第92話 乾 門

【357日目 11月1日 午前1時半頃 皇居乾門内側第一機動隊現地本部】



 第一機動隊長の与野警視正から「オブザーバーとして見学されるということで良いですね」と確認された俺たち……要するに邪魔しないで引っ込んでろって事ですね?


 日本国内においては外国政府による法執行権限はありませんよ〜と釘を刺された形のエマ園長は落ち着いて淡々とした応対で返答を返していく。



「……そうですね、私たち三人はアメリカ政府に所属する者ですし、直接テロリストに対応するのは適切ではないかもしれませんね。


私もさっき上司から『第一機動隊に協力せよ』と指示を受けただけなので協力するにしても隊長さんである与野警視正のご指示に従います。


協力せよというアメリカ政府による指示の趣旨は我々の持つ特殊能力が役に立つだろうということ、具体的に言えば、我々の能力によって安全に、確実にテロリストを制圧できるであろうということです」




 与野警視正たちはジッとエマさん(ウイッチ2)の話を聞いている。



「まずは、テロリストの位置情報を共有しましょう。

いま我々は皇居上空を飛行して上空からテロリストの位置と分布を調べました。テロリスト達の分布の中央はこのポイントですね」



 エマさんはスマホを取り出して地図ソフト上の位置情報を指し示す。


 第一機動隊長与野警視正ほかスタッフの機動隊員と皇宮警察の皇宮護衛官がスマホ画面をのぞき込む。



「こんなところがテロリストの巣になってるのか? この辺は遊歩道もないし木々が密集しているうえに下生えが密生していて人なんか入り込めないですよ? ……でも、逆に人が近づかないから潜むには丁度いいのか……」



 常日頃から皇居の警備を担当していて内部の様子に詳しい皇宮護衛官がコメントを発する。


「この位置情報に間違いありませんよ。ちなみに武道館近くにいたテロリスト1名、そして新宿歌舞伎町にいたテロリスト2名の位置情報をアメリカ政府が日本政府に伝達できたのは私たちの特殊能力で把握したからです」


「ああ、なるほど……武道館の彼は確かにテロリスト……『死霊使い』であったことは本人からの事情聴取の結果、間違いなかった」



 与野警視正は武道館のテロリストが「死霊使い」であることの確認が取れていることを口にした。

 エマ園長は説明を続けていく。



「我々は皇居の中に潜んでいる50体ほどのテロリスト……の動きを阻害して抵抗できなくする特殊能力も持ってます。

ただし、最大でも30分間ほどしか持続できませんので素早く拘束する必要があります」


「……上からの指示でもテロリストとは異世界から侵入した敵性生命体であるとの情報を得てています……

敵の動きを阻害して抵抗できなくする特殊能力ですか……なるほど、それは助かります、実は我々も困っていたのです。上からはテロリストを拘束せよと簡単に指示されて現場に丸投げしてくるけど、正直言って、そんな訳の分からない正体不明の敵にどうやって対抗すればいいのか分からんのですよ……」



「そうですね、警視正のお立場お察しします。それでですね……敵は厄介な能力を持っていて恐らく人間や動物を自分の仲間というか下僕のにしてしまうことが出来ます。この能力の詳細は分かっていないんですが、間違いありません。だから極めて危険なんです……


ただ、私たちはここに来る前に新宿御苑に潜伏していたテロリスト4体を殲滅してきました。

たとえ拘束できない場合でも殲滅して処分することは十分に可能ですから大丈夫です安心してください」



 与野警視正とスタッフの機動隊員たちは顔を見合わせる。



「……ウイッチ2さん、どうすれば危険を回避できますか?」


「多分ですけど、私たちの能力で行動を阻害している間に体をしっかりと拘束して、口には猿轡、目を目隠しして完全に、しっかりと覆えば危険を回避できると思います。拘束後も決して気を抜いてはいけません。事情聴取なども細心の注意を払ってください」



「分かりました。ウイッチ2さん達の特殊能力でテロリストたちの動きを止められるなら本当に助かります。是非協力してもらえますか?」







 その後はエマさんと与野警視正が打ち合わせをしている間、暇だったのでスマホで例のアメリカ大統領緊急記者会見の記事をチェックしていた。

 エマさんの予想どおり、ロシアにある宇宙間ゲートが別宇宙と接続されていて凶悪な敵性生命体が地球に侵入していることが明らかにされた。

 侵入している敵性生命体の位置について一部把握できており、その対応に当たっていることも明言された。これ、どう見ても東京のことだよね? 


 この状況を受けて米軍は全世界で警戒態勢に入ったこと、あらゆる部隊、兵器の使用を選択肢に入れたこと、関係国、特にロシア、中国、北朝鮮、日本と緊密に情報交換と協議を行っていることも説明された。


 ……なんか、メチャクチャ大変なことになってるみたいです……






【357日目 11月1日 午前2時半頃 皇居乾門内側第一機動隊現地本部】



 打ち合わせが終了してテロリスト制圧作戦が開始される。


 作戦開始前に与野警視正は警視庁警備部に報告していたんだけど、アメリカ大統領の記者会見の内容を聞いたんだろう、顔色が真っ白になっていた。


 顔色蒼白の警視正を見たエマさんが、

「警視正、大丈夫ですよ、安心してください! 異世界の敵性生命体とはいえ、私たちはすでに制圧・殲滅した経験がありますから! ちなみに敵性生命体ってのはゾンビです!」とか、

「警視正、日本警察の歴史に名を刻めますよ、初ゾンビですよ?良かったですね! Wikip○○diaにも名前が載りますよ!」

などと励ましてるのか馬鹿にしてるのか分かんない発言をしていた。





「ブレイバー、ダークロード! これよりゾンビ制圧作戦を実施する! 作戦は単純である!

