第61話 さよなら
【10月6日 午後1時頃 防衛省】
理化学研究所からマイクロバスで防衛省に戻ってきた私は、さっそくここ数日考えていたことを実行しようかと思う。
まず、空幕の有朱浩司さんに電話をして面会を求める。面会場所は空幕。海幕だと話を聞かれてしまったら面倒だからね。暇そうにしていた有朱さんは私の面会要請をすぐにOKしてくれた。
4人の護衛のおじさんたちは空幕までは付いてきたんだけど、有朱さんとのお話は個人情報的な事もあるので席を外してもらう。話を聞かれたら困るから。すみません。
私は空幕の有朱さんと面会すると、しばらくの間ロシアに行って死霊使いを討伐、場合によってはゲートを通って異世界のエルトリア王国まで戻って両親のいるフィオーレ公爵領の防衛をするかもしれないので年単位で戻ってこれないことをお話しした。
「……というわけで有朱さん。以前からお願いしているように私は地球に居る神様を探さなきゃなので有朱さんが神様を見かけたり手掛かりを見つけたら教えてほしいんです。
私は今から防衛省を出て遠くに行くのでこうやってお会いすることは当分できませんけどたまにはSNSで連絡しますので」
「うん、分かったよリーナちゃん。正直、神様のこととか、僕の『ステータス』?に『亜神(時空)の複写元となった人物。』と表示されているという話はいまだに信じがたいけどね。
でもリーナちゃんが神様のことを重要で大切に思っているってことは分かったから神様を見かけたら連絡するから」
「ありがとうございます! 神様のことは有朱さんだけが頼りなので助かります。奥様の遥香さんにもお世話になりましたって伝えてもらえますか?
じゃあ私はこれで失礼して防衛省から立ち去りますね」
「ちょっと待ってリーナちゃん、海幕の人からリーナちゃんの行方を知らないかって聞かれたら今の話を全部しちゃっていいの?」
「はい。勝手に出ていくので事件に巻き込まれたか心配されたら嫌ですので。でも私が有朱さんに電話をするまでは黙っててください。落ち着いたら海幕の人には私のほうから電話もしますしね」
♢♢
午後3時過ぎ。私は買い物がしたいからと言って早めに防衛省を出てマイクロバスでスーパーマーケットに送ってもらう。
スーパーではパックご飯、お茶や紅茶のティーパック、レトルトカレー、缶詰なんかの保存食、ティッシュペーパーやトイレットペーパー、洗剤、シャンプーやボディーソープ、使い捨ての食器類を箱買い。その他日用雑貨も大量に。
お惣菜とお弁当コーナーで出来合いの食品を片っ端からカートに入れる。購入したものはマイクロバスに積んでからアイテムボックスへ収納。
護衛の皆さんは手伝ってくれて、どうしてこんなに買うんだい?と聞いてくるけど長い異世界生活で非常食がないと不安な体質になったからと言い訳する。ごめんね。
買い物が終わるといったん防衛省の売店に立ち寄って欲しいとお願いをして防衛省の中に戻ってもらう。
防衛省の売店が入っている厚生棟の横の駐車場に停めたマイクロバスから出たところで私はおもむろに「飛行」を使って高さ4m程まで上昇して空中で静止する。
時間は夕方の5時40分。この時期は既に日没時刻を過ぎていて辺りは暗いけど街灯があるから私の姿が見えないということは無いと思う。わざわざこの場所を選んだのは人通りがほとんどなくて目立たないし、余計な邪魔が入ったり周りに気を使わなくていいと思ったから。
突然私が空中に浮き上がったことで護衛の皆さんが唖然として私を見上げている。
「リーナちゃん、急にどうしたんだい? 危ないから降りてきて欲しいけど……もしかしてどこかに行ってしまおうとしてるのかい?」
護衛のおじさんは、私のやろうとしていることを何となく察してくれたみたい。
「うん、ごめんね。私にはやらないといけないことがあって、このまま防衛省とか理研とかでジッっとしているわけにはいかないんだ」
「そうなのか。どこに行こうとしているのか教えてくれるかな?」
「今はダメなんだ。目的地に着いたら電話してどこにいるのか教えるよ」
「行きたいところがあると言えば、防衛省の人たちもリーナちゃんの希望は聞いてくれると思うよ? 一回お願いしてみた方がいいと思うよ。それに日本国籍もまだ取得していないし。どうかな、考え直せないかな」
「私には時間がないのよ。刻一刻と私の大切な人たちが危険な目に遭って取り返しがつかなくなるかもしれないの。
だから私は行きます。皆さんに迷惑かけちゃってごめんなさい、家出みたいになっちゃうけど、海幕の皆さんには後で電話をしますので。
