第60話 勧 誘


【10月5日 午後9時頃 新宿御苑 芝生広場】



 新宿御苑の中の芝生広場で怪しいおじさんと取引をした後、私の警護をしてくれている警務官さんに電話したら新宿御苑の正面ゲートにマイクロバスを待機させてるとのことで、正面ゲートに向かった。


 警務官さんと警察官さんには怪我をしてないか、酷いことされなかったと随分心配されたけど、何があったのかはキッチリと白状させられた。


 私としては隠すことは無いし、南東口広場での出来事からすべて。あの怪しいおじさんが死霊使いだってことも含めて、おじさんから預かった名刺を添えて報告しておいた。別に私は困らないからね。


 名刺を見た警察官さんは「警視庁警備部課長補佐って……」と絶句されたけど、仮に怪しいおじさんが死霊使いだとしてもステータスって「鑑定」能力を持っている私たち特殊能力者しか見ることが出来ないから、あのおじさんが死霊使いだという客観的な証明にはならない。だからその怪しいおじさんにしらを切られたらどうなるか分からない、なんてガッカリなコメントを頂いた。まあ、そうなるかもしれないね。


 この日本社会に死霊使いやゾンビが紛れ込んでも摘発も排除も難しかったとは……






【10月6日 午前10時頃 理化学研究所】



 翌日、秋津さんに電話して「会ってお話をしたいんだけど、都合はどうですか?」と尋ねたら何時でも大丈夫ってことなので私が理化学研究所に行くことにした。


 いつものマイクロバスに乗って警護のおじさんと5人で移動する。防衛省からは首都高速を通って40分くらい、午前10時頃に到着した。


 マイクロバスが理研の本館前玄関に到着すると秋津さんが玄関前に待っていてくれて私を出迎えてくれる。





「こんにちは~秋津さん、昨日ぶりだね! 今日もよろしく!」


「うんうん、リーナちゃん、こんにちは。昨日は大丈夫だった? 危ないことなかったかな?」


「大丈夫だよ、私には神聖魔法『プロテクティブサークル』があるから弱めに使っとけば蚊も寄ってこないよ?」




 神聖魔法『プロテクティブサークル』を使えば蚊を防げるのは本当だ。


 害虫が全部防げるかというとそんなことはなくて、私を刺そうとしている蜂は防げると思うけどハエとかゴキブリ、ネズミとかはたぶん防げない。


 こいつらは私に害をなそうなんて意識は無くて、ただただ存在が迷惑なだけなんだ。


 ちなみに寝るときはアイテムボックスに収納してあるセミダブルベッドを闇空間の中に出して寝るので100パーセント安全だよ。貰った給料でいろいろと買ったんだ。




「へえ、そうなんだ。便利なんだね。ああ、こっちどうぞ。会議室を二部屋とってるから警護の皆さんもどうぞ」


「うん、ありがとう。じゃ、皆さんも一緒にお邪魔しましょう」




 私は秋津さんの案内で理研本部の会議室に入っていく。いちおう、密談をしたいので部屋は二部屋頼んでおいたんだ。ごめんね、警護のみんな。ちょっと聞かれたくない話をするからね……




 会議室に2人で入ると早速昨日の出来事を振り返って整理を始める。



 まず、南東口広場から風俗街に逃走した聖騎士は今日は理研に顔を出していない。聖女も来ないし二人に電話しても電話にでないので放置である。勝手にしてください。



 秋津さんとしては昨日の出来事を理研に報告するつもりは無いということで理研の動きは無し。


 防衛省は私が警護の警務官さんを通じて報告した内容が上に伝わっているはずだけど今のところ反応ナシ。警察官さんも上に報告しているだろうけど今のところ反応はナシ。

 秋津さんが昨晩からチェックした限りではWEB上のトピックにもなっていないので誰にも画像を撮られたりしてないんだろうね。夜だったし、私たちが飛び上がったのも一瞬のことだったしね。




 という訳で、昨日の件は今のところ何の関心も動きも引き起こさなかったみたい。


 では、そろそろ密談を開始しようかな。




「それでね、秋津さん。私はそろそろロシアに行ってロシア政府に働きかけてゲートの向こうの異世界にいる死霊使いとかゾンビを近代兵器で殲滅してもらおうと思っているの」


「うん」


「いちおう、有朱浩司さんっていう地球の神様につながる手掛かりは得てるわけだし、神様に関する情報が入ったら教えてもらえることになってる。だから神様関係でこれ以上出来ることが無いからロシアに行こうと思ったのよ」


「なるほど」


「死霊使いのおじさんの件は気がかりだけど、私が日本に居ても死霊使いに関して出来ることないから」


「そうかもね」


「私は今のところ日本国籍を取得できてないし、いつ取得できるかもわかんないけど、いつまでも待ってはいられないから自分で勝手にロシアに行こうと思う。


「それでね、できれば秋津さんが仲間として一緒に来てくれたら嬉しいなーって思ってるんだ。良ければ一緒に行かない? もちろん秋津さんが正当な形でロシアに入国できるのが条件だけど」



 秋津さんは私をキラキラした瞳で真っ直ぐに見つめて頬を真っ赤に紅潮させながら返事をしてくれた!



「ふふふ! ようやく、大魔導士である僕の本当の力を披露する時がきたわけですね? リーナさん、大丈夫ですよ安心してください! 

この異世界帰りの大魔導士、秋津がロシア軍を引き連れて異世界の死霊使い・ゾンビ軍団を蹴散らしてやりますよ!」



 ……あれ? 昨日はちょっとカッコいいかもって思ったのは気のせいかな? なんか中二病の痛い人のよう見えるんだけど。



 よく考えると、昨日の出来事なんて典型的な「吊り橋効果」ってやつなのでは。


 必要があったとはいえ、ウッカリと手を繋いでしまったし。やばいやばい、よーし。神聖魔法「カルム」! 冷静になれた。大丈夫だ!



「うん、ありがとう秋津さん。凄くうれしいよ。じゃあ、急で悪いけど今日の夕方の6時に四ツ谷駅で待ち合わせでいいかな? よろしくね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る