第77話 第一機動隊
【357日目 10月31日 午後9時半頃 東京赤坂】
ミラ副園長が乗るアメリカ大使館公用車は日本武道館に向けて走っていた。ミラ副園長の隣には伊集院平助。亜神アリス軍団の軍曹であり「司祭」でもある彼は異世界帰りの「魔王」でもある。
ミラ副園長は渋谷ハロウィンの時の仮装、「魔女」のコスプレ、魔王伊集院は異世界から持ち帰った魔王専用装備である魔神器「闇の衣一式」を着用している。
着替える暇が無かったのと、今日はハロウィンなので違和感がさほどないし、変装としても丁度いい。聞くところ、魔神器「闇の衣一式」は防御性能が凄まじいチート装備ということで実用性は十分。見た目は変だけど。
公用車は大使館を出て霞が関の官庁街に入って北上。ドライバーに指示をして警視庁のある皇居桜田門を右折、すぐに内堀通りに入って皇居を左に見ながら道なりに進めば武道館に着くんだけど……皇居桔梗門の手前で規制線が張られて通行止めになっている。
「ミラ副園長、交通規制されてます。既に武道館周辺は近づけないかもしれないですね、どうします?」
伊集院君がドライバーに聞き取られないよう小声で聞いてくる。
「ドライバーさん、路肩に車を止めてください。
伊集院君、私は今から機動隊の包囲網の様子を……偵察してくるから伊集院君はこの辺で待機してコリンズさんが来るのを待っててくれる?
あと、伊集院君の強化カモメ二羽貸して。私の二羽だけじゃ足りないから」
私たち使徒はアリスちゃんから強化カモメを二羽づつ貸与されていて亜空間ルームにぶち込んで持ち歩いたり外で放し飼いにして警戒監視とか便利に使ったりしている。
私の強化カモメの名前は「アルファ」と「ブラボー」。AとBってことね。ちなみに伊集院君のは「兄貴」と「姉御」。オスとメスらしい。
「うん、分かったよ副園長。僕の『兄貴』と『姉御』を預けるよ。ミラさんの指示に従うよう命令しておくから!」
「お願いね。……強化カラスへの指示は終わったね? じゃあ行くか」
『強化カモメ アルファ、ブラボー、兄貴、姉御! アタシについておいで! 基本的に念話で指示するからね。私の事は「マスター」と呼ぶように。特に兄貴と姉御! オーケー?」
アタシは「隠密1」を発動させながら四羽の強化カモメを引き連れて「飛行」を使って空中に飛び上がった。
100mくらい上昇して一旦停止。ぐるっと周囲を見渡して武道館の方を見定める。皇居北の「北の丸公園」内にある特徴的な八角形の緑屋根と玉葱のような形の「擬宝珠」。よし、あの方向だ。
皇居前広場の上空100mから北に向かって飛行していく。
すぐに皇居に隣接する「東御苑」の敷地上空に到達、東御苑内にある旧江戸城天守閣跡の上空を飛んでいると伊集院君から借りた強化カモメ「兄貴」が念話で声をかけてきた。
『マスター、儂の事は「兄貴」ではなく「先生」と呼んでもらいたい。
あの伊集院のガキに「兄貴」じゃなくて「先生」と呼べといくら言っても言うことを聞かないのじゃ。馬鹿な上司には仕えたくないものよ。そうであろう、マスター・ミラ・アンダーソン?』
伊集院強化カモメ「兄貴」は私の右横2m程のところを優雅に飛行しているけど頭はこっちを向いている。器用な奴だ。しかし……
……何をほざいているのかこの糞カモメは? さては強化されて多少強くなったもんだから調子に乗ってるな?
しかもアタシの事を「マスター・ミラ・アンダーソン」ってフルネームで呼ぶとか、巫山戯てんの?
『は? 躾がなってないカモメだね? 名前の変更を要求するなんて生意気な。伊集院君は相当に甘やかしていたようだね。
そもそもアンタはアタシの兄じゃないし先生でもないでしょ? ……もういい。 兄貴と姉御! アンタたちは今日からチャーリーとデルタだよ! CとDってことだからね!』
『マスター、我の事は「兄貴」と呼ぶがよいーー
『うっさい、チャーリー、デルタ! 今後一切口答え許さないよ! 今度口答えしたらただのカモメに戻すからね?』
『……分かったのだマスター。我の事をあんまり粗末に扱わないでもらいたい』
『素直に言うことを聞くカモメは優しく扱ってあげるよ? アタシも鬼じゃないからね。あと、返事はイエスマム(Yes Ma'am)しか認めないから。ノーマム(No Ma'am)という言葉はアンタたちの辞書にはないの。返事は?』
『分かったのだ、イエスマムと言えばいいのだろうイエスマムと言えば』
『だから返事はイエスマムしか認めないって言ってるでしょ!』
とかやってるうちに東御苑北側のお濠と代官町通りを通り過ぎて北の丸公園の敷地上空に到達していた。
改めて眼下の北の丸公園、その周辺を観察する。
北の丸公園と東御苑そして皇居北側は完全に封鎖されて規制されてるね。
ポケットからスマホを取り出して近辺の建物の名称を確認していく。
……ほとんど真下にあるビルが警視庁第一機動隊であることが分かった。多くの警察車両が停めてあって機動隊員の姿もチラホラ見える。
ふーん。こんなところに第一機動隊があるんだね? あそこで何らかの情報がられるかもしれない。行ってみるか。
『カモメ共! 今からあの建物に侵入するから「隠密1」「探知1」を使いなさい!』
私は第一機動隊の建物に向かって降下していく。ベージュ色の6階建てのビルディング。機動隊員たちが駐車場に集まって何やら準備したりしている。
濃紺の出動服に透明のポリカーボネート盾、ガス銃を装備した隊員に混じって短機関銃MP-5を装備した隊員とH&K社製PSG-1狙撃銃を装備した隊員も見える。
……アタシたちも下手に彼らに見つかって出会い頭に銃撃されたらヤバいかもしれない。気をつけよう。今度アリスちゃんに防弾性の高い服を作ってもらおう。
隊員たちの横をすり抜けて「飛行」で空中を機動しながら玄関からビルの中へ。玄関から廊下に入っていく。人とぶつからないよう天井の辺りを浮遊して進む。
指揮所とか指揮官の居室は二階か三階が相場だと思う。階段を二階へ進む。
二階を探索するとドア開けっぱなしで机多数、隊員が四人詰めている大部屋があった。中に入ってみると指揮所、もしくは指揮所のための作業室の様だ。
幾つかあるホワイトボードに記入されている地図やクロノロジーを見ていくとターゲットの住所氏名が記入された経歴書がホワイトボードに張り付けてある!
ラッキー! 早々にターゲットの住所氏名をゲットした!
その隣にはターゲットと思しき人物の顔写真もあった!
ふむふむ、なるほど。ターゲットは警察官なんだね。警察官の制服を着ている写真だ。普通のおじさんに見えるなあ。
よし、これを写真に撮って写メで送ろう。みんなに一斉送信すれば手間が省ける。
では顔写真と経歴を綺麗に並べて一枚の写真に写るようにしましょう。はい撮りますよ♪
「カシャり」
うわ、大きなシャッター音がした!
部屋に居た4人の機動隊員は一斉にこちらを見た!
「いまスマホのシャッター音したよな?」
「確かにした。異常がないか調べろ!」
ひゃー失敗した! けど「探知1」以上の探知能力を持っていない限り……ギャー、あんた、なんでスマホのカメラでこっちを見るのよ! 魔法「隠密」を使ってても監視カメラとか写真には写ってしまうんだよ!
『カモメ達! 「反応速度5」を発動! 逃げるよ!』
私は一気に加速して大部屋を離脱。
更に階段と廊下を飛び抜けて第一機動隊のビルから脱出。
そのまま上昇してビルの屋上に着地してから「反応速度」を解除した。
ヤバい。私の姿、見られたかな? もしかしたら動画か画像を撮影されたかも。
……しょうがないか。もう済んでしまった事をクヨクヨしても始まらないしね。アタシ、今は魔女の格好してるから大使館アドバイザー、保育園副園長のミラ・アンダーソンとは繋がらないないだろうし?
大したことはない。小さいことは気にしない。
ではさっそくターゲット、死霊使いの容疑者の顔写真と住所氏名経歴をSNSグループメンバーに拡散しよう。
えーっと。はい、送信ポチり。
よし次。住所からするとターゲットはあっちのあの集合住宅かな? 行ってみてターゲットの死霊使いが居たら実物をチェックしておこう。
距離は近かったので目標の集合住宅、マンション?にはすぐに到着した。
マンションの一階エントランスで部屋番号を確認。三階の東端の部屋ね。ベランダ側に回ろう。
この建物の周囲を機動隊が包囲しつつある。ターゲットはこのマンションに居ると思って良さそうだね。
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