第88話 歌舞伎町の戦い(3)

【357日目 10月31日 午後11時頃 歌舞伎町高級キャバクラ「高目」エントランス】



 武道館方面の対処をしていたコリンズさん、ミラ副園長、伊集院君の三人と合流した私たちは簡単に情報の共有とすり合わせを行った。

 いちおう、周りには機動隊の人たちがどんどん集まりつつあるので「念話」を使って関係者以外に聞かれないようにはしている。




 話し合いの結果、当面は武道館近くのマンションから北西の方角に離脱しつつある死霊使いを追跡して討伐または捕獲する必要があることを確認。

 恐らく、日本国内においては残りの死霊使いはこの1体のみ。北海道や沖縄なんかの遠方だとエネミーサーチの探知範囲を遥かに超えてしまうからはっきりとはわかんないけど。


 そして死霊使い以外にも死霊使いの眷属であるゾンビが居る。勇者御子柴君の「エネミーサーチ:ゾンビ」をさっそくかけたところ、新宿御苑方面に4、武道館もしくは皇居方面に50以上! 存在することが分かった! これの対応は優先して行う必要がある。



 そんなこんなで我々が雑居ビルのエントランスで意見を交わしていると私がさっき「治癒」で復活させた警視庁の大宮警部が声をかけてきた。

 私たちは念話で会話しているから傍から見ると何にも喋らずにジッと突っ立っている異様な集団に見えたかもしれない。



「あの、すいません、私は警視庁警備部に所属している大宮警部というものです」



 そういいながら、3人の警察官を伴って近づいてきた。

 服はボロボロになっていたけど着替えを準備する暇がなかったんだろう、腰に警察官の活動服を巻いて上半身裸、靴はどこから持ってきたのか安っぽいスニーカーを履いている。

 私が回復させたほかの二人、警視庁第五機動隊の山田巡査部長と新宿警察署の佐藤警部補も似たような恰好で後ろに控えている。



 私はコリンズさんに視線を向けて念話で「お任せしますのでヨロシク!」と言っておく。

 コリンズさんは普段から在日本アメリカ大使館特任公使、アメリカ海兵隊大将、そしてアメリカ政府が日本政府に供与している「永久発電機」とか「亜空間ルーム」など特殊アイテムの日本における交渉窓口にもなっていて、今では日本政府内の省庁の中枢はおろか主要閣僚、場合によっては官房長官や総理大臣とも面会できるポジションにある。


 今日の死霊使い対応においてもアメリカ政府からの情報提供、東京新宿区及び千代田区の緊急事態宣言発令に大きな役割をはたしている。という訳で日本政府、警察・消防・自衛隊など法執行機関や軍隊的組織との交渉はコリンズさんに丸投げするのだ。



「ええ、大丈夫ですよ。私は在日本アメリカ大使館特任公使、合衆国海兵隊大将のオリバー・コリンズです」


「……もしかして、あなた方はアメリカの特殊能力者なんでしょうか? いや、機密事項なのでしょうからその場合はお答えいただかなくても結構です。まずは、私ども三人の怪我を回復していただいたんですよね? ありがとうございます」



 怪我を回復というか、死んでたんだけどね、三人とも。

 コリンズさんはちょっとだけ思案した後に言葉を発した。



「まず、我々の中に合衆国政府に所属する特殊能力者がいることは事実です。ただし、誰が特殊能力者であるかを開示することは出来ません。

それから、あなた方を回復させたのは特殊能力者の能力の一つであることも間違いありません」


「なるほど、了解です。で、この現場における経緯と潜伏していた死霊使いの行方、さっき女性を人質にとって暴れていた者たちの身柄や火炎を生み出した者の行方について情報を提供していただきたいんですが……」



 大宮警部の申し入れに対してコリンズさんは私に念話で相談する。



『アリス様、私からの情報提供やアメリカ政府からの働きかけによって日本政府は東京の一部地域に緊急事態宣言を発して機動隊を出動させています。

武道館方面では我々の存在は気付かれませんでしたけど、ここ歌舞伎町では我々がゾンビや元死霊使いを制圧するところを警官や一般市民にハッキリと目撃されていますので日本政府、警察組織に対してケアする必要があります。

