第53話 理化学研究所
【10月4日 午後2時頃 埼玉県和光市 理化学研究所】
「理化学研究所」、略して「理研」は埼玉県和光市に本部を置く国立研究開発法人である。
物理学、生物・生命科学、化学等の基礎研究を行うほか脳神経科学、環境資源科学、物性科学、量子コンピュータ、光量子工学などの各種研究センターを傘下に持つ日本において最も先端的であるとともに最も有名な研究開発機関であると言えるだろう。
その「理研」の広大な敷地の中を歩く二人の人物。
最先端の科学技術とは無縁の、対極にあるような、今風の……ハッキリ言えばかなりチャラい男女一組の若者である。
二人の男女はそのチャラい外見にふさわしくチャラい感じで会話を交わしながら目的地に向かって歩いていた。
「ねえ亞聖あせい、今日ここにやってくるリーナって外国人は聖女(笑)なんだよね」
「おう、樹里亜じゅりあ。まったく聞いてあきれるぜ。樹里亜という本物の聖女がいるのに聖女(笑)って、ふざけてるな。聖騎士である俺が軽く締めとこうか?」
「そんな弱い者いじめしてもダサいじゃん。でも、そのリーナって例の吸血鬼とかだったらどうする? ちょっと注意