「今まで護衛をしてくれてありがとう。今この瞬間も、不法入国した不法滞在者が逃走しようとしているのに優しい言葉をかけてくれて心配してくれている。
こんな優しい人たちに護衛をしてもらって嬉しかった。皆さんのこと、好きだったよ。
私が目的を果たせて戻ってきた時にはまたお会いしたいです。じゃ、皆さんお元気で。さよなら!」
私はおじさんたちに別れを告げると垂直に300mほどまで上昇した。
防衛省の敷地内にある巨大な通信鉄塔の更に上まで上昇すれば日没後で空は暗いし地上からは私は視認できないと思う。
私はスキル「ナビゲーション」を使ってJR四谷駅までのルートを確認、時速20kmほどの速度で移動を開始した。
防衛省から四谷駅はすぐに到着した。
午後の6時になるまでは駅の上空で待機。時間になったので駅の横にある公園に目立たないよう着地して待ち合わせ場所の改札に向かう。
大魔導士の秋津さんと落ち合ってから地下鉄南北線を使って3駅6分で六本木一丁目へ。
六本木一丁目駅から歩いて10分ちょっとで目的地だ。スマホの地図アプリがあるから大きく迷うことなない。
東京都港区麻布台にあるロシア大使館。ここが私たちの目的地だ。
大通り沿いの正面ゲートは閉ざされていて警察官が二人警戒している。道端には青色塗装の警察の大型バスが駐車していてかなり厳重な警備をしているみたいだけどいつもこんな感じなのかなあ?
ロシア大使館に来た訳はロシアに亡命してロシアに入国。ロシア政府中枢の人と交渉して北朝鮮との国境にあるゲートや死霊使いの存在を教えて死霊使い討伐の協力をしてもうという計画なんだ。
いちおう、秋津さんはパスポートを持ってるから正式に出入国出来るように頼んでダメって言われたら作戦は中止する。無理は良くないから。秋津さんを犯罪者にはしたくないからね。
ロシアの人たちはちょっと怖いけど私の使える神聖魔法や魔法スキルがあるからヤバくなっても逃げるなり対応は出来ると思うし。
私も大魔導士の秋津さんもロシア語は読み書き会話できるし、「飛行」が使えるし何とでもなるかと。
そもそも日本の自衛隊をロシアにあるゲートを経由して異世界に派遣することなんて出来ないから。海幕の人とお話してよくわかったよ。それが出来るのはロシア軍だってことがね。
私たちは大通りから外れて路地に入ると辺りに通行人が居ないことを確認してスキル「飛行」を使って空中に浮き上がった。
手は繋がないヨ、プロテクティブサークル使ってないから。
辺りは暗いのであんまり目立たないと思うけどーー誰かに見つかったとしてもしょうがない、見つかったらその時考える。
大使館の外壁をあっさりと飛び越えて大使館のメインビル正面玄関前に着地してビルの中に入っていく。
一階の玄関ホールには特に案内板も無いようなので明かりがついている部屋に適当に入ってみる。こんばんは~。なんかこのシュチュエーション、久しぶりだね。舞鶴航空基地以来かな?
ドアを開けると10人くらいが入れる割と大きな事務所の中に職員が二人いた。二人のうちのエラそうなほうを鑑定してみる。
名前 ディミトリ―・バーリン
種族 人(男性)
年齢 46歳 体力G 魔力F
魔法 ー
身体強化 ー
称号 ロシア連邦軍陸軍大佐
ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)工作員
ロシア大使館駐在武官
……なんとなく私たちの希望にマッチした人のような気がする。陸軍大佐さんだったら話が早いかもしれない。
工作員? なにかの整備員さんかな? 声をかけてみよう。
「こんばんはー。私、異世界から来たリーナ・フィオーレっていうんですけど、この大使館の偉い人とお話がしたくて。
そちらのディミトリ―・バーリンさん、えーと。
「ロシア連邦軍陸軍大佐で、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)工作員で、
ロシア大使館駐在武官のディミトリ―・バーリンさん?
ちょっとお話してもらっていいですか?」
私はいきなり事務所に入ってきた見ず知らずの南欧系美少女に名前や肩書を暴露されて目を大きく見開いて固まってしまったディミトリ―・バーリンさんにニッコリと微笑んだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
以上で第4部 パラレルワールド編は終了。次話投稿までには若干間が開きます。
次話 第5部 死霊使い編 「062 空中探査(1)」
アリス視点に戻ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます