第56話 スカウト

【10月5日 午後7時頃 新宿駅 南東口広場】



 ……せっかく秋津さんとの関係を明確にしようと思ったのに、お邪魔虫が湧いてきた。昨日の俺様聖騎士か。




 聖騎士の皇すめらぎ亞聖あせいはE○○〇E系ファッションコーデ、モノトーンバイカラージャケットに黒のレザーパンツ、黒のサングラスといういかにもな服装をしていた。


 この人は身長が180cmくらいあるし、筋肉質で大柄なんだ。だからこんな恰好をしていると圧力が強い。


 気が弱い人なら怖いから側には近寄らないと思う。私は大丈夫だけどね。だてに異世界で8か月も過ごしてないからね。


 秋津さんがフリーズしてるみたいだからいちおう知り合いでもあるし私から声をかけてみるか。あんまり気は進まないけど。




「こんにちは♡ 聖騎士の皇すめらぎ亞聖あせいさん。こんなところで会うなんて凄い偶然ですね?」 


「おう、リーナか。こんなところで何してるんだ。そこのダサい大魔導士とデートでもしてるのか?」


「えええ、皇すめらぎくん、デートなんてそんなこと、リーナさんに失礼だよ、ちょっと用事があって打ち合わせをしてただけなんだよ……」




 秋津さんは私の方をチラチラ見ながらアタフタと言い訳をしだした。さっきまでは凄く積極的でグイグイ来てたのに、こんな時は弱気なんだね。


 でも、聖騎士さんは昨日のように私を馬鹿にしたり失礼な言動はしないみたいだけど、どういう心境の変化なんだろう?




「デートじゃないなら丁度いい、俺とちょっと付き合えよリーナ。うまいもん食いにいこうぜ? 

それと服とかアクセサリーも買いに行くか。どうせ暇なんだったら楽しいところに連れて行ってやるからついて来いよ」




 ……おかしい。なんか私ってモテているんだろうか。


 この聖騎士みたいなやんちゃ系というか半グレ系? 関わったことないからどういう気持ちでこんなこと言ってくるのかイマイチ分からないなー。


 どこで何する気なのか聞いてみようかな。




「うん。いちおう暇だけど、どこで何をするの?」



「ああ、俺はいまから仕事なんだ。

リーナ、お前は見た目が映えてるし見どころがあると思うんだ。俺様の勘は外れたことないから間違いない! 

あっちの方に楽しく遊んで酒飲んで、おしゃべりしたら一晩で10万くらい稼げる場所があるんだ!」




 聖騎士は南東口広場から伸びる猥雑な風俗街を指さしながらどこで何をするつもりなのか教えてくれた。




「え? 一晩で10万円?」


「そうだ。興味あるだろ? 

リーナ、今着てる服は子供っぽいからいい感じの服を買ってやる。

店ではちゃんとドレスを貸してやるから服はプレゼントだ!」


「ドレスを貸してやる? お店ってー-」



「ま、大人の社交場ってやつだな! 俺様に全部任せて付いてくれば悪いようにはしないから」


「悪いようにしないって言ってもー-」



「大丈夫、今から行く店は聖女の樹里亜じゅりあも居るから! 安心だろ? 

アイツはツンデレだけど心根が優しいいい奴だから! 


「最初はとっつきにくくて壁があるけどリーナから下手に出て逆らわないようにすれば可愛がってくれるから!」



「聖女は心根が優しくていい奴?」






 ……こいつ。もしかして私をキャバ嬢に仕立て上げようとしている?


 しかも酒飲むとか。私は高校生で未成年なのに! 秋津さんから昨日聞いてたとおりの、それ以上の屑だったよ。


 昨日だって用事があるって昼過ぎにサッサと帰宅したけど、聖女と二人して出勤するためだったに違いない。出勤前に仮眠でもとりたかったのかな?


 ー-やばいやばい、コイツに大人しく付いていったらどんな風俗に沈められるかわかったもんじゃないよ。世の中の全ての女の子の敵。許せないなー。




「へー。いま私って歌舞伎町のガールズバーのキャバ嬢としてスカウトされている訳ね……私の勘違いでなければ?

私は17歳で高校生の年齢なんだよ? お店の人、逮捕されて営業停止になるかもー-」





 その時、唐突にゾワッと悪寒が! 斜め左後方!


 身体を反時計回りに回転させながら両腕を顔の前でクロスさせながらーー


 私の顔に突っ込んでくる黒い塊に魔法を打ち込むーー「フォースバレット!」


 辛うじて魔法の発動が間に合って私に2mくらいまで高速接近していた黒い塊を吹き飛ばした!



「神聖魔法ー結界創造ープロテクティブサークル!」


 急激に反転したためバランスを崩して地面に片ひざをつきながら魔法を発動させた私の身体が淡く輝きだして半径100mの聖なる結界ー-悪意ある生命体の侵入を阻み、邪悪な存在を弱化させ接近を拒否するー-が形成される!



「ドスン!」



 上空から黒い塊が落下してくる。なんなの……カラス、なの? 



「そこの地面に落ちているカラスーー鑑定!」



名前 ー 

種族 ゾンビ カラス(男性) 

年齢 0歳(カラス 3歳)

体力 G

魔力 G

魔法 ー

身体強化 ー

スキル ー

死霊スキル ゾンビ化E ゾンビ修復E

   ゾンビ再生E ゾンビ強化E

称号 ゾンビ 死霊使いの眷属




 ……カラスのゾンビだ! 

 人間じゃなくても、カラスでもゾンビにできるってこと?



 一羽、二羽、三羽とカラスが上空から降ってくる!


 落下してくるカラスは鑑定する限り、すべてゾンビだーー


 ……なぜ? なにがどうなっているの?


 そうか、「プロテクティブサークル」の結界に入って動けなくなって落下してくるのか。ゾンビカラスを使い捨てにして私に自爆攻撃を仕掛けているってこと?



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