第54話 大魔道士

【10月4日 午後2時半頃 埼玉県和光市 理化学研究所】



 そうだ、僕もサッサと自己紹介しなきゃ。リーナさんにはしっかりしていて良識がある、頼り甲斐のある大魔道士だという印象を持ってもらいたいからね!



「あのー、僕の名前は、秋津あきつ平八へいはちといいます。鑑定してもらえばわかると思いますけどステータス上の称号は『大魔導士』です。リーナさん、遠慮なく僕を鑑定してみてくださいね」


「はい、秋津さん、大魔導士さんなんですね、よろしくお願いします! それから、聖騎士の皇すめらぎさん、聖女の池尻さん、よろしくお願いします」



 リーナさんはホッとしたようにニッコリとほほ笑んで返事を返してくれた! 声も素敵です、マジ天使。




「えっと、それで自己紹介ですけど、私は異世界のエルトリア王国からやってきました、リーナ・フィオーレといいます。 


「今年の一月に異世界に飛ばされてこの体の持ち主であるリーナ・フィオーレに憑依したんですけど、この体のまま地球に帰ってきたんです。


「ロシアと北朝鮮の国境近くに異世界と地球とを繋ぐゲートがあって、そこを通ってきました。



「それから私の本当の名前は水無瀬美咲っていいます。

千葉県の高校二年生です。


「本当の私、水無瀬美咲のステータスはなぜか『鑑定』しても見えないみたいなんですよね。

ですのでステータスとしての証拠は無いですけど私の称号は『聖女』で『神聖魔法 治癒』『光魔法』も使えますよ。


「皆さんがさっき鑑定で見たのは私が憑依しているリーナちゃんのスキルなんですよね……」




 ここで、部屋の隅にひっそりと佇んでいた一人のおじさんが声を掛けてきた。


 この人は我々特殊能力者の面倒をみてくれる理研本部の担当課長さんだ。




「はいはい、皆さん、和気あいあいと自己紹介できたようですね? これならかなりの事は皆さんにお任せできるというものです。


「リーナさんは防衛省にお世話になっている特殊能力者です。


「という訳で、なぜかほとんど同じ時期にこの日本で特殊な能力者が4人も出現したことになりますね。


「今後はリーナさんを含めて皆さんの特殊能力をここ『理研』で調査研究させてもらって社会の発展に役立つよう皆さんの能力の応用方法を研究させてもらうことになります。


「リーナさんは今は防衛省の扱いになってますが日本国籍取得後は籍を『理研』に移してもらって、身分も『理研』の研究員という形になります。給与も出ますよ? 生活するには十分な額となりますので安心してくださいね」



 リーナさんと4人の目つきの悪いおじさんたちは担当課長のおじさんの話に納得してかしきりにウンウンと頷いている。




「では、今後もこの4人でお仕事を協力していってもらいますので引き続いて親交を深めてください。

私は別の用事があるのでここで失礼しますが、皆さん終わったら解散して良いですので。リーナさん、よろしいですか?」


「はい、大丈夫です。ありがとうございました、これからよろしくお願いします!」



「ああ、それと、秋津あきつ平八へいはちさん、あなたにこの4人グループの代表になってもらいます。何かあったらあなたに連絡をしますのでよろしくお願いしますね?」





 3人だった今までは代表者なんて居なかったのになぜか4人の代表者にされてしまった。


 まあいいか。代表者になったらリーナさんと連絡をとるという口実でお話したり、一緒に行動したり、連絡先を交換したりできる!




 代表者としての連絡方法とかお仕事内容の説明を終えると理研本部の担当課長さんであるおじさんはそそくさと去っていった。


 すると、すぐに聖騎士が声を発する。



「おい、大魔導士。リーダーはお前なんだから後は全部お前がやっておけ! 俺と樹里亜じゅりあは用があるから家に帰るからな」



 聖騎士と聖女は僕にもリーナさんにもサヨウナラの挨拶もしないで会議室を出て行った。


 聖女はリーナさんを睨みつけながら無言で出て行ったけど、どっからどう見ても悪役はリーナさんじゃなくてお前だろーが!




 聖騎士と聖女が出て行ったドアをジッと見つめてそんなことを考えていると。リーナさんが話しかけてくれた!



「あの、秋津さん? 聖騎士さんと聖女さんは帰宅されてしまいましたけど、秋津さんは何かご用はあります? もし、時間があるようでしたらもうちょっと詳しい自己紹介とか、お互いの事情についてお話合いをしたほうがいいと思うのでお願いできますか?」


「もちろん時間はあります! ぜひ詳しく自己紹介しましょう!」


「じゃあみんな椅子に座ろうよ。護衛の皆さんも適当に座ってね。

えーと。ペットボトルとか、缶飲料で悪いんだけど、ジュース、お茶、コーヒーとかありますので好きなの飲んでくださいね、はい、どうぞ」




 リーナさんはアイテムボックス? から冷えた飲料を10本ほど出してくれた!


 リーナさん女子力が高いです。惚れてしまいそうです。というか最初から惚れています。第一印象から決めていました、僕とお付き合いしてほしいです!





