すぐ近くに死霊使いが2体いるぞ……?








【357日目 10月31日(日) 午後10時半頃 高級キャバクラ「高目」】


  五時間ほど時間は遡る。昨日の10時半頃。新宿歌舞伎町の高級キャバクラ「高目」においてーー


 脱力したキャバ嬢を抱えた怪しい中国人ゾンビ三人と強個体ゾンビが高級キャバクラ「高目」から外に出ていくと聖騎士と聖女は窓際に移動してキャバクラが入居している雑居ビルのエントランスに面した通りを見下ろす。ゾンビたちが引き起こす騒ぎを観察するためである。

 キャバクラ「高目」は2階にあるので通りの様子は良く見える。さっき外に出ていった警視庁警部が警官となにやら話をしているし、いつの間にか通りには複数の警官と機動隊員が配備されている。


 そこに雑居ビルのエントランスからキャバ嬢を人質にした中国人ゾンビ三人が出てくると職務質問のために警官が近寄る。ゾンビたちは近寄ってきた警官と機動隊員たちを片っ端からぶん殴り始めて通りは警察官たちの怒号と通行人たちの悲鳴に包まれた。




「ふーむ。なかなか派手にやってくれるじゃねーか。この調子なら丁度いい具合に騒ぎになる。あいつ等は使い捨てて、適当なタイミングでここから離脱して我らの世界に帰るぞ。この『聖騎士』『聖女』という特殊な強スキルを持っている身体も手に入った。十分な成果だぜ」


「そういえば日本から中国までどうやって帰るの? 来るときは人民解放軍の幹部をゾンビにしてパスポート準備させたけど」


「後先考えなければどうにでもなるぜ。成田空港に行ってエア・チャイナ(中国国際航空)の社員やCAをゾンビにして使い捨てれば何とでもなるだろうよ」



 高級キャバクラ「高目」から外の様子を見降ろしながら雑談を続ける聖騎士と聖女の身体を奪った死霊使いア・プチ(聖騎士 亜聖)とイシュ・チェル(聖女 樹里亜)。


 ……その時エマ園長の眷属カモメたち二羽が発射した「浄化4」の魔法弾頭が女性を引きずっているゾンビ3人の左膝に命中、左膝下を瞬時に消滅させて転倒させた!



「ん? あいつらなに勝手に転んで地面に転がってるんだよ? ゾンビ強化のせいで身体バランスが狂ったか?」


「えー? そんなことないっしょ? 身体が強化されてどんくさくなるなんて今まで聞いたことないし。さっきだっていきなりキャバ嬢捕獲してたじゃん?」


「それもそうか……あいつらの膝下、なくなってないか?」



「んー? あら? 強個体ゾンビが火魔法ぶちかましちゃった、すごーい」


「……ああ、アイツは女真族の貴族の御曹司だった奴だな。なかなかの攻撃力を持った奴だがあの程度は吸血鬼どものなかでは特に珍しくもない。向こうの世界に戻ればいくらでも手に入る。それに比べてこの『聖騎士』『聖女』の身体が持ってるスキルは本当に特殊で珍しいし強い。比較にならん」



 この死霊使い二人は彼らの世界においても地球世界においても自分たちが「強者」であると見做しており、ハッキリ言って吸血鬼や人類を舐めていた。

 そして死霊使いの能力によって……自分の分身体を次々と吸血鬼や人類など高等動物に憑依させて渡り歩く。死霊使いの本体は異世界の本拠地にあるため分身体が殺されて滅びても平気なわけである。現代地球人がゲームでアバターを死なせても平気なように。

 このため、彼らにはどこか緊張感が欠けていた。もしかしたら聖騎士亜聖と聖女樹里亜の雑で享楽的なキャラクターが混入したせいかもしれないが……



「あれ? あんな奴いつの間にエントランスの前に居た……?」



 反応速度の効果で突然ビルエントランス付近に出現したようにみえる「勇者」御子柴平次。勇者装備を身に着けて聖剣「レーヴァテイン」を構えている。

 聖騎士 皇亞聖の身体に憑依して乗っ取っている死霊使いア・プチは亞聖の記憶を検索することが出来る。



「あの剣と鎧……もしかして『勇者』か? 第二王子の?」


「エッ、マジで? 鑑定!」


「おい! 鑑定掛けたらバレるかもしれんだろうが! しょうがないな、今更か。強個体ゾンビもいるしな。じゃ、俺も『鑑定』」



名前 御子柴平次

種族 人(男性) 

年齢 16  体力G  魔力F

魔法 水弾5光弾5土弾5風弾5火弾5

   闇弾5回復5睡眠5ステータス5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

   神託5動物調教5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5老化緩和5

スキル 火魔法5水魔法5光魔法5

   神聖魔法5

   身体強化5毒耐性5麻痺耐性5

   剣術5聖剣術5槍術5神槍術5

   アイテムボックス5鑑定5

   異世界言語(万能)

称号 帰ってきた勇者

   亜神アリス軍団軍曹

   亜神(時空)アリスの司祭



「勇者だ! 地球に帰ってきていたのか! よし、死霊スキル『ゾンビ化』……ダメか、効かない。あいつはヤバい、強個体ゾンビ、火魔法で攻撃しろ!」



 雑居ビルエントランス付近に急激な魔力の凝集を感知、直後、激しい火炎放射が「勇者」を包み込んだ。



「……やったか? 」


「聖騎士の亞聖ア・プチの記憶によると、それはフラグ……どうでもいいかそんなことは、でもあの程度の火魔法だと勇者は倒せないような気がする」


「そうだよ、それにアイツは敵を感知する特殊スキルを持ってた。あの聖剣『レーヴァテイン』を使って発動する確か……」


「エネミーサーチな。味方なら超便利スキルだが敵の場合は厄介この上ない。逃げても隠れても見つかっちまうんだからな……魔王が気の毒になったくらいだぜ……むうう、強個体ゾンビがやられた。リンクが切れた」


「ヤバいじゃん……って、アイツ女盗賊じゃん! あの女まで地球に戻ってるの?」



 勇者御子柴の後方から姿を現す女盗賊の如月茜。真っ黒いニンジャみたいな「女盗賊セット」を着ている。



「やべえな。中国人雑魚ゾンビ三人と俺たちの世界から連れてきた強個体ゾンビがあっという間にやられちまったぜ。おい、お前、『闇空間』が使えたよな? 直ぐに展開しろ。闇空間に潜航して奴らの探索スキルを回避するぞ」



 聖騎士亞聖ア・プチは聖女樹里亜イシュ・チェルともう一人の強個体ゾンビに向かって指示を発する。



「分かった……あいつらの探索スキルにキャッチされたらなかなか逃げ切れないからね。じゃ、先に入っとくよ、お先ーー」



 高級キャバクラ「高目」において、聖騎士亞聖、聖女樹里亜、正体不明の東洋人の三人は闇空間の中に潜航して姿を消した。店内のキャバ嬢、ボーイ、来店中の客たちは既に逃走しているか、そうでなければ恐怖のあまり床にうずくまるか横たわって寝転がっていて彼ら三人の会話を聞いて記憶したり闇空間に潜航して消える瞬間を目撃したものは居なかった。



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