第80話 白い鳥(2)
【357日目 10月31日 午後10時半頃 北の丸公園近くのマンション】
我はベランダから静かに浮き上がるーー
この能力は魔法「飛行」か。鳥だから元々飛べる上に魔法でも飛べるとは……
空中に浮いてベランダから離脱しながら「隠密」「暗視」「筋力」「持久力」「衝撃耐性」を発動する。おおお、素晴らしい。こんな高性能な身体、我らの世界でもなかなかない。
どれどれ、持っている魔法やスキルはーー
ー-なにい! なんだこの鳥は? ちょっと待て、この大量の魔法とスキルを確認してーー
ーーははは! こんなこともあんなこともできる! 鳥なのに恐ろしく知能も高い! 力が湧いてくるー-
この鳥の身体と儂の死霊使いの能力があれば誰にも負けることは無い!
そして、コイツは神の使徒の眷属カモメだったのか! なるほど、亜神アリス・コーディ。司祭の伊集院平助。
それにこのカモメ「チャーリー」の記憶から亜神アリスと仲間たちの能力を把握した!
お人好しで脇が甘く、ろくに戦闘もできない亜神アリス。
抜け作で臆病者。自分のスキルも満足に扱えない馬鹿の伊集院。
その他の仲間もこの二人と大差のない馬鹿者ばかり! 要注意なのは奴らの眷属カモメのみ、か。なるほどーー
ならばこのカモメの身体があれば地球の亜神にも勝てるだろう!
『チャーリー、勝手に魚食いに行っちゃダメでしょう? アルファとブラボーからマスター・ミラにチクられるわよ? 気をつけなさい』
ぬうう。儂に「念話」で説教を垂れて来る者がいるな。
……ほう、メスのカモメ。この鳥の仲間のデルタか。このカモメ「チャーリー」が死霊使いに憑依されておるとは夢にも思うまいて。
しかし此奴もこのカモメ「チャーリー」が持っている魔法「ステータス」を持っているようだと儂の正体がバレかねん。理由もなくステータスを閲覧することはないだろうから直ぐにどうということは無かろうが。
『……だまらっしゃい。貴様誰に向かって物を言ってる? 控えるがいい』
『はああ? 誰にってチャーリー、アンタよ。アンタしかいないでしょ? さっきマスター・ミラからシバかれた事もう忘れたの? 言葉に気をつけなさい!』
『マスター・ミラだと? あんな奴は儂とは何の関係もない。二度とアイツの話はするな』
『ななな何を言ってるのよ……』
五月蝿い奴だ。こんな奴の相手をしている暇があればこの新しい身体の能力をジックリと把握したいというのに。邪魔だな、ゾンビにしてしまうか?
「反応速度5」
我の周りの風景の動きが静止した様にゆっくりになると同時に周囲は一気に暗くなり音が全く聴こえなくなる。
ほほう。これは、最高位魔獣や最高位悪魔の中でもごく一部の強者しか使えぬと言われる「行動加速スキル」であるな、素晴らしい!
儂は瞬時に「デルタ」の後方に回り込むと首の付け根に強化した嘴の一撃を叩き込んだ!
すかさず死霊スキルーー「ゾンビ化!」「ゾンビ再生!」
この「デルタ」はこのカモメ「チャーリー」と同格の能力を持っていて精神にも然程の隙もなく「ゾンビ化」がかかり難いと判断した。精神が隙だらけだったこのチャーリーとは違うのだ。
故に一旦瀕死にしてゾンビ化したのだが同時にゾンビ再生することで殺さずにゾンビ化することができる。殺さない方が後々使い道が多くなるので便利だからな。
死霊スキルが問題なく使えることが確認できてちょうど良かったわい。
儂は隣のマンションの屋上近辺に視線を向ける。あのあたりに使徒ミラ・アンダーソンの眷属カモメ「アルファ」と「ブラボー」が居るはずである。奴らは儂らの監視監督役なので近付かぬ方が良いだろう。
儂とデルタはもとのベランダの手すりにそっと着地してリビングの内部を観察する。
あの男の周りに人が多数集まっていて拘束しながら応急手当てをしようとしているようだ。特に問題ないし興味も無い。どうでも良いが、使徒ミラ・アンダーソンからはこの近くで監視しろと言われている。
今のところは不審に思われないよう指示に従っているふりをしておく方がいいだろう。
その間に我が世界の帝都である「大都」とコンタクトをとって現状を伝えておくかーー
♢♢
ミラ副園長は既に皇居前広場手間を飛行していた。
死霊使い包囲網の現場から皇居前広場までは直線距離で1kmちょっと、「飛行」なら3分ほどで到着する。空中から見ると路肩に停まっている大使館公用車の後ろに特任公使専用車が停車している。コリンズさんは到着しているみたいだね。
アタシは特任公使専用車、大型のバンの横に着地すると車のスライドドアを開けて車内に乗り込むと同時に「隠密」を解除する。
「お疲れ様でーす。コリンズ大将、早かったですね? 首都高混んでませんでした?」
「ああ、ミラ軍曹ご苦労様。たいして混んでなかったよ。機動隊の様子はどうだった? さっき受け取ったSNSメッセージ添付写真見せてもらったよ。容疑者は警察官なんだね?」
「そうみたいですね。機動隊の人たちは狙撃チームを配置してましたから早々に狙撃か強行突入かやっちゃいそうでしたよ? 日本警察にしては過激じゃないですか?」
「そう言われればそうだね。ただ今回については容疑者が確実に死霊使いだということと、アメリカ大統領からの強い要請をうけたことで日本政府としては強硬策に出るらしい」
「アメリカ大統領からの強い要請? なぜそんな要請が大統領から出るんですか?」
「今回の死霊使いの件を北朝鮮の吸血鬼たちに教えたら吸血鬼が死霊使いのことを全部ゲロった。
彼ら、死霊使いを相当に恐れていてゲートのこちら側へ死霊使いの侵入を許せばこっちの世界は終わりだと大騒ぎを始めたらしい。
だったら最初から情報提供しておけという話なんだけどね? 彼らには彼らなりの考えがあったんだろうけど」
「それで吸血鬼からの情報で死霊使いの高度な危険性を把握したため緊急討伐に乗り出したというわけね。『地球が終わり』だっていうくらいの。なら機動隊はすぐにでも突入するかも?」
「たぶんね。大統領は死霊使いの緊急討伐のために特殊作戦軍に出撃命令を出した。
あと数時間もすればノースカロライナ州フォートブラッグ陸軍特殊作戦コマンドのデルタフォース即応部隊が日本への展開を開始するだろう。
しかも今回の死霊使いの件を受けて大統領官邸、統合参謀本部(JCS)はロシアにある宇宙間ゲートに対する戦術核攻撃を選択肢に入れたことも日本政府に通告した。
ステルス爆撃機B-2をグアムから発進させて核攻撃型巡航ミサイルAGM-129 ACMを発射するって具体的に説明したから危機感が伝わったはずだよ」
「マジか……アリスちゃんは『宇宙間ゲートは核攻撃程度では破壊できないし傷もつかない』って言ってたよ? 供与された特殊アイテムの外殻をエネルギー省があらゆる方法で傷つけようと試したけど無理だったからアメリカ政府も分かってると思うけど? 宇宙間ゲートを核攻撃してどうするの?」
「宇宙間ゲートはさておき、侵入しようとする死霊使いを殲滅することは出来る。アメリカがやらなくてもロシアは当然選択肢に入れるだろう。中国もね」
「あちゃー。そうなったら宇宙間ゲートには近づけない。 いつ戦術核搭載型巡航ミサイルや核砲弾が撃ち込まれるのか分からないじゃん…… さっきアリスちゃんからリーナさんロシアにいるって聞いたけど大丈夫かな?」
「ドン! ドン!」
夜の都心に耳慣れない音が響くーー火器の発射音だ! 機動隊が突入したか!
「コリンズ大将、機動隊の突入だよ! どうします?」
「日本警察の行動に介入すべきではないが、死霊使いの反撃を受けて機動隊員の生命に危険が及ぶなら対応しなければならんな。今から三人で状況を確認に行こう」
「イエッサー!」
「分かりました!」
私、コリンズ大将、伊集院君は特任公使専用車から飛び出すと空中に飛び上がりながら「隠密1」「暗視1」「筋力1」「持久力1」「衝撃耐性1」を多重発動するとともに亜空間ルームからM4カービン型個人携行神器を取り出して隠蔽用障壁を展開。
およそ100mの高度を取って機動隊の突入現場、死霊使い容疑者の住まうマンションへと向かうのだった。
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