第5部 死霊使い編

第62話 空中探査(1)


【327日目 10月1日 午後 アメリカ大使館別館】



 ソウルのホテルから吸血鬼たちに囚われていた伊集院君と御子柴君を連れ戻してから一か月が経過した。


 この一ヶ月間、コリンズ特任公使が亜神アリス軍団の大将として、そしてアメリカ政府を代表する合衆国海兵隊大将として北朝鮮指導部を裏で操っている吸血鬼たちとやりとリをしたことで北朝鮮の吸血鬼たちの事情が分かってきた。


 現在ではアメリカ政府と北朝鮮の吸血鬼たちの間には常時連絡できるチャンネルが開設されていて対話と交渉が行われている。



 現在の北朝鮮には吸血鬼もしくは眷属吸血鬼が少なくとも2000人はいて、国家指導者をはじめとして要職についている者を眷族化しており北朝鮮国家自体を支配している。


 彼ら吸血鬼たちの目的はこの地球世界において平穏に生存すること。そのため外国に対する攻撃はもちろん外国へ潜入したり非合法な活動をしたりはしないと宣言している。




 北朝鮮に居住している人類、北朝鮮国民に対しては人権を尊重した穏健な統治を実施するので暫くは任せて欲しいとアメリカ政府に懇願しているという。


 随分と弱気というか、人類の敵とは思えない協調性を発揮しているようだけど、信用してもいいんだろうか。


 アメリカ政府の関係者の中には、ぶっちゃけ以前の国家指導者による指導体制よりも遥かに扱い易く、対話や交渉もスムーズなので悪くないと思っている人たちもいるらしい。




 という感じで、私、亜神(時空)アリスとコリンズ特任行使ほか使徒の皆さんたちは、大使館別館の特任行使執務室で吸血鬼問題について話し合っているところなのです。





「……ところでコリンズさん。吸血鬼って信用できる感じなんですか?」


「国務省の見解では今のところは交渉相手としては信用できるようです。

約束は守るそうですし以前の国家指導者とは大違いだと。

非核化や弾道ミサイルの破棄なども合意してもいいそうですよ。

彼らとしては北朝鮮国家を親アメリカにしてもかまわないらしいですけど、中国とロシアとの関係があるのですぐには難しいようですね」



「なるほどー。で、吸血鬼たちがいつ、どこからやってきたのかは分からないんですね?」


「そうなんですよ。そこは彼らは明言しないのです。もしかしたら異世界イースにおける竜亜神のように別の世界から来たのかもしれないですよね?

だから地球と異世界を接続する宇宙間ゲートがどこかにあるのかもしれません。だとしたらそれを封印しないと危険です。

それと吸血鬼という存在をどう考えるか。地球から排除すべきではないのか。アメリカ政府内の議論はそんな感じになってます。

という状況なんですけど、アリス様の能力で何らかのアクションが取れますか?」



「そうですねー。宇宙間ゲートの存在については、私自身には手段はありませんけど茜ちゃんが持ってる能力である『お宝探知』。それと御子柴君の能力である『エネミーサーチ』を組み合わせれば分かるかもしれません」


「やはりそうですか。アメリカ政府内でも、北朝鮮上空を飛行して確かめてはどうかという意見が出てましてね。

高高度からの無人偵察機や偵察衛星写真の分析では発見できていないのです」



「なるほど。茜ちゃんと御子柴君、そして伊集院君が白い世界の謎の女に言われた言葉

『吸血鬼、死霊使い、宇宙人から地球を守れ』

のとおり、茜ちゃんと御子柴君が重要な役割を果たすというわけか」




「伊集院君はなにか特別の能力を持つのですか?」


「伊集院君には『地球で魔法を使える能力』が備わっているんですよ。

ここ5カ月のあいだ伊集院君の能力を分析した結果、彼の『魔法を半径20m以内でのみ使用できる』というリミッターを外すことが出来ました。

いまや彼は異世界で魔王だった時と同様の射程距離で魔法を扱えますよ。

でも、伊集院君のリミッターを外せたのはリミッターの仕組みを解析できたからで、地球で魔法を使える能力そのものは全く解析できていないのです」



「そうなんですか。解析できると助かりますけどこればっかりはどうしようもないですね」


「ホントに残念です。

えーっと。それじゃあ、あるかもしれない宇宙間ゲートを見つけるため北朝鮮上空を空中偵察しますか? 

