第90話 皇居へ
【357日目 10月31日 午後11時55分頃 歌舞伎町上空】
ゾンビカラスを始末し終わった伊集院君が戻ってきた。
『アリスさん、ちょっといいですか?』
御子柴君が声をかけてきた。
『うん、いいよ?』
『ここに居たゾンビカラスはもともとただのカラスだったんでしょうね、俺達みないな魔法やスキルを持ってなくて死霊スキルしか持ってませんでしたーー』
『そうだね』
『で、皇居方面にいる50体以上のゾンビって、たぶんほとんどがゾンビカラスだと思うんですよ。人間を50人もゾンビにしたら大騒ぎになってるでしょうから……』
『そうかもしれないね』
『提案なんですけど、二手に分かれませんか? 俺と伊集院君で皇居方面のゾンビ50体を始末。ゾンビを始末次第俺たちはアリスさん達を追いかけます。
で、アリスさん達4人は北西方向に移動している死霊使いを追跡して討伐または捕獲。この死霊使いには強化カモメが追随しているので彼らが身に着けている「魔法を使えるようになる淡く輝く球体」の場所を茜さんの「お宝探知」で探知できますから追跡できますよね?』
『なるほど、それもそうか。でも御子柴君たちが高校生二人だけってのは心配だな。エマ園長が御子柴君たちの責任者、指揮官として行くならそれでも良いかな?』
『アリスちゃん、アタシは伊集院君たちについていって責任者として指揮してもいいけど、死霊使いを追いかけるのどうやって追いかけるの?』
『そうそう。アタシも疑問だったんだけど、魔力を結構消費してるし、もうあんまり「飛行」は使えないと思うのよね。「お宝探知」の感じだと、死霊使いとはかなり距離が離れてしまってる感じなのよ。ここから木更津よりも随分と遠いと思うよ? だから、速度もそれなりに出てると思うのよ。追いつけるかな?』
『……じゃあプロトタイプだけど、箒型飛行神器を使う?
いちおう、使徒の人数分は作ってあるんだよね。高度を取って慎重に使えばぶっつけでも大丈夫だと思うよ。これを使わないと追いつけないから頑張って使えるように慣れてもらおう』
私は亜空間ルーム開口部を展開すると「箒型飛行神器」を取り出してみんなに見えるようにして説明を始める。
「歌舞伎町の高層ビル屋上で見たから知ってると思うけどこれが箒型飛行神器だよ」
みんなはウンウンと頷いてくれている。
「外見はハロウィンコスプレ用の箒そのまんまなんだけど軸の中に神器が仕込んであるんだ。
『ベクトル操作』によってこの箒と箒を持ってる人の速度を改変するという機能があってーー要するに飛べるということだね。アメリカ政府に供与した飛行神器テトラへドロンを個人携行用に使い易くしたものと思っていいよ。
理論上は速度はいくらでも上昇できるしたぶん音速を超えることもできるけど高速飛行特性が検証されてないし、事故った時が怖すぎるから最高速度は時速120km程度にリミッターをかけてある。
それでも鳥とか他の飛行ドローンや航空機なんかの飛行物体、高層建築物、高圧電線なんかの空中架線と空中衝突したら即死しかねないので注意なんだ」
みんなの表情を窺うと真面目に、真剣に聞いてくれている。
「この箒のどこかを持っていれば魔力で操作できる。箒に触れている人や物の速度を改変するので加速Gとかは感じないよ。飛行中は『飛行8』を魔力なしで発動して自分自身の落下速度を低下させてくれる? そうすれば箒にまたがっていてもお尻が痛くならないし疲れないよ」
「飛行」は魔力消費なしで発動させると自由落下速度を著しく低下させる。「飛行8」の場合は落下速度が秒速6センチメートルを越えないので箒に長時間またがっていても疲れないというわけ。
「飛行」のこの性質のお陰で「飛行」中に魔力切れになっても墜落事故にはならない。魔力切れで落下する時は『飛行』のレベルに応じて落下速度が緩和されるからね。
例えば「飛行1」の場合は、落下速度は秒速8mを超える事がなく、2階から飛び降りるくらいの速度となる。「飛行5」だと落下速度は秒速0.5mを超えることはない。魔術「飛行」に組み込まれたフェールセイフ(安全)機能なんだ。
ザックリとした説明だけど、実際に使って見て体験してもらった方が早いと思うので亜空間ルームから試作品の箒型飛行神器を4本取り出して一人づつ渡していく。
みんなに渡したの私が使ってる外見がまるっきり箒のハロウィン仕様ではなくて何の装飾もついていないただの棒。長さ2mくらいの物干竿だけど、機能的には私のとまったくおんなじです。余計な装飾が無い分使いやすいかも?