ゾンビの分布の中心上空に飛行して進出、その後に高度5m程度まで降下。諸君二人で『結界5』を発動、効果範囲外にゾンビが居ないことをだいたい確認出来たらアタシ、ウイッチ2に報告すること!

ウイッチ2が与野警視正にゾンビの行動阻害を携帯電話で伝達するから即座に機動隊が一斉に突入してゾンビ共を拘束する!」



「「「はい! 了解しました!!!」」」



 俺たちと機動隊員たち全員が力強く返事をする。



「与野警視正、ゾンビの拘束はどんなに長くとも30分以内でお願いしますよ?」


「ウイッチ2殿、了解した。みんなも分かったな?」


「はい隊長!!!」


「よろしい、では作戦を開始する! ではウイッチ2殿、よろしくお願いします」





 俺たちはエマさんの「出撃」の声で飛行神器をアイテムボックスから取り出すと空中にスーッと上昇していく。

 与野警視正以下の機動隊員はポケ―っとした顔で俺たちを見上げていた。



 高度20mくらいに達したところで水平飛行に切り替える。目的地までは200mくらいなのであっという間。俺は聖剣を取り出してゾンビ位置を確認しつつ飛行する。





「ウイッチ2、このあたりですね。ダークロード、このへんで降下をすれば丁度いいよ。『隠密1』『探知1』『暗視1』『筋力1』『耐衝撃性1』を発動! 降下開始!」



 俺たち二人は徐々に高度を下げて森の林冠部を抜けて木々の間に侵入していく。新宿御苑の森とは比較にならない枝の密度。木の枝や葉っぱを掻き分けるようにして降下を続ける。ウイッチ2(エマさん)も若干遅れて追随してくる。



 暗視1の効果で暗い夜の森の中でもはっきりと視界は確保できている。そろそろ一番近いゾンビに会敵するはずだけど……



『いた! 人型が1,2,3体! 鳥型は……おお、森の木の枝いたるところに止っていやがる!』


『おおお! ホントだ御子柴君! カラスが大量に木に止まっているよ!

で、地表には人型のゾンビが3体ね。どんな人をゾンビにしたのかーーステータス! 


……なるほどなるほど、元はただの人間か、死霊スキル以外は魔法もスキルも持ってない……新宿歌舞伎町で暴れていた奴等とおんなじだね。

しかし、こいつ等ピクリとも動ない彫像みたいだ。やっぱ心が無いんだろうか?』


『さあ?どうだろ?」



 俺も人型ゾンビのステータスを見てみる。



名前 ー 

種族 ゾンビ(男性) 

年齢 52歳  体力G  魔力F

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 ゾンビ 死霊使いの眷属

   宮内庁職員


名前 ー 

種族 ゾンビ(男性) 

年齢 32歳  体力G  魔力F

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 ゾンビ 死霊使いの眷属

   宮内庁職員


名前 ー 

種族 ゾンビ(男性) 

年齢 45歳  体力G  魔力F

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 ゾンビ 死霊使いの眷属

   宮内庁職員



 三人とも宮内庁の職員……造園用と思しき農業用作業服装を着ているから皇居敷地内で死霊使いかゾンビの毒牙に掛かったのかな、気の毒に……




『二人ともステータスの確認は良いよね。さっそく「結界5」を使ってちょうだい』



 俺たちは「結界5」を発動する。結界の効果範囲、直径32mの仄かに輝く球体が生み出されて人型ゾンビ、カラス型ゾンビを直撃する。


 あっという間に人型ゾンビは支えを失ったように下生えの草の茂みの中に倒れこみ、カラス型ゾンビは木の枝に止まったままの姿勢で細かく痙攣を始めてよだれを垂らして白目を剝いた。


 エネミーサーチをかけてみるも効果範囲外からはみ出しているゾンビは居ない。念話でウイッチ2に報告すると直ぐに警視正に電話をかけて機動隊員突入を要請した。





 俺の「光魔法」によって高度20m付近に浮遊させた超明るい光源を目標にして機動隊員が接近してくる。密生する下草を掻き分けながらなので隊員が現地に到着するまでに10分くらいかかった。




 現場に到着してゾンビカラスと人型ゾンビたちを次々と拘束していく機動隊員たち。

 ゾンビカラスは頭を厚手の布で包んで結束バンドで締め上げる。胴体も大型結束バンドで複数箇所を締め上げて翼の自由を奪って二本の足もまとめて結束バンドで固めてしまう。

 機動隊員の皆さんは、カラス達の首を結束バンドで〆ちゃうと死ぬんじゃないかと心配してたけどウイッチ2が「大丈夫、ゾンビなんだから既に死んでるから。ある筋の情報によるとゾンビと死霊使いは消滅させない限り滅びないらしいから遠慮なく締め上げてね?」と言って安心させていた。









 結局、作戦開始から一時間くらいかかって人型ゾンビ3体、カラス型ゾンビ47体の制圧と捕獲に成功した。これは人類のーー日本警察の大勝利といえよう。与野警視正の表情も明るい。良かったですね……



 更に30分ほどかかって乾門の内側の機動隊現場本部まで戻ってこれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る