「ありがとうございます! アイテムボックスですか? 僕も持ってますけど、あると便利ですよね……


「そうそう、リーナさん、僕のステータスを遠慮なく鑑定してください……


「ところで、僕を含めて三人はアイテムボックスと鑑定、異世界言語(万能)を持ってるんですけどリーナさんも持ってます?……



「……リーナさんのスキルって変わってますよね。闇魔法C、土魔法C、火魔法C、精神操作C、飛行C、怪力C、再生C、アルファベットでレベル表記してあるのは新鮮です。


「リーナさんのいた異世界って、魔法が使えたりスキルがある異世界なんですね? 僕らの居た異世界では魔法を使える人なんてほとんどいなかったですよ。



「リーナさん、会ってみて分かったと思いますけどあの聖女と聖騎士は癖が強いから気を付けてくださいね……


「あの聖女はアルバイトでガールズバーのキャバ嬢やってるし聖騎士は同じガールズバーでボーイのバイトをしているくらいのチャラいというか、ヤバい人たちだから……


「あの連中は異世界でも性根が腐っていて同じパーティーの『女盗賊』の貴族令嬢を虐めたりセクハラしたりしてたから……


「ここ『理研』の職員や研究者たちは紳士で優しい人が多いからか、あんな屑たちを躾けられる人が居ないから好き放題やってるんですよ……



「……リーナさんは、女神様に使命を与えられて地球の神様に助けを求めに来たんですね?……なるほどそうなんですね……


「僕も出来る限りのことは協力しますよ! 任せてください!……



「……場合によっては、ロシアのゲート付近で死霊使いとかゾンビを討伐するんですか?……リーナさんは死霊使いやゾンビを討伐したことがあるんですね、凄いですね!


「僕も出来る限りのことは協力しますよ! 大魔導士の力をお見せしますよ任せてください!……



「……状況によってはゲートを通って異世界へ行くと。そんで一万キロ離れたエルトリア王国まで旅をしてご両親が守っている公爵領を防衛する、と……ずっと走っていくんですね?……


「僕も出来る限りのことは協力しますよ! ゲートを通って異世界の死霊使いどもを大魔導士の力で殲滅して差し上げますよ任せてください!……


………………


…………


……(キリが無いので以下省略)






♢♢





 ……今日は特殊能力を持つ日本人の大学生たちと顔合わせをするため理化学研究所というところに来ている。


 大学生の男女三人ということだったけど、実際に会ってみるとなかなか難しい人たちだった。


 中でも「聖女」の樹里亜じゅりあって人と「聖騎士」の亞聖あせいって人は最初から喧嘩腰で失礼な人たちだった。


 私と一緒についてきてくれた護衛の4人もすごく憤慨している。なんなのよ、人のことを悪役令嬢って失礼にも程があるでしょう……




 だけど、「大魔導士」の秋津平八さんは親切で常識的で優しい人で助かった。


 話を聞くとこの三人は私とおんなじ「アイテムボックス」と「鑑定」そして「異世界言語(万能)」を持ってるってことはあの女神さまが私のために準備してくれた仲間なんじゃないだろうか。


 このほかに「勇者」「女盗賊」が地球に帰ってきているかもしれないらしいから心に留めておこう。





 ……なんとなーくというか。たぶん間違いないと思うけど、大魔導士の秋津平八さんって私のこと好きだよね? 


 私も女子なんだから男子のそういう感情というか気持ち? だいたい分かるよ。メチャクチャ積極的にお喋りしてくれたしね。



 別に好きになられても特に問題はないというか、むしろ嬉しいし好都合ー-あの聖騎士のように馬鹿にしてきたり聖女のように敵意を向けてこられるより断然に良い。


 私は女神様の使命を受けて地球にいる神様を見つけて助けを求めたり、私自身の問題としてエルトリア王国の両親、領民を防衛しないといけない。


 できればエルトリア王国全体を、異世界全体を、地球を含めて死霊使いやゾンビの攻撃から守りたいと思っている。



 だから、私を好きになってくれるなら私を手伝ってくれるかもしれないし私を助けてほしい。


 ごめんね、秋津さんの気持ちというか、ご希望には沿えないかもだけど、私のことは手伝ってください。私とは普通にお友達でお願いします。




 聖騎士と聖女が帰ってしまった後、4時間ほどたっぷりとお互い持っている情報を教え合ったり人柄を感じるようなエピソードを披露しあったりした。


 夜になってもうサヨナラって時になって秋津さんはものすごーく名残惜し気に、未練たっぷりにサヨナラしてくれた。


 別れ際にお互いの連絡先を交換して早目に顔を合わせたり打ち合わせしましょうと言うと物凄く喜んでくれてちょっと可愛い。年上の大学生に向かって失礼かもだけど。




 こうして改めて考えてみると、私は地球に帰って来てから初めて「仲間」と言える人に巡り合うことが出来たみたい。


 私はその事にささやかな幸せと喜びを感じつつ市ヶ谷の防衛省へと戻っていったのだった。


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