第57話 共 闘


【10月5日 午後7時半頃 新宿駅 南東口広場】



 近くには今までジャグリングを見ていた観衆や多くの歩行者が居るけど、「プロテクティブサークル」が作り出す聖なる結界の影響を受けているような人はいないから敵意ある存在や邪悪な存在は近くにはいない?


 私は周囲をぐるっと見渡す


 突然カラスが空から落ちてくるのでザワついているけど、怪しい人物はいない。



「リーナさん、このカラスたちは、もしかして?」


「うん、ゾンビー-カラスのゾンビだよ。人間や吸血鬼以外のゾンビを見たのは初めてだよ、異世界にもカラスゾンビは居なかったし」


「え、リーナさん、吸血鬼って? 吸血鬼が居るんですか?」


「吸血鬼はいるよ。ごめんね、昨日は話さなかったから知らないよね。今は余裕が無いけど、このゾンビカラスの件が落ち着いたら説明するよ」


「分かった! とりあえずこのゾンビカラスって敵だよね? 墜落してくるのはリーナさんが何か攻撃をしたってことなの?」


「うん、私の神聖魔法『プロテクティブサークル』だよ。いまはこの魔法に魔力を注入しているから私を中心に半径100mの結界ー-悪意ある生命体の侵入を阻み、邪悪な存在を弱化させ接近を拒否するー-が形成されているんだよ」



 私は前後左右と空中、全周を素早く見渡しながら秋津さんとの会話を続ける。



「結界の中に侵入したゾンビカラスは弱化されて動けなくなったから墜落してきたんだと思う。鑑定でステータスを見たら分かると思うけど、まだ死んでないから注意して!」




 「ドスン!」



 10mほど離れたところにカラスがまた降ってきた!



 鑑定してみるーーやはりゾンビカラスだ。




 私はテンパりながらもどうすればいいのか考えてみる。落ち着いて私!


 神聖魔法「カルム!」 ヨシ落ち着いた! ついでに秋津さんや護衛の警察官さん達にも「カルム」を掛けておこう。



 しかし、カラスが空中から私を狙ってきたってことは。私がどこかの建物に入ってしまえばカラスの奇襲を防げる?


 防げるかもしれないけど何も知らない一般の人たちに被害が出るかもしれない?


 このゾンビカラス達を使い捨てて自爆攻撃をかけてきている敵の狙いは私なのかな?


 ということは、私が近くに居ると他の人が危険ってことなの?




 ふたたび周囲を見回す。怪しい人はいない。このゾンビカラスたち、誰かがコントロールしてるんだと思うけど、誰の仕業なのか、それが分からない。


 ……今気が付いたけど、聖騎士は歌舞伎町の猥雑な風俗街の方向に走って逃亡していた。聖騎士のくせに。今度会ったらゾンビカラスごときにシッポを巻いて逃げた臆病者と馬鹿にしてやろう……


 ……ダメダメ、集中して私! 聖騎士のことなんかどうでもいいのよ。私に同行してくれている警務官さんと警察官さんが危険かもだから退避してもらおう。



「護衛の皆さん気をつけて! このカラス達はみんなゾンビのゾンビカラスなのよ! 誰かが、たぶん死霊使いが私を狙って攻撃してきてる。私の近くに居ると危ないからどこか建物に入ってくれる?」


「ええ、そうなのか? リーナさんはどうするの?」



 警察官さんが私に問い返してくれる。心配してくれるんだろうけど早く隠れてくれた方がいいんだけどー-



「私はあんまり人がいないところに行ってこのゾンビカラスと、このカラス達に命令して操っている黒幕を始末する! このあたりであんまり人が居なくて広い場所はないかな? 2~3kmくらいなら『飛行』で問題なく飛べるから!」


「だったら明治神宮、いや、新宿御苑か。巨大な公園だし真ん中に広大な芝生広場がある! こっからは南東の方角1kmも無いくらいだと思うよ!」


「うん分かった! ありがとう!」



 私が直径100mの球状結界である「プロテクティブサークル」を維持するには全速力で「飛行」するくらいの魔力を消費し続けてしてしまう。

 そうだ、球状結界の効果範囲を直径10mくらいに縮小しよう。これで劇的に魔力消費が抑えられる。

 異世界の城塞都市クラクフ近郊での戦いで戦闘行動の時の魔力消費を抑えるというか無駄を省くことの大事さを実感したから色々と工夫をしたんだ。


 私は秋津さんに一緒に戦ってくれるように、新宿御苑までついてくれるようお願いするため顔を向ける。



「秋津さん、私はー-」


「リーナさん、僕も一緒に行って戦うよ! 僕も空を飛べるからリーナさんについていくから!