「じゃあ、右手で飛行神器を持って魔力を少量込めて操作してみて。少量の魔力であれば飛行神器がゆっくりといろんな向きと速度で動き回るから感覚がつかめると思うよ」
私の指示に従って5分くらい弄繰り回してもらったので、いよいよ飛行神器に跨ってもらう。
「みんなには飛行神器に跨って『魔力供給なしの飛行8』を発動しながら飛行神器を操作してもらいます。
最初はごく弱い魔力で上昇してみて?」
みんなが飛行神器に跨ってゆっくりと上昇していく。みんなの様子を確認しながら私も箒型飛行神器に跨ってゆっくりと上昇する。そうそう、障壁のことも言っとかないと。
「みんな、飛行神器の前方から風防用の障壁を展開できるから試してみてね?」
♢
……皆を見てると、意外と簡単に習得できてるみたい。
そういえば、みんな「飛行」を使った空中機動を散々経験しているし「飛行8」を魔力供給なしとは言え発動しているので空中感覚が飛躍的に強化されている。あんまり心配しなくても良かったか。
思い思いに飛行訓練をしているので500m以上離れてしまっている人もいる。
距離が離れてしまってるから念話も通じないので操作練習に満足するか飽きるまでは集合させることも出来ないな~
更に10分くらいすると一人二人と私の周りに集まってきてくれた。最後にミラ副園長が来て全員がそろったのでいよいよ二手に分かれますかね。
「じゃ私と茜ちゃんとミラ副園長で死霊使いを追跡します。
エマ園長、御子柴君と伊集院君をよろしくお願いします。あんまり無理しないで、気をつけてくださいね」
「了解、任せて。ゾンビを始末したらアリスちゃんを追いかけるからね。ミラ副園長、アリスちゃんと茜ちゃんを守るんだよ? 気をつけてね」
エマ園長に向かって頷いた私は死霊使い追跡を開始する。
「じゃ行こっか。茜ちゃん、先導お願い。エマ園長、行ってきまーす!」
♢♢♢♢
新宿御苑上空100mぼどのところの空中でアリスさん、茜さん、ミラ副園長の三人と分かれた俺たちはエマ園長の指示に従って皇居方面にいるゾンビおよそ50体の討伐に向かう。
「御子柴君、エネミーサーチでゾンビ位置の特定よろしく。さっきとおんなじ感じで伊集院君と二人で先導してくれる? あたしは10mくらい後を追随するから」
「分かりました。伊集院君行こうか。俺が聖剣を使いながら先導するから斜め右後方からついてきて。いちおう念話で方向や増速・減速を指示しながら飛びます」
俺は右手に聖剣を持ってエネミーサーチを間断的に発動しながら皇居方面、東の方向へと飛行を始めた。
エマ園長が言うには、俺たちの真下を東に伸びている国道20号線、甲州街道から続く新宿通りを直進すれば皇居の半蔵門にぶち当たるらしい。距離はおよそ3.5km。
上空から見ると国道20号線は走行する車の白色のヘッドライトと赤色テールランプが光の河のようにゆっくりと流れていて非常に分かりやすい。皇居まではほとんど一直線だ。
時速60kmくらいの速度で飛行しているとやがてJR四ツ谷駅上空を通過。右には迎賓館、赤坂御用地があって人工照明のない黒々とした空間となっている。
東京って新宿御苑と明治神宮、赤坂御用地そして皇居と広大な緑地が数珠つなぎに広がっている。都会なのに緑が多いよね、などとエマ園長がお喋りして教えてくれる。なるほど、勉強になるなー。
3分間ほどの飛行で皇居半蔵門の直上に到達した。ちょっと打ち合わせしよう。スマホをポッケから取り出して地図ソフトを起動する。右手で聖剣、左手でスマホを見ながらゾンビの居る方向を調べる。
「ふーむ。どうやら皇居の北側、乾門と大宮吹上御所って所の中間の森の中みたいですね」
伊集院君とエマ園長がピッタリと隣りに寄せてきていて俺のスマホを覗き込んでいる。
「大宮吹上御所って天皇陛下がいらっしゃるところじゃん。不浄なゾンビどもめ、恐れ多くもなんたる不敬な……」
アメリカ人のエマ園長が天皇陛下に対する不敬に怒りを表している。
「御子柴君、50体のゾンビって密集してる感じなの?」
伊集院君の問いかけに改めて聖剣から伝わってくる敵の存在を探ってみる。
「……うん、密集してるね。直径20〜30mの円内に入ってる感じかな?」
「ちょいまち。コリンズさんに報告する。電話するから待ってて」
エマ園長がスマホをクルリと取り出して電話をかけ始める。
『……あーコリンズさん? 今電話いいですか? あたしたち今皇居半蔵門の上空なんですけど。
……そうなんです。二手に分かれて。
……それで御子柴君のエネミーサーチによると皇居乾門と大宮吹上御所の中間の森にゾンビ50体が潜んでいるようです。
……そうです、皇居の中ですよ。で、今から突入して殲滅しようと思いますけどーーもちろん人間タイプだったら手足を吹っ飛ばす感じで無力化しますけど人間じゃないならサーチアンドデストロイで殲滅です。
……なるほど。天皇陛下はじめ関係者は第一機動隊が死霊使いの包囲を開始した時点で赤坂御用地に避難されていて危険はないと。了解です。
……わかりました。いちおう日本政府に通報するから待てと。
……皇居ですからね。歌舞伎町とは扱いが違うか、了解です。半蔵門上空でスタンバイします。ああ、アリスちゃんから試作品の飛行神器を全員がもらっていて空中待機していても魔力の消費はほとんど無いですよ。それでは』
「御子柴君、伊集院君。聞いてた通り、日本政府に通報するからスタンバイだって。もしかすると一時間くらい掛かるかもね! 使ってる魔術は全部解除して魔力回復に努めるよ! 考えようによっちゃちょうどよかったかもね」
という訳で俺たち三人は皇居半蔵門上空100mで空中待機することになったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます