第70話 浄 化

【357日目 10月31日 午後7時半頃 千葉県木更津市】


 ではお母さん、消毒してあげるよ。声を出さずに……「浄化1」

「浄化1」の魔法弾がお母さんの右手の甲に着弾する。



「ギャー!!!!」



 お母さんが凄まじい叫び声をあげて椅子から転げ落ちて苦しみだした!


 えええ、何なの? 


「痛いーー痛い、痛い!」



 私はびっくりしてお母さんに駆け寄ってお母さんの右手を見てみるとーーお母さんの右手の手首から先がぼろぼろと崩壊していた。



「えええ、お母さん、ごめんなさい、こんなになるなんて思わなくて! どうしてこんなことに? 私何か間違えた? 」



 急にゾワッと悪寒を感じる。一回、二回、三回。え、え、どうしたんだろう? 

私の身体、調子悪いのかな? お母さんの方を見ると私をキッ睨みつけている。


 そ……そうだ! アリスちゃんに「治癒」を掛けてもらえば治るからーー アリスちゃんに電話して、どうすればいいのか聞いてみよう! 

 と思いついたところでお母さんからの言葉が耳に入る。




「おかしいわね、リーナ・フィオーレと違ってあなたは普通の人間だと思ってたけど違うのかしら」




「!!……おかあさん? リーナ・フィオーレって……」




 私がお母さんを見ると、お母さんは左手を床について立ち上がると私に正対してニッコリと微笑んだ。



「酷いじゃないの。いきなり魔法を撃ってくるなんて。黙って魔法を使うなんてダメでしょう?」


「おかあさん……?」


「しかも私の死霊スキルが効かない。あなた普通の人間じゃないわね。何者なのあなたは?」



 おかあさんがおかしい。おかあさんこそ何者なの? お母さんのステータスを閲覧するーー「ステータス」!



名前 死霊使い 

種族 人(女性) 

年齢 0歳(人間 45歳)

体力 G

魔力 F

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 水無瀬亜希子だったもの

   主婦 死霊使い




 は? 死霊使い? 水無瀬亜希子だったもの……?


 ドキリと心臓が跳ねる。……これは、もしかして、茜ちゃんの言っていた「吸血鬼」「死霊使い」「宇宙人」に関係する?



「美咲ちゃん、どうしたの?」


「あの、お母さん……」


「なに?」



 お母さんはニッコリと微笑んでくれたけど、目をまともに見ることが出来ない。もう一度、ステータスを見てみる。



名前 死霊使い 

種族 人(女性) 

年齢 0歳(人間 45歳)

体力 G

魔力 D

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C

   ゾンビ再生C ゾンビ強化C 

称号 水無瀬亜希子だったもの

   主婦 死霊使い




 やはり同じだ。

「水無瀬亜希子だったもの」「死霊使い」



 なんなの、これは。何かの間違いだろうか。頭の中が真っ白に……どうすればいいのか、全然分からない。

 そうだ、後でアリスちゃんに聞いてみればいいんだ。多分助けてくれる。大丈夫だ!



「美咲ちゃん? あなた、いま『魔法』を使ったわね。

二回も私に精神攻撃を仕掛けてきた。多分『鑑定』ね。しかも、さっき私の右手に直撃させたのは神聖属性の攻撃魔法だった。

いつの間に『聖女』みたいなことが出来るようになったのかな。もしかしたらこの世界の神と出会ったことあるんじゃないの?」



 さっきのお母さんの右手の消毒のために発動した魔法「浄化1」が神聖属性の攻撃魔法?

 確かに魔法弾が着弾したお母さんの右手は崩壊している。お母さんが邪悪な存在だから? 


 私は魔法「浄化」以外にも多数の魔法と身体強化が使えるけど、全て亜神(時空)アリスちゃんから貰った恩恵なんだ。

 だから私は神さまと会ったことあるだけじゃなくて凄く近しい関係なんだよ……




「……おかあさん、神様の事を知ってるの?」


「もちろんよ。おかあさんはこの世界の神様を探しているのよ」


「どうして神様を探しているの?」


「それはね、この世界の神様と敵対したくないからなのよ。神様とお友達になれば私たちは安心してこの世界で暮らせるでしょう?」



「あなたは私のお母さんじゃないよね? 私のお母さんは無事なの? どこに行ったの?」




 この人は外見はどこから見てもお母さんにしか見えないけど喋る中身は別人……じゃあお母さんは別にいるのかそれともお母さんの精神がこの人に乗っ取られたのか?




「その質問に答える前に美咲ちゃん? お母さんの質問に答えるのが先よ?

美咲ちゃんはこの世界の神様に出会っているのね? 答えて」




 お母さんがどうなってるのかわからないし、この人にどう返事すればいいのかわかんない!

 でも……この「おかあさん」がアリスちゃんと会いたがっているなら自然な形でアリスちゃんに電話することが出来るかもーー




「……私、神様のこと知ってるかも」


「美咲、ほんとに?」


「うん。でもどこに居て会える状況なのかも全然わらないから今から神様に電話してどこに居るか聞いてみるよ」


「そう。じゃあお願いね」



「その前に、おかあさんって死霊使いになっちゃったの?」


「そう。お母さんは死霊使いなのよ。でも美咲ちゃんがお母さんの言うことをちゃんと聞いてくれればこの体は元に戻してあげるからお母さんのいうことを聞いてね? でないとお母さんは死んでしまうんだよ?」




 ううっ……この死霊使いの「おかあさん」の発言に吐き気がして気が遠くなる……


 我慢だ。頑張って私! 




 震える手でポケットからスマホを取り出してアリスちゃんに電話をかける。


 ーー 呼び出し音が鳴る ーー ーー

 ーー 出てくれた!



「もしもし、アリスちゃん? 私、美咲。あのね、大変なことがーー うん。死霊使い。お母さんが死霊使いになっちゃってる』



 ここまでしゃべって、急に涙があふれてきた。



『ーーぐすっ おかあさんんがああ、ステータスを見ると死霊使いってなってる。ヒッーーみーー水無瀬亜希子だったものって、書いてある。死んじゃったのかな? 死霊使いは元に戻せるって言ってるけど、いうことを聞けって脅されているのーー 

え、ウン、わかった!』



 私は死霊使いの「おかあさん」の方に向くと魔法を発動した。



「魔法『神楽』ーー 降臨 ーー アリスちゃん、来て!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る