第55話 新宿デート

【10月5日 午後7時頃 新宿駅 南東口広場】



「……リーナさん、あの店のスイーツってSNS映えするって女性には大人気らしいんですよ。いってみます? 


「それともあっちのファッションビルで服買いましょうか。ぜひ僕にリーナさんの服を買わせてほしいです!


「でもリーナさんはスポーティで活発な感じもするからそこのスポーツ店でテニスウエアとかで似合う服が有るかもしれませんね、そっちに行ってみます?」




 「大魔導士」の秋津あきつ平八へいはちさんは満面の笑みを浮かべながら私に積極的にお話をしてくれてあれこれと世話を焼いてくれている。




 私は今「大魔導士」の秋津さんとJR新宿駅の南東口広場でブラブラとお散歩している。


 いちおう、警護の人たち4人もつかず離れずで見守ってくれているわけだけど……秋津さん、これって完全にデートのつもりだよね?





 昨日、理化学研究所を訪問して「大魔導士」の秋津さんと出会った翌日にはさっそく秋津さんからお誘いのメッセージが届いた。


 なんでも「今後の連絡体制とか私の家族の防衛とか、ロシアにあるゲートでの活動とか、地球の神様の捜索とか、自分が考えたアイディアを話し合いたい」んだって。


 私としても、私の使命とかやりたいことを手伝ってくれるのはありがたいし、嬉しいから夕方に会うことにしたわけ。





 新宿駅東南口改札で待ち合わせしてゆったりお話ができそうなカフェに入って一時間くらいお話しをした。


 話を聞くと、ロシアって観光するにもビザが必要だから思い付きですぐに渡航することはできないんだって。


 しかもビザの有効期間が30日しかない。秋津さんはパスポートを持っているけどビザ取得に2週間くらい見ておく必要があるみたい。



 ……なるほど、私がロシアにあるゲートから鉄道とフェリーに無賃乗車して無断出入国を繰り返して日本に帰ってきたようには行動できないわけか、普通の人の発想では。勉強になるなー。


 でも秋津さんって私のお手伝いでロシアに渡航して活動する気満々なんだね。ふふふ。うれしいなあ。






 私と秋津さんはカフェを出て南東口広場をゆっくりと歩く。


 カフェに入っている間にすっかり日が暮れて暗くなっているけど、さすが大都会。ビックリするくらいに明るい。私の住んでいた木更津とは大違いだね。



 ジャグジングを披露しているお兄さんの大道芸をまばらに通行人が取り囲んで見物しているのが目に留まってなんとなく立ち止るー-ここ最近のいろんなことが頭に浮かんでは消えていく。





 ……私の難民申請は一向に進展していない。海幕の人がいうには、法務省の入国管理局が難色を示して特例での扱いを拒否しているらしい。


 現状、あまり強く申し入れると不法入国で強制収監されかねないので難民申請の件は様子見になってしまったというわけ。私は凄く微妙な立場みたい。



 防衛省では防衛政策局とか人事教育局とかをたらいまわしになった。その後も神聖魔法「治癒」のデモをさんざんやらされた挙句に「治癒」を研究するために文部科学省の扱いで「理化学研究所」に丸投げされそうになっているというか、されてしまった。



 その一方で私が訴えている「近代兵器による死霊使いの討伐」「地球の神様の捜索」「ロシアにある異世界につながるゲート」などについては「異世界の存在」を含めてあんまり信用されていないみたいでほとんど相手にしてもらえていない。


 私があんまり強硬に主張するもんだから一度だけ内閣官房の職員のヒアリングを受けたけどそれっきりナシのつぶてで放置されているしね。



 海幕の人が言うには私リーナ・フィオーレの身柄は防衛省の預かりであるものの、各省庁があまりにも関心を示さないので海幕としては困っているらしい。


 私の聖女としての聖女スキル「治癒魔法」や「飛行」などの分かり易い魔法にはもの凄いインパクトがあるはずなのになんでこんなに関心が薄いのか? 海幕の人も不思議がっている。


 あの態度の悪い聖騎士と聖女のせいで「特殊能力者は性悪の嘘つき」って思われているんだろうか?



 それにしても、私の聖女スキル「治癒」が有用で調査する価値があることは分かるんだけれど、このままずっと市ヶ谷の防衛省に閉じ込められてジッとしているわけにはいかないんだよ。


 もしこのまま防衛省とか理研で飼い殺しになるようならロシアに行って活動するという方法もあるからそのオプションもいちおう考えてはいるけど。



 私は地球の神様に助けを求めるとともに、地球の近代的軍隊による死霊使い討伐を実行しなければならないのだからーー






 ジャグリングの大道芸が終了したので私と秋津さんは南東口広場をゆっくりと、辺りを見回しながら歩いたり立ち止まったりしながら会話を再開する。


 私は昨日の夜から考えていたことを口にすることにした。




「……秋津さん、私のことを心配してくれてありがとう。 ロシア渡航のこととか、全然知らなかったから助かるよ。ホントありがとう、これからも秋津さんを頼りにしていいですか?」


「うんうん、頼りにして! リーナさんの希望は出来る限り叶えるようにしようと思ってるから! 遠慮なくなんでも言ってね!」


「ふふふ、ありがとうね、秋津さん。

私って異世界から帰ってきてから千葉県の両親と再会できたり防衛省の海上自衛隊の人たちに親切にされたりして嬉しかったんだけど、異世界に飛ばされたっていう経験を共有できるお友達っていうか、仲間はいなかったのよね。


「でも昨日から秋津さんがお友達、仲間になってくれるかなーって思ったら凄く嬉しかったんだ」



 私は秋津さんの方にゆっくりと正対して目と目をしっかりと合わせて次の言葉を発するタイミングを測る。秋津さんは満面の笑みを浮かべつつもちょっと緊張しているみたい。


 よし、いい機会だからこのタイミングで「良いお友達」、「恋愛感情は無いけどステキで頼れる仲間」として秋津さんを勧誘しておこう! と思った時に突然私たちふたりの会話に割り込んできた人がいた!




「おい! 大魔導士! こんなところで何やってるんだ? 

ちゃんと代表者としての仕事はやってるんだろうな? 

俺様に報告が無いけどサボってるのか?

それとも代表者になったからといって調子に乗ってるのか? 

テメエが代表者ってのは単なる作業員、小間使いの小僧、パシリってことだから勘違いするなよ?」




 ……せっかく秋津さんとの関係を明確にしようと思ったのに、お邪魔虫が湧いてきた。昨日の俺様聖騎士か。


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