第85話 勇 者(2)

【357日目 10月31日 午後10時頃 歌舞伎町上空】



「ではさっそく。エネミーサーチ!」



 聖剣は、もの凄い勢いで斜め下の方向をビシッと指し示した!



「うわ、ビックリした! これはかなり強い反応だわ。俺と茜さんが飛ばされた異世界にいた魔王に匹敵するかも?」


「マジで? 御子柴君、それってヤバくない?」


「うん、ヤバいかもね。しかも死霊使いは2体居るね。聖剣の反応からすると、ごく近いところに2体いる感じ。しかも、高層ビルの屋上からだから場所もだいたい特定できるよ、あのビルだと思う」



 俺は南の方向150m位のところにある雑居ビルを指差した。



「そっか、分かった。じゃあ、詳細位置を共有しとこうか。あのビルだね、ちょっと待ってね~  ええと、東京都新宿区歌舞伎町一丁目○□ー△ね。SNSでッセージで位置情報を共有、この○○ビルに死霊使いが居ると思いますよ、住所は……です。はい送信っと」







 高層ビルの屋上ヘリポートの上でターゲットのいる雑居ビルを監視する俺たち。2~3分おきにエネミーサーチを繰り返して動きが無いことを確認する。

 SNSメッセ―ジで死霊使いの位置情報を共有して30分後、歌舞伎町一丁目、二丁目全体を封鎖していた機動隊は徐々に包囲網を狭めて例の雑居ビルを遠巻きにするように包囲網を絞り込んだ。それに伴って機動隊員の密度も上昇して周辺の路地は機動隊員だらけになっている。

 機動隊が包囲して車両の通行は制限しているものの歩行者は封鎖から立ち去る人はフリーパスで通していて立ち入りは禁止にしている。誰が死霊使いなのか特定できないから完全な封鎖のしようがないのだろう。何かあったら即対応するという態勢だね。




 この30分の間にインターネットをチェックしてみると凶悪なテロリストが潜伏しており非常に危険ということで東京都千代田区と新宿区に非常事態が宣言されて機動隊が出動していること、この件についてまもなく総理大臣の記者会見が行われることがトップニュースになっている。

 俺たちが監視している雑居ビルを包囲する機動隊の更に外側には報道関係の中継車が続々と集まってきている。上空にはヘリコプターも飛行している。あれはーー警察のヘリじゃなくて報道ヘリだね。


 動画サイトを見るとテレビ報道の動画が幾つか投稿されていて適当に再生してみる。


『凶悪なテロリストが潜伏しているため北の丸公園周辺は機動隊による封鎖と検問が行われています! 封鎖区域には立ち入ることが出来ません! 封鎖から出る際には身分証の提示が必要ですご注意ください……」』

『政府によると、東京都千代田区に極めて凶悪で危険なテロリストが潜伏しています。該当する地域にお住まいの方、滞在されている方は直ちに避難してください……』



 なるほど、武道館周辺は本格的に封鎖されているんだねミラ副園長、伊集院君ファイトです……


『ピロん!』


「エマ園長、茜さん、SNSメッセージだよ、ミラ副園長から。   なになに、死霊使い容疑者の顔写真、住所氏名等プロフィール……警視庁警察官で警視正! 顔は普通のおじさんだな~」


「ほんとだね、普通のおじさん。歌舞伎町の死霊使いってどんな人かな? いい人そうだったら困るね?」


「いやいや茜さん、悪い人そうでも困ると思うよ? 殺しちゃったら殺人になっちゃうからね、なんとか無力化しないと」


「茜ちゃん、御子柴君、とりあえず攻撃は基本的にはアタシが担当するから。二人にはサポートをお願い。二人とも高校生だからね、攻撃して無力化する場合は手足を吹っ飛ばす感じでいこう。アリスちゃんも言ってたからね、手足ふっとばさないと止められないって。

でも人口が密集した都市部でのCQB(近接戦闘:Close-quarters Battle)だからコラテラルダメージが想定されるので死霊使いに特効がある『浄化』がいいかも。いや、検証が十分でないから避けた方が良いか。確実性なら『土弾4』『土弾5』かな」



 俺と茜さんは頷いた。俺たち二人は異世界において一年にも及ぶ長期間にわたって勇者パーティーを組んで異世界の山野において戦闘行動に明け暮れていた。

 異世界の価値観だと問答無用にサーチ・アンド・デストロイで誰も文句は言わなかったし賞賛されたけど、ここ地球、特に日本ではそういう訳にはいかない。


 高校生の俺たちは大人のエマ園長の指示に従ってサポートをメインにした方が良いだろう。ただし、緊急時にはその時の判断だけどね……







 死霊使いとの戦闘時のシミュレーションとアリスさんから送られてきたリーナ・フィオーレさんのSNS情報とかを確認しているとあっという間に時間が過ぎる。


 例の雑居ビルの中に侵入して死霊使い個人を特定したほうが戦闘は容易になるんだろうけど危険性があるため遠方からの監視に留めている。死霊使い化した犠牲者の治癒はアリスさんしか出来ないからね。

 茜さんを見るとリーナ・フィオーレさんの情報を食い入るように見ている。と思ったら木更津の水無瀬美咲さんに電話をかけて話し始めた。この様子だと茜さん、当分使い物にならないな~





【357日目 10月31日 午後10時半頃 歌舞伎町高層ビル屋上】



 茜さんはまだ水無瀬さんと電話している。エマ園長もコリンズさんと電話してるみたいだ。



「茜ちゃんーー電話中か。御子柴君、聞いて? 武道館方面の死霊使い容疑者は一応拘束されたって。それで、死霊使いはいなくなったんだって。容疑者のおじさんが機動隊に拘束されたときには既に『元死霊使い』だったらしい。理由は分からないんだって」


「そうなんですか。逃げたんですかね? あー!! エネミーサーチで武道館方面をチェックするの忘れてた! 今すぐチェックします!」



 俺は慌てて聖剣「レヴァーティン」を取り出してエネミーサーチを発動する! エマ園長も「そうだった!」みたいな顔をしている。



 「エネミーサーチ:死霊使い」!   これは……?



「エマ園長、死霊使い、居ますよ。北東の方向。徐々に遠ざかっているようです。どうしましょうか?」


「マジで? うわー、どうしよう? それって、逃げてるんだよね?」


「あのー、御子柴君? 北東の方向で徐々に遠ざかっているって、正確な方向はその聖剣の向きってことだよね? ちょっとアタシに確認させてくれる?」


「うん? いいよ。この聖剣の方向が死霊使いの方向だよ。反応の強さからすると、武道館までの距離の2倍から3倍くらいかな……」



 茜さんはおもむろに俺に近づいて俺の背中にぴったりと張り付くと聖剣を持ってる俺の右腕の付け根……右肩口に顔を密着させて聖剣が示す方向を精密確認しだした!


 おおお、これは……? 茜さんの体温の温もりと柔らかな感触が俺の背中と肩に伝わる……す……素晴らしい……天国ですか? 楽園ですか? 今にも風になって昇天してしまうかも……



 ……はっ 茜さんは? もう体は離れている。


……ありがとうございます。さっきの温もりと感触を心に刻ませていただきますーー



「エマ園長、たぶんですけれど、遠ざかりつつある死霊使いに追随する神器の反応が二つ。恐らく、強化カモメが2羽、死霊使いを追跡していると思います。これなら死霊使いが野放しになってることにはなりませんね、安心です。誰の強化カモメかなあ? 凄く優秀ですね!」


「そっか、じゃ、そのことコリンズさんにーーもしもし、…………」



 エマ園長が再度コリンズさんと電話を始めるのを聞きつつ雑居ビルの方向を見ると、ビルの中から複数組の男女が大声をあげながら出てきた。と、その男女の男の方が近くに居た通行人を殴り倒し始めた!



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