第89話 新宿御苑の森

【357日目 10月31日 午後11時半頃 歌舞伎町上空】



 飛行を開始したエマ園長、ミラ副園長、私、茜ちゃん、伊集院君、御子柴君の6人は新宿歌舞伎町の夜空を上昇していく。上空200mくらいになったところで一旦停止して周囲を見渡してみる。南の方向1kmほどのところにある巨大な緑地が新宿御苑だ。


「御子柴君、改めてエネミーサーチでゾンビの位置を調べてくれる?」



 御子柴君はアイテムボックスから素早く聖剣を取り出すとエネミーサーチを発動、新宿御苑の北側森林辺りを示すことを確認する。上空からだとだいたいの位置が分かって便利。



「よし、ゾンビの方向に向かって飛ぼう。御子柴君、先導して!」


「了解です!伊集院君、隣に来てくれる? ヤバかったら速攻で討伐ね。人間タイプだったら手足を吹っ飛ばしてね」



 御子柴、伊集院コンビの先導で新宿御苑に向かう私たち6人。新宿御苑北側にある森林までは1kmも無いと思う。5分ぐらいでゾンビの潜んでいる森林上空に到達した。



「みんな、俺がエネミーサーチをかけながら接近します。伊集院君、悪いけど俺の前でM4カービンの隠蔽障壁を展開してくれる? 俺、聖剣もってるから手が塞がってるから」


「うん、分かったよ御子柴君」



 伊集院君が御子柴君の指示を受けながら私たち6人の先頭になって降下していく。御子柴君以外の全員は既にM4カービン型携行神器の隠蔽障壁を展開している。


 新宿駅から目と鼻の先にあるにも拘わらず新宿御苑の北側にある森林は漆黒に包まれている。



『ここからは念話で。暗いから暗視も発動しておきますよ……』




 御子柴君と伊集院君が森の中に侵入していく。後に続く私たちも更に高度を下げて森の木々の林冠部の中に入っていく。ゾンビどもめ、どこに居るのか……

 木々の枝を慎重に避けながらターゲットに近づいていく。




『……見つけました。遊歩道の脇の茂みに固まっています。寝てるのかな? ジッとしてますね、カラスタイプです。どうします?』



 御子柴君の指し示す方向には茂みの中にジッと羽を休めている丸々と太った羽艶の好いカラスが4羽。

 暗視を通しての視界なので色は良く分からない。どうせ黒だろうけど。しかしこっちに全然気づいてないね、もうちょっと近づいてみるか。よし、ステータス!



名前 ー 

種族 ゾンビ カラス(男性又は女性) 

年齢 0歳(カラス 2~3歳)

体力 G

魔力 G

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化E ゾンビ修復E

   ゾンビ再生E ゾンビ強化E

称号 ゾンビ 死霊使いの眷属



 なるほど。4羽ともゾンビカラスだ。



『伊集院君、私が一番手前のカラスを神技「物質創造」を使って拘束するから残りの3羽は始末してくれる? 浄化4を直撃させれば良いと思うよ』


『アリスさん、3羽とも浄化で始末するんじゃなくて闇弾と火弾も試してみませんか?』



『じゃアタシが火弾使うんで、ミラ副園長が闇弾お願い。手前からアタシ、副園長、伊集院君で』



 伊集院君の提案に対してエマ園長が三羽の担当と攻撃魔法の種類を割り当てていく。では行きますか。



『物質創造ーーケブラー繊維』



 一番手前のゾンビカラスの周囲にケブラー繊維が出現してぐるぐる巻きにしていく。

 伊集院君が放った「浄化4」の直撃を受けたゾンビカラスは瞬間的に白化したかと思うと白い微粒子となって崩壊していった。微粒子のほとんどは緩やかな風に乗って拡散、一部がゾンビカラスがいた場所にうっすらとした白い痕跡を残した。

 浄化すげー。ゾンビに対する特効えげつないわ。


 エマ園長の放った火弾が着弾したゾンビカラスは瞬間的に青白く輝いたかと思うと消滅していた。ゾンビカラスがいた場所には白い煙が漂っていて緩やかな風に運ばれて森の中に消えていく。有機物が高火力で燃焼した死を暗示する臭い……吐き気がするなー。しかし相変わらず火弾って恐ろしい。


 一方ミラ副園長の放った闇弾が着弾したと思われるゾンビカラスはかき消すように居なくなった。ゾンビカラスの身体のほとんどが闇の効果によって亜空間に吹き飛ばされたということか……

「闇弾4」の効果範囲は直径16cmの球状空間内部、身体全体が消滅したなら効果範囲が直径32cmである「闇弾5」かな?



