第81話 白い鳥(3)

【357日目 10月31日 午後10時半頃 皇居前広場】



 私、コリンズ大将、伊集院君は特任公使専用車から飛び出すと空中に飛び上がりながら「隠密1」「暗視1」「筋力1」「持久力1」「衝撃耐性1」を多重発動するとともに亜空間ルームからM4カービン型個人携行神器を取り出して隠蔽用障壁を展開。

 およそ100mの高度を取って機動隊の突入現場、死霊使い容疑者の住まうマンションへと向かう。






 「飛行8」を数秒間発動して時速100kmを越える速度まで急加速、機動隊の突入現場まで30秒ほどで到着。ベランダのすぐ横の空中で停止、室内を観察する。



 室内では人が多数集まって拘束した人物の応急手当てをしているようだ。

 おや? ……ベランダの手すりにカモメが止まって静かにジッとしている。伊集院君の眷属カモメ「チャーリー」と「デルタ」か。こいつ等に機動隊突入前後のことを確認してみよう。ーー念話!



『チャーリーとデルタ! あんた達はこの近くで見てたでしょう? 機動隊の突入の様子を説明しなさい!』


『機動隊の突入? 大きな音が二回してここに居た男が崩れ落ちた。玄関から紺色の服の男たちが入ってきてあの男を囲んでいる。以上である』



『……なんか、痒いところに全く手が届かない説明? そんな事知っとるわって感じの情報じゃん。絶妙に腹立つ……たぶん間違っていないってのもイラつくわ~』


『まあまあ、ミラ軍曹。所詮カモメなんだから多くを期待しても無駄だよ。あんまり複雑なことはできないと思っておいた方がいい。

それより容疑者の容態とステータスが気になる。ここからじゃ「ステータス5」によるステータス閲覧が届かないからミラ軍曹、リビングの中に入って見てきてくれないかい?』


『イエッサー、大将。ではさっそく』



 アタシはベランダの柵を乗り越えると慎重にリビングに入っていく。機動隊員が10人以上入り込んでいて銃撃された容疑者の拘束と応急治療を行っている。

 短機関銃MP-5を装備した隊員3名がポリカーボネート盾ごしに射撃姿勢を取ったまま警戒、容疑者の直近で自動拳銃を構えて即座に撃ち込める態勢なのが2人いる。気を付けて行動しないと何かの拍子に銃弾を撃ち込まれかねないな。


 部屋の天井に張り付くように浮遊して……照明を遮らないようにしないと。いくら「隠密」で彼らの脳の認知機能を阻害しているとはいえ、私の身体で光をさえぎって影が出来たらいくら何でも異常に気が付く。


 容疑者は真っ青な顔をして間欠的に細かい呼吸を繰り返している? かなりの重体に見えるけど、死霊使いって身体こんなに弱いの? 銃撃はたぶん右腕と右脚。貫通銃創だ。



『コリンズ大将、容疑者って重体で今にも死にそうな容態に見えるんですけど。死霊使いって身体弱いんですか?』


『いや、吸血鬼達の情報だと「不死身」らしいが。ステータスは?』


『あ、今見ます。では、ステータス閲覧!』



名前 与野平六

種族 人(男性) 

年齢 38歳  体力G  魔力D

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 警視庁警備部課長補佐

   社畜公務員 元死霊使い



『今から読み上げますよ~伊集院君、書きとってね。参考にみんなに一斉メッセージで送るから。

えーと、名前は与野平六38歳。体力Gで魔力D 

魔法、身体強化、スキル、は無し。

死霊スキル!  ゾンビ化C ゾンビ修復C ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号は警視庁警備部課長補佐、社畜公務員 元死霊使い。

あれ? 元死霊使い?』


『そうなのか? 元死霊使い? 木更津の水無瀬亜希子さんと似た状況なのか?

ミラ軍曹、ためしに崩壊して消滅しても死ななそうな部位に「浄化1」を撃ち込んでみてくれるか? 死霊使いだったら命中した部分の体組織が崩壊する。違えば単に滅菌されるので治療の助けになるだろう』


『イエッサー? かなり鬼畜な確認方法だと思うけど、死霊使いだったらしょうがないよね! では遠慮なく。 「浄化1」』


「浄化1」の魔法弾が容疑者の右腕の貫通銃創に着弾する。結果はーー



『うん、「浄化1」が命中しても体組織は崩壊しないね。良かった、これでこの人が「元死霊使い」で人間であることが分かった』



『そうなのか? なんで「元死霊使い」なのか……銃撃で貫通銃創を負わせると死霊使いは滅ぼせるのか? 不死身ってのは 吸血鬼達の偽情報なのか?……


……いずれにしても「元死霊使い」なんだったら危険はない。後は日本警察に任せておけばいいだろう。その容疑者も手足の貫通銃創で死ぬことは無いだろうからね、車に戻って新宿に向かおうか』



