第68話 渋谷ハロウィン


【357日目 10月31日 午後6時半頃 渋谷 スクランブル交差点】



「アリスちゃん、やっぱ凄い人の数だね。日本のハロウィンの聖地『渋谷』だけあるね!」



 「魔法使い」の仮装をしたミラ副園長が嬉しそうに声をかけてくれる。ミラちゃんは賑やかなこととかお祭りが大好きだ。



「ホントにね。スクランブル交差点から109に行って文化村通りの奥まで行ってみようか? ○急百貨店辺りまで行ってから引き返す感じで歩いてみようよ」



 『……センター街ではなく、比較的空いている道玄坂方向にお進みください……』


 歩行者天国の警備と交通整理を行っている警視庁のDJポリスがマイクで呼び掛ける声が響いている。



 今日はハロウィンということで、保育園の保育終わりに仮装して渋谷のスクランブル交差点に来てみた。


 せっかく日本に居るから日本のハロウィンイベントを体験してみたいというミラ副園長の希望で、じゃあアタシもボクもということで私、エマ園長、ミラ副園長、茜ちゃん、御子柴君、伊集院君の6人で来てみたってわけ。

 美咲ちゃんもどうかなって思ったけど木更津は遠いし、お母さんが一人で家で待ってるからってことで先に家に帰りました。部活少女だし普段家にいない事が多いからね。




 ここ渋谷のハロウィンでは駅前のスクランブル交差点からファッションビル「109」そして道玄坂下交差点で分岐する「文化村通り」と「道玄坂」のそれぞれの一部が「歩行者天国」となっている。


 時刻は夜の6時半頃で日没後一時間経ったところで暗いはずだけど歩行者天国になっている通りは煌々とした灯りに照らされて昼間のように明るい。渋谷の街は人の波で埋め尽くされていて仮装した若者で溢れていた。




 私とエマ園長、ミラ副園長のアメリカ人三人はクラシカルロングドレスととんがり帽子という魔法使いセットを通販で購入。一式四千円しないくらいで凄くリーズナブルだった。


 これに素肌感のある明るい色のストッキングを穿いて黒いパンプスを合わせる。

 実にチープな魔法使いなんだけど、ビックリするようなアメリカ美人三人組なのでなかなかの目立ちっぷり。さっきからスマホで写真撮られまくってる。お祭りだから機嫌良く手を振って写真を撮られてあげてるよ?




 そして御子柴君と伊集院君は異世界から持ち帰った勇者と魔王の装備一式をそのまま身に着けていた!


 あの、国民的ゲームのパッケージから飛び出したようなデザイン。超目立っている。

 さすが白い世界の女(女神?)がくれた神器だけあってもの凄い存在感だ。この二人もかなり注目されて写真撮られまくっている。



 茜ちゃんは「女盗賊」の盗賊の衣装一式を身に着けている。忍者みたいな真っ黒の衣装。

 最初は私たちと同じ安物の魔法使いセットを着ようとしてたんだけど、御子柴君たちを見て気が変わったみたい。「女盗賊」の世間一般からの評価がどんなもんか確かめたくなったらしい。馬鹿にされるようなら二度と着ないんだって。茜ちゃんは可愛いから何を着ても似合うし大丈夫だと思うけどね。


 案の定、茜ちゃんはいろんな人からひっきりなしに話しかけられてるし写真を撮られまくってる。ただのナンパかもしれないけど。




 私たちアメリカ美人3人の周りには黒スーツに黒サングラスのアメリカ人護衛が5人、シークレットサービスの人たちだけど。


 渋谷ハロウィンの歩行者天国は余りにも人が多いうえに彼ら自体もコスプレの仮装だと思われるみたいで護衛の役には立っていないように思われる。お気の毒です。





「そういや、茜ちゃん。伊集院君の神器って何なの? いままで聞いたことなかったよ」



「ぷぷぷ! 魔王の神器! 教えちゃったら伊集院君に悪いかな? いいよね、だって伊集院君はアリスちゃんの司祭だしアリス軍団の軍曹なんだから。

そもそも彼から自発的に報告するべきだよね! しょうがないなあ。あたしが伊集院君の代わりに報告してあげるか。

武器は魔神器「ナイトメア」

漆黒の、柄の長さが2m、刃渡り1mくらいある大鎌だよ! 超使いにくそう!

防具はね、魔神器「闇の衣一式」

今着てる見た通りの悪の組織のラスボスっぽい厨二病なコートだよ!」



 上下黒の忍者みたいな服に黒い額当てと変なアイマスク。黒い地下足袋風ブーツを履いた「女盗賊」の茜ちゃんは右掌で口元を押さえながらもの凄く嬉しそうに教えてくれた!



「へえー。ファンタジーA型標準宇宙には『魔王』という設定は無かったと思うんだけど。でも私が知らないだけで本当は有るのかな? 私は知らなかったのに『聖女』って設定もあったしね。それで伊集院君の魔神器って神器と違うの?」


「うーん。わかんない。鑑定すると確かに『魔神器』ってでるけど神器との違いは分からなかったな。

『お宝探知』で調べると私の盗賊セットである『盗賊の衣装』と『盗賊の武器防具一式』よりも強い反応があるのよ。

それでね、なんとなく認識される神器としての格は御子柴君の『聖剣』と『神槍』そして『聖なる鎧一式』が最上位で次に魔王の魔神器。最低なのがアタシの盗賊セットなのよ! アタシの盗賊セットって鑑定しても神器って書いてないし。ただの『盗賊セット』って! 酷くない?」



「そうなの? ホントに酷いね! 白い世界の謎の女? 会うことが有ったらメチャクチャ文句を言ってあげるよ! あと私が作れる神器は全部茜ちゃんにあげるから!」


「えへへ、ありがとう。でも無理はしないでね? あの謎の女、たぶん神様の端くれだとは思うから。変に目を付けられて制裁されてもつまんないし?」


「うんわかったよ。茜ちゃんは優しいね! 私のこと心配してくれてありがとう!」









 ワイワイ喋りながら、声をかけてきた人と写真を撮ったりお話しながら一時間くらいかけて文化村通りの奥まで来た。歩行者天国の終点だね。



「みんな、この辺りで歩行者天国の終点だしそろそろ駅の方に引き返そうか?  


……おや? ちょっと待って電話だわ。美咲ちゃんからだ、すぐに出ますよーー」



『はいはい、アリスですよ。  ……うん? 大変なこと?』



 私の美咲ちゃんとの通話を聞いたみんなの注目が一気に集まる。



『……死霊使いになってるの? お母さんが?』



 みんなの顔が一斉に険しくなる。



『うんうん、ステータス、おかあさんのね。 

……そうか、わかった。私に任せて。今から美咲ちゃんに「神託」を繋ぐから繋がったら「神楽」で私を降臨させるんだよ! ヨシ神託が繋がった!』


 私は美咲ちゃんとの電話を繋げたまま大声でみんなに指示する!


「みんな、大変! 美咲ちゃんのお母さんが死霊使いになってしまったらしい! 今すぐ私は『神楽』で美咲ちゃんのところに飛ぶから! コリンズさんにも知らせて、みんなで木更津に……」



 みんなに向かって大声でしゃべっている途中に視界がホワイトアウトした。と思ったら次の瞬間、知らない家のリビングの中空に浮かんでいた!

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