『ミラ副園長、闇弾の効果範囲に入りきらなかったゾンビカラスの身体の一部がその辺に落ちてるかもしれないからいちおうチェックしておいて。ゾンビだからばっちいと思うから気を付けてね?』



 私の指摘に対してミラ副園長は心の底からの嫌な顔をした。ミラちゃんはゾンビみたいな気持ち悪い系は大嫌いだ。



『しまった! 闇弾4だと効果範囲から外れる可能性があったか! 失敗した、闇弾5か闇弾6にすればよかったな……』



 ミラ副園長はゾンビカラスがいた場所の辺りに片っ端から「浄化」を撃ち込みはじめた。



「ギャーギャー!  ギョギョギョ!」



 拘束されたゾンビカラスがとんでもない勢いで叫びまくっている。うるさいなー、さっそく試してみるか。



『じゃあ、拘束したコイツで確かめてみるよ。まず、睡眠5……

続いて恐怖5……

次には嘔吐5! 


……やっぱ効かないね。茜ちゃん、麻痺5を試してくれる?』


『りょーかい、麻痺5……

ダメだね。じゃあ、ついでに動物調教5……

最後に魔獣調教1!……

ダメだ、何一つ効果ないよ?』


『……魔獣調教くらいは効いても良いと思ったけど効かないか。精神攻撃系の魔術は何一つ効かない、と』



 改めてケブラー繊維で拘束して茂みに転がっているゾンビカラスを観察してみる。さっきからゾワッ、ゾワッとする感覚があるので精神攻撃を繰り出してきているのだろう。コイツが持っている「ゾンビスキル」のうちの「ゾンビ化」かな?



『じゃあ、引き続き記憶サルベージを。精神構造干渉ーー記憶サルベージ』



……


……



『ーーああ、ダメだ。言葉を話せないカラスだから思考が理解できない。コイツの思考がサッパリわからない。視覚情報も直近の半日くらい、この茂みでジッとしているときの記憶しかない。ダメだね。

でも、死霊使いと同じで精神構造干渉、生命体干渉および時空間操作を使って元のカラスに復元できるだろうことは分かったよ。ゾンビカラスをただのカラスに戻す手間と神力が勿体無いからやらないけど。

やっぱ、危険が無い限りは人間タイプのゾンビは無力化して亜空間ルームに捕獲する必要あるかなーー』



『なるほどねーーだいたい分かったならそのゾンビカラスどうする? 始末しようか?』


『ミラ副園長ちょっと待って。いままで何の役に立つのかイマイチ分からなかった「結界」を試そう。何か効果あるかもしれないから』


『分かった。じゃあアタシが使って見るよ。アリスちゃんは効果の観察と指示をお願いーー結界3』



 ミラ副園長が発動した「結界3」の効果で直径8mの球状範囲がほのかに光り出す。いままでは何の効果があるのかイマイチ分かんなかったんだよね。「浄化」みたいに殺菌とか洗浄効果があるわけじゃなかったし。



 「結界」の効果範囲に入っている拘束されているゾンビカラスを見ると、さっきまでギャーギャー泣きまくってたのにぐったりと、口から涎をたらしながら痙攣している。

 ほほう。効果範囲のゾンビには、それなりに有効な精神攻撃、「恐怖」とほぼ同様の効果を及ぼす……のだろうか?



『拘束しているとゾンビカラスがどのくらい影響を受けているのか分かりずらいから拘束を解除するよ? はい、解除した。ほとんど動けないみたいだね。

ミラ副園長、段階的に結界のレベル落としてみてくれる?』


『……了解、結界2』



 結界の効果範囲が直径4mに縮小される。精神攻撃の効果は変わらないようだ。



『結界1』



 効果範囲が直径2mとなる。精神攻撃の効果は変わらないようだ。



『アリスちゃんどうする?』


『結界を解除してみよう。どのくらいの速度でゾンビカラスの精神状態が回復するのか見てみたい』



『わかった。結界停止!』



 ミラ副園長の「結界」の発動が停止されると仄かに光っていた効果範囲は消滅して辺りは暗闇に包まれる。

 ゾンビカラスは5秒くらいのあいだ痙攣していたけど突然激しく動き出して空中に飛び上がったと思ったら凄まじい速度で森の中から飛び出していった。



『あ、伊集院君、お願い!』



 私が伊集院君の方を見て念話でお願いすると伊集院君は即座にM4カービン型携行神器を構えて「浄化4」を3連射したけど高速飛行で逃亡するゾンビカラスには命中せず。すかさず空中に飛び上がると「反応速度」を発動しつつ高速飛行してゾンビカラスを追跡。20mくらいまで近づいてから「浄化4」を直撃させて討伐してくれた。伊集院君は私たちから100m以上離れてしまった。


 私が伊集院君に転写してあげた攻撃魔法は無誘導の魔法弾だからね。「魔王」として元々保有していたスキルも私が居た「異世界イース」タイプのファンタジーA型標準宇宙のものだった。

 この無誘導魔法弾は秒速800m以上の弾速で重力や風の影響を受けず直進するんだけど高速で機動する目標だと命中させるのは難しいか。クレー射撃とかも難しそうだもんね、やったことないから分かんないけど。

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