「ありがとう秋津さん! そしたら私の『プロテクティブサークル』の有効範囲にいてほしいから私の近くに寄ってくれる? あ、ちょと待ってね、戦闘行動なんだから、衣装を整えよう」 



 私はアイテムボックスから「聖女の聖衣」と「聖女のティアラ」を取り出して素早く身に着ける。


「聖女の聖衣」は体温調節と対魔法、対物理防御に優れた聖女専用装備、「聖女のティアラ」は頭に乗っけるだけで魔力回復速度を早めるというチート装備でいずれも女神様から頂いた神器だ。




 私の着替えを見ていた秋津さんもアイテムボックスから装備を取り出して身に着けた。


 秋津さんが装備したのは漆黒のローブと金色に輝く長さ1.5mほどの杖、頭には漆黒の三角帽子だ。私の聖女専用装備に相当する大魔導士専用装備なんだろうね。



「秋津さん飛ぶのは得意? 私が飛ぶ方向を決めて飛ぶから、私にくっついて飛行してくれるかな? 私と手を繋ごうか」



 私が差し出した右手を自分の右手で握手するように握ろうとするから、違う違う、秋津さんは左手で私の右手を握って二人が横に並んだ隊形で飛ぶんだよって指導しちゃった。ごめんね、時間が無いから私のいうこと聞いてね?



 私は「飛行」を使用して空中に浮遊すると秋津さんが問題なく追随できることを確認してから徐々に高度を上げて大通りを挟んだ反対側の高層ショッピングモールのビルのてっぺんまで上昇してビルの屋上ーーヘリポートに着地した。


「プロテクティブサークル」の効果範囲はすでに直径10mくらいまでに縮小している。



 高層ショッピングモールのビルの屋上ヘリポートに立つと周囲は暗闇に包まれていた。地上に溢れる街灯やビルの灯りがここまでは届かないからね。




 警察官さんが教えてくれた新宿駅南東口広場から南東方向の公園、「新宿御苑」はすぐにわかった。地上にいるときは建物の影に隠れて気が付かなかったけど、ほとんど新宿駅の隣にあるように近い場所だった。


 ただし、公園の中は街灯はあるけど周囲に比べて暗いし鬱蒼とした森になっている場所や複数ある池が公園の大部分を占めているから光であふれる東京の夜景のなかにぽっかりと開いた薄暗い空間となっている。


 いちおうスキル「ナビゲーション」を起動して頭の中に地図を展開すると公園などの緑地部分が地図上で判別できるようになった。この四角い長方形をした公園が新宿御苑ということだね。長辺が1km、短辺が500mくらいある。


 私は再び周囲を見回して敵の状況を把握する。


 地面に落下して痙攣していたゾンビカラスおよそ10羽はホーリーライトで止めを刺しておいた。いま、こっちに向かって上昇してくるカラス2羽は新手の敵か。



「秋津さん、あそこが新宿御苑らしいよ。あの公園の中央にある芝生広場で敵を迎撃しよう。それでいいかな?」



 私は秋津さんに向かって新宿御苑の真ん中にある芝生公園の方向を指差した。



「わかった! 僕の大魔導士としての力を見せてあげるよ!」



 私たち二人はお互いに頷き合って、ゾンビカラスたちと、命令して操っている黒幕を始末する決意を確認する。


 直径10mの「プロテクティブサークル」を展開したまま、私は大魔導士の秋津さんと手を繋いだ隊形で再び「飛行」を使って浮遊する。


 そして屋上ヘリポートから、薄暗い新宿御苑の真ん中にある芝生広場目指して空中機動を開始した。



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