第67話 クレムリン宮殿(2)
【354日目 東京時間10月27日(水)2330時頃 モスクワ時間10月27日(水)1730時頃 クレムリン宮殿】
責任追求と批判の応酬によって荒れ模様となっているロシア連邦安全保障会議が行われている会場の片隅で。
リーナ・フィオーレ(水無瀬美咲)は会議でなされる議論をジッと聞いていた。
私の右隣には在日本ロシア大使館から私たちのロシア行きを手伝ってくれたロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)工作員ディミトリ―・バーリン大佐。
左隣には日本から私について来てくれた大魔道士の秋津さん。
更に左には同じくGRUの中佐が座っていて私と秋津さんをしっかりとガードしているというか、勝手に動けないように監視されているみたいな感じ?
「なんか、私が思ってたのとは違う感じになってる……」
リーナは今までのことを思い返してみる。
一カ月前に日本のロシア大使館に飛び込んだ私と大魔導士の秋津平八さんはロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)工作員ディミトリ―・バーリン大佐に神聖魔法「治癒」、「飛行」「アイテムボックス」などを披露。そのうえで「異世界の存在」「ロシアにある異世界につながるゲート」「吸血鬼や死霊使いの存在」の話をして協力を求めた。
情報総局(GRU)の工作員バーリン大佐は私たちの言うことを理解してくれたようでロシア本国の連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に事情を説明、直ちに私たちの身柄をモスクワへ送る手筈を整えた。
翌日には羽田空港からアエロフロート・ロシア航空の旅客機で出国した。秋津さんのビザは即日発行されて無期限のロシア滞在を認められた。私はバーリン大佐が準備した謎のパスポートを使って出国。私が使ったパスポートはロシア入国後に回収されてしまった。
モスクワに着いてからは連邦軍参謀本部に連れていかれてバーリン大佐に見せたスキルを披露したり「異世界の存在」「ロシアにある異世界につながるゲート」「吸血鬼や死霊使いの存在」の話を何回もし続けた。
私が日本の防衛省に居た時と似ていて、「異世界の存在」「ロシアにある異世界につながるゲート」「吸血鬼や死霊使いの存在」の話にはあまり関心を持ってもらえず、神聖魔法「治癒」、「飛行」「アイテムボックス」にばかり興味を持たれて繰り返し実演と解説を求められて辟易としてしまった。
しかも、参謀本部情報総局(GRU)は私たちの存在をGRUで囲いこんで秘密にしようとしているように思えた。なんか、私たちって良いように飼い殺しにされてる!
このままじゃ日本にいる時とあんまり変わんないし、どうしたらいいか悩んでいたら1週間前にいきなり参謀総長さんと国防大臣さんのところに連れていかれて「異世界の存在」「ロシアにある異世界につながるゲート」「吸血鬼や死霊使いの存在」「吸血鬼や死霊使いのスキルや能力」の話をさせられた。
それからアメリカ政府が吸血鬼のことや異世界に通じるゲートのことを知っているけど何故だかわかるかと聞かれた。分からないから知らないって答えたけど、アメリカか。その手があったか。アメリカに亡命? したほうがよかったかなあ?
偉い人と話すチャンスだったから「死霊使い」という人類の敵はほぼ不死身でどうやっても殺せないけど「神聖魔法」なら一撃で倒せるからゲートの近くに連れて行って欲しいって何度もお願いした。
いちおう、吸血鬼の人たちは悪い人達ではなくて本当の敵は「死霊使い」だって強調したんだけどちゃんと伝わっているか心配だったのに……
……安全保障会議でのさっきの説明だと「捕獲した吸血鬼20名は銃撃を受けて人類なら死亡しているような大怪我でしたが吸血鬼のスキルによって回復」って、ものすごく乱暴で暴力的なことをされている!
知ってる人たちがひどい目にあって無ければいいけど。
それに今日の会議で話されていた内容なんて私たちにはこれっぽっちも知らされてなかった。
ロシアの人たちというか、この参謀本部情報総局(GRU)の人たちって信用できないかもしれない。バーリン大佐だって態度はフレンドリーだけど、結局のところ私たちの希望を何一つ叶えてくれてないからね?
……しかしアメリカが吸血鬼やゲートのことを把握していてゲートの封印を主張しているとは……死霊使い討伐はアメリカ軍にも参加してほしいけど、ゲートを封印されるのは困る。
私の目的は異世界にいる死霊使いの討伐と、エルトリア王国にいる家族や領民の救助または避難なのに。ゲートが封印されてしまうとエルトリア王国に帰れなくなってしまう。どうしよう?
私がそんなことを考えていると隣の秋津さんが私の左手をトントンと叩いた。
んんー? 好き勝手なお触りは許してないんだけどなー。ジト目で秋津さんの方を見ると秋津さんは小声で訴えかけてきた。
「……リーナさん、大変だよ。ヤバい奴がいるよ?」
「……ヤバい奴って?」
「僕の隣にいるGRUの中佐なんだけど鑑定してみてよ!」
……マジですか? ……相手に気づかれないよう自然な感じでそっと鑑定してみる。
名前 ー
種族 ゾンビ 人(男性)
年齢 0歳(人 39歳)
体力 G
魔力 H
身体強化 ー
スキル ー
死霊スキル ゾンビ化E ゾンビ修復E
ゾンビ再生E ゾンビ強化E
称号 ロシア連邦軍陸軍中佐だったもの
ゾンビ 死霊使いの眷属
ひゃー! ゾンビじゃん! でもこんなに近くに居て邪悪な波動を感じなかったのはなぜ? もしかして、魔力とスキルレベルが低いからかな?