 私は元死霊使い与野平六氏の右脚の貫通銃創にも「浄化1」の魔法弾を撃ち込んでから慎重にベランダに出てコリンズ大将、伊集院君と合流する。



『強化カモメ達! これから新宿に行くから。とりあえず車まで付いてきて!』







 我らの前方をアリス一味が飛行している。我とデルタの二羽はわざと遅れ気味に後方を飛行している。

 使徒ミラ・アンダーソンの言うことを聞いているふりをしながら追随して飛行する途中、丁度よさげな大きな森が目に入る。ここに逃げ込んでこいつ等から離脱するか。


 儂とデルタは「反応速度」発動して行動加速、一気に眼下の森の中に逃げ込んだ。奴らは我々が居なくなったことも気付かないで飛行を続けている。脇の甘い、注意力散漫な馬鹿どもめ。


 ではさっき途中までだった我が世界の帝都「大都」とのコンタクトの続きをするかーー







 よし、「大都」とのコンタクト終了。ふふふ、皇帝陛下はこの2体のカモメの身体を手に入れたこと痛くお喜びであった。亜神アリス一味も想像以上に弱そうなことで大層機嫌がよかった。


 最終目標は亜神アリスの身体。こやつ、弱いが間違いなく神格を持っている。

 必ず手に入れるが、周囲のガードが堅い。まずはロシアのリーナと一緒にいる男だ。奴ら、ゲート近郊の街ハサンにいることが分かったから丁度いい。皇帝陛下は、アリス一味の身体を手に入れるためゲート付近で混乱を引き起こす御積もりとのことだからな。



『おい、デルタ。これからちょっと遠いところまで行くから腹を満たすぞ。丁度いい、そこに野生の狸が居る。あいつを狩ってここに持ってこい』



 デルタは掻き消えるようにいなくなると5秒ほどしてから狸を空中から地面に放り落とした。反応速度と身体強化を使ったな。

 二羽で狸を喰らって腹を満たしつつ休息して魔力の回復を待つ。一時間もすれば魔力は全快するだろう。



 二羽で狸の死体をかっ喰らっているとデルタが嘴を真っ赤にしながら、涎をまき散らしながら声をかけてくる。なかなか見どころのあるゾンビカモメである。



『マスター・チャーリー様。チャーリー様のことはこれからもチャーリー様と及びすればよいのですか? お名前があるのでしたらそちらでお呼びした方が宜しいとおもいますので教えていただけますか?』



 ……むう。鳥畜生、カモメ風情と侮れない知能の高さ。こやつ、思った以上の逸材かもしれん。今一度デルタと我のステータスを確認してみよう。



名前 ー 

種族 ゾンビ カモメ(女性) 

年齢 0歳(カモメ 3歳)

体力 G

魔力 G

魔法 水弾4光弾4土弾4風弾4火弾3

   睡眠4回復5ステータス5神託5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5調教耐性3

   思考強化5老化緩和5

死霊スキル ゾンビ化E ゾンビ修復E

   ゾンビ再生E ゾンビ強化E

称号 亜神アリス・コーディの眷属カモメだったもの

   司祭 伊集院平助の眷属カモメだったもの

   ゾンビ 死霊使いの眷属



名前 死霊使い 

種族 カモメ(男性) 

年齢 0歳(カモメ 4歳)

体力 G  

魔力 F

魔法 水弾4光弾4土弾4風弾4火弾3

   睡眠4回復5ステータス5神託5

   暗視5遠視5隠密5浄化5結界5

   探知5魔法防御5念話5飛行5

身体強化 筋力5持久力5衝撃耐性5

   睡眠耐性5麻痺耐性5毒耐性5

   反応速度5防御5調教耐性3

   思考強化5老化緩和5

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 亜神アリス・コーディの眷属カモメだったもの

   司祭 伊集院平助の眷属カモメだったもの

   唯一無二のカモメ 裏切者 死霊使い



 ……改めて見ても凄まじい数の魔法とスキル。デルタの知能が高いのは「思考強化5」の効果か。儂も持っているが鳥の頭脳とは思えない思考能力である。素晴らしい。


 儂の称号にある「唯一無二のカモメ」「裏切者」というのは何か意味があるのか……



『儂のことは「テスカ」と呼ぶがいい。我の名前である』


『マスター・テスカ、承知いたしました』





 腹も満たしたし魔力も回復した。ゲートに向けて出発しよう。


 幸いこのカモメという鳥は渡り鳥でもある。迷うことなく洋上を飛行できるからまずは北西に飛んで明け方頃に日本海に到達。大きく突き出た半島の先端部を通って日本海を北西に進めばゲート近辺の海岸に着くはずだ。

 カモメという鳥は海面に浮かんで寝ることができるのであるから洋上の長距離飛行も全く問題ないのだ。




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