高校生を引っ張り出して準軍事作戦に参加してもらうのはちょっと申し訳ないけど、茜ちゃんと御子柴君に頑張ってもらいましょう。もちろん私も行きますよ?」






【337日目 東京時間10月8日(木)2300時頃 北朝鮮上空】



 アメリカ大使館別館での話し合いから一週間後。私たちは北朝鮮上空を飛行している。


 北朝鮮の上空を飛行して吸血鬼たちが秘匿しているかもしれない宇宙間ゲートを探索するためなのです。




 北朝鮮上空を飛行するにあたっては北朝鮮の許可を取っていない。飛行の目的が秘匿されている宇宙間ゲートの探索だからね。いろいろと問題になりそう。


 北朝鮮に対する納得のいく説明は難しい上に周辺の中国とロシアを刺激するだろうから。




 ……という訳で、北朝鮮領土上空をコッソリと飛行するということで、私たちは二日前に米軍横田基地からグアムにあるアンダーセン空軍基地へ移動。


 アンダーセン空軍基地にはアメリカ本土からステルス戦闘機F-22ラプター×10機とステルス爆撃機B-2 スピリット×3機が秘密裏に飛来していた。





 私と茜ちゃん、コリンズさんの3人がB-2爆撃機の一番機に。


 御子柴君とエマ園長、ミラ副園長がB-2爆撃機の二番機に搭乗する。


 この二機のB-2爆撃機を8機のF-22戦闘機がエスコートする。余分の機体は予備機になる。




 闇に乗じて北朝鮮の上空を飛行するステルス爆撃機とステルス戦闘機。北朝鮮の地上レーダーでは全く捕捉できないだろう。





 韓国の領空までは在韓アメリカ空軍のF-16戦闘機のエスコートを受けて飛行。


 いちおうF-16が随伴することで空中衝突などの事故が起こらないようにするため。


 北朝鮮にはステルス機10機で侵入する。







 私が乗るB−2爆撃機一番機が朝鮮半島の西海岸を北上して中国との国境をなぞるように時計回りで飛行していたところ。


 B-2爆撃機二番機に乗ってる御子柴君の「エネミーサーチ:吸血鬼」が北朝鮮の北東部に多数の吸血鬼の存在を探知した。



 吸血鬼の反応は中朝国境に沿って東の方向を示している。


 B-2爆撃機の進路を吸血鬼の反応の方向に向ける。





 やがて露朝国境まで200kmというあたりで茜ちゃんの「お宝探知」が反応する。コリンズさんと相談する。



「コリンズさん。お宝探知反応ありましたね。露朝国境の方向ですね?」



「本当に反応がありましたね。正直言ってビックリしています。

今のところ中国からもロシアからも我々に対するリアクションがありませんから我々を探知できていないんでしょう。お宝探知反応のある場所まで行ってみましょう。

探索の結果、中国またはロシアの領空に入り込むようなら引き返して帰還します。

中ロからのリアクションがある場合もすぐに離脱します」



「分かりましたコリンズさん。もし、なんか非常事態になるようならパイロットさん含めて全員で躊躇なく亜空間ルームに避難しましょう。

たとえ機体が撃墜されて破壊されたとしても亜空間ルームに入っていれば大丈夫ですから。

後で必ず助けに行きます。二番機のエマ園長たちにも念押ししておきましょう」






 私が乗っているB-2爆撃機の一番機が露朝国境に接近したところで日本海に出て海岸線をなぞるように東方に飛行していく。




 ロシア側領空を掠めるようにして海岸線を東進していくと「エネミーサーチ:吸血鬼」の方向が急激に左の方角に変化しつつあると二番機からの報告。


 茜ちゃんの「お宝探知」の反応も同じく急激に左に変化していく。やはり露朝国境の方向に吸血鬼と宇宙間ゲート(仮)が存在するらしい。




 反応のある場所を左に見ながら時計回りに周回しつつロシア沿海州領空に侵入しないようにして、来たルートを引き返していく。


 外は真っ暗で何も見えないけど副操縦士のパイロットさんの言うことには、「お宝探知」反応のある方向の変化からみて中朝ロシア国境周辺が宇宙間ゲート(仮)のある場所であるのは間違いないらしい。



 副操縦士さんと茜ちゃんはお宝探知反応の示す方向と時刻を記録し続けている。


 どこの国に宇宙間ゲート(仮)があるのか。中国とかロシアだったら面倒かも。




 御子柴君とエマ園長、ミラ副園長が搭乗しているB-2爆撃機二番機でも御子柴君の「エネミーサーチ:吸血鬼」の示す方向と時刻を記録し続けているはずだ。








 結局中国からもロシアからも領空接近によるリアクションを受けることなく北朝鮮東側の領空の手前まで戻れた。中国とロシアの警戒監視レーダーで我々を探知出来なかったってことだね。ステルス機って凄い。



 このまま朝鮮半島東側の北朝鮮領空に沿って日本海を南下して九州と四国の間を抜けてから太平洋をグアムまで一直線に飛行、アンダーセン空軍基地に向けて飛行を続ける。





 太平洋に出てからはエスコートのF-22戦闘機は空中給油機による空中給油を受けながら飛ぶ予定だ。


 改めて聞いてみたら往路でも空中給油して飛行してたんだって。戦闘機は大変だね、お疲れ様です。





 こうして私たちは露朝国境付近において宇宙間ゲート(仮)の存在を確認したのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る