いやいや、そんなことは後でいい。これどうしたらいいの?
「……秋津さん。どうしたらいいのか私、わかんないんですけど?」
「いちおう、ディミトリ―・バーリン大佐は鑑定したら人間だった。で、この会議室にいる人で鑑定が通る範囲で鑑定してみたけど、向こうのちょび髭の禿おじさんが死霊使いだね。アイツがこのゾンビの親玉かもしれない」
私は秋津さんが指摘してくれた「向こうのちょび髭の禿おじさん」を慎重に鑑定してみる。
名前 死霊使い
種族 人(男性)
年齢 0歳(人間 57歳)
体力 G
魔力 F
魔法 ー
身体強化 ー
スキル ー
死霊スキル ゾンビ化C ゾンビ修復C
ゾンビ再生C ゾンビ強化C
称号 ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)局長だったもの
ロシア連邦軍陸軍中将 死霊使い
……うわー、確かに。日本の新宿御苑に居た怪しいおじさんと似たようなステータス。間違いなく死霊使いだ。しかもこの人「参謀本部情報総局(GRU)局長」って私たちの責任者じゃん。
コイツのせいで私達ってモスクワのクレムリンで留め置かれて情報総局(GRU)に飼殺されているのかもしれない。
「でね、もしかしたら僕達って死霊使い達の監視下にあるんじゃないかな? こんな近くにゾンビが何くわない顔して居るわけだし」
「……そうかもしれない。けど、討伐したら死体残っちゃうし。どうしよう?」
「今のところは泳がせとくしかないかな? でもこの会議の内容からするとゲートをロシア連邦軍で押さえていて異世界側まで軍を進めているのは良いとして、アメリカがゲートを封印するのは困るね?」
「そうなのよ。そんなことになったらエルトリア王国に行けなくなっちゃうし」
「なら、早急にゲートに行こうか。僕らがその気になれば勝手に抜け出してゲート近辺に行けると思うんだ」
「そうすると秋津さんが犯罪者になっちゃわない?」
「僕はいちおう正規に入国してるし大丈夫だと思うよ。それと、日本を出る前に日本円をロシアルーブルと米ドルに変えてきてるからお金の心配は無いよ。ロシアの国内線に乗れば一日かからずにゲート近辺に行けると思うんだ」
「さすが! じゃあ早速この会議終わったらモスクワからおさらばしてゲート近く、ウラジオストクあたりに行っちゃう?」
「うん、そうしよう」
♢
安全保障会議が終了したあとに私たちは「ゾンビのロシア連邦軍陸軍中佐」にエスコートされてクレムリン宮殿から出てロシア連邦軍参謀本部に移動。
定宿に指定されている連邦軍直営ホテルに戻るとモスクワ〜ウラジオストクの交通手段を調べる。飛行機とか列車を使わないで走って行こうとすると数か月かかっちゃうからね。調べた時間になるまではホテルで時間を潰す。
予定の時間になったのでホテルを出発することにする。いちおう私たちを監視しているゾンビとか、ゾンビカラスとか、居るのかいないのかわかんないけど片っ端から鑑定をかけて周囲をチェックしながらホテルから出て徒歩で移動を開始する。
モスクワ市内にあるターミナル駅であるベラルースキー駅までは途中タクシーを捕まえて10分くらいで到着。この駅からロシア鉄道の直通列車で35分かけてシェレメーチエヴォ国際空港へ。
シェレメーチエヴォ国際空港からウラジオストク国際空港へは8時間半のフライトで20:15離陸1210着陸。
やっぱロシアは広い。こんな広くて遠い道なき未開の原野を走って移動したんだよね。半年前の私って凄い! 頑張った、私!
♢
クレムリン宮殿でのロシア連邦安全保障会議の翌日の昼。私と大魔導士秋津平八さんの二人はアエロフロート・ロシア航空の旅客機を使ってウラジオストクまでやってくることが出来た。
前回、私がウラジオストクに来たのは8月10日だった。およそ二カ月半ぶりにここまで戻ってきたわけでものすごい遠回りしてる気がしないでもないけど日本では両親と再会できた。
そして神さまの関係者である有朱宏冶さんと出会えたし大魔導士の秋津さんとも出会えた。日本に行って本当に良かったと思う。聖騎士と聖女に出会えたことは微妙だけど。
ここからゲートまでは300kmくらいで前は列車に無賃乗車したんだけど、ウラジオストク駅で切符を買おうとしたら北朝鮮との国境方面(ハサン方面)の列車の一般旅客利用は販売停止になっていた。
明らかにゲート対応のための処置だね。しょうがないから市内でタクシーを捕まえて行けるところまで行くことにする。その後は「飛行」使ったり走ったりして行けばいい。
こうして私と大魔導士の秋津さんの二人はタクシーに乗ってウラジオストクからおよそ300km先の露朝国境の町ハサンを目指して出発したのだった。
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