要するに逃亡している死霊使いの追跡、皇居などに居る大量のゾンビの対処の件もありますから私が警察、日本政府との窓口になって対応した方が良いかと。

日本政府との連絡要員になる感じですけど日本政府に筋を取す意味で必要なことですし、かえってやりやすいと思うんですよね。どうでしょう?』



 ……確かに。コリンズさんの言うとおり日本政府との窓口にコリンズさんがいてくれれば助かる。私は日本政府と敵対したいわけでも協力したくないわけでもないからね。

 それにロシアにあるゲートを通じて死霊使いが日本にまでやってきている。リーナさん情報だとロシアじゃあ政府中枢に入り込んでいるらしいし。

 こんな状況なら私の正体の一部、アメリカ政府が知ってる程度の情報は日本政府に漏れたってかまわない。どうせ、あと一カ月くらいしたら神としてレベルアップできるし。

 そうなったら今使ってるこの依り代「アリス・コーディー」を全面的に改変することも出来るし……でもこのアリス・コーディの依り代は気に入ってるんだよね、できればアリスのままで居たいな……




『そうだね、その方がいいかも。じゃあ、そんな感じでお願いできますか?』



 コリンズさんが大宮警部に今までの経緯を説明している間に北西の方角に逃亡している死霊使いと皇居(一部は新宿御苑)のゾンビをどうするかみんなで検討を加える。



「死霊使いにしろ、ゾンビにしろ位置の特定には御子柴君のエネミーサーチが必要だから順番に対応するしかないよね?」



「うん。俺のエネミーサーチでだいたいの場所を絞り込んで怪しい奴を鑑定すればいいから。だから優先順位の問題だよね」


「ならこっから近い新宿御苑で4体を始末して、皇居方向の50体を始末するのがいいんじゃん?」



 勇者、魔王、女盗賊の三人の会話を聞いていたエマ園長が口を挟む。



「リーナさんのSNSメッセージだとカラスのゾンビが居るらしいよ。人間ゾンビの場合は無力化して亜空間ルームにぶち込んで後でアリスちゃんに治してもらう、でいいと思うんだ。ゾンビのカラスはサーチ&デストロイでいいよね?」


「あ、ゾンビ人間の場合は無力化して人間に戻すんだった、危ない、危ない、異世界の感覚で浄化か闇弾で消滅させようと思ってた。僕の攻撃魔法の射程は500m以上あるからサクッと殲滅しようかと」


「ううっそれを言われると。アタシはさっき歌舞伎町で吸血鬼伯爵だった正体不明の火魔法使いを討伐しちゃったよ……」


「いやいや茜さん、あの時は俺が不用意に敵の目の前に不用意に突っ立ってたからで、あそこで茜さんの攻撃がなければ俺は死んでたかもしれません」



「じゃあさ、伊集院君の言うとおり、最初に新宿御苑、次に皇居方面。北西方向に逃亡している死霊使いは最後にしようか」


「アリスちゃん、北西方向に逃亡している死霊使いには強化カモメ2羽が追跡していると思うの。『神託』を使って強化カモメに指示して足止めとかできないかな?」


「え、そうなの? 強化カモメが2羽? 

だったら、うーん、状況が分からないからダメもとだけど、なんか指示してみるか。


神託ーー強化カモメ達! 死霊使いを追尾しているカモメ2羽は『浄化4』を使用して死霊使いの手足を攻撃

死霊使いを足止めせよ!ーー


これでどうかな? しばらく様子を見てみよう。

っていうか、強化カモメが追随してるなら茜ちゃんが死霊使いの位置を特定できるじゃん。なら2チームに分けよう。

私と茜ちゃん。それから、追随している強化カモメは誰のカモメ? 伊集院君のだったら伊集院君も一緒に行こう」



 コリンズさんの方を見ると大宮警部との話し合いは続いてる上にどっかに電話を始めた。コリンズさんはここに残して残りメンバーで新宿御苑に行ってゾンビ4体を始末するか。



「みんな、コリンズさんは警察と政府対応を引き続きやってもらうから私たちだけで新宿御苑に行こう。飛行を使いたいけどどうしようかな……」



「アリスちゃん、アタシが先導するから後についてきて。渋谷から赤坂の大使館に飛んだ時のやり方で行けばいいよ」


「そう? じゃあエマ園長の後についていくからヨロシク」




 エマ園長、ミラ副園長、私、茜ちゃん、伊集院君、御子柴君の5人は雑居ビルのエントランスの奥に入って周囲から見えない場所に着くなり「隠密」「気配察知」「飛行」を発動、新宿御苑に向かって飛行を開始した。


 飛行を開始した私達は新宿歌舞伎町の夜空を上昇していく。上空200mくらいになったところで一旦停止して周囲を見渡してみる。南の方向1kmほどのところにある巨大な緑地が新宿御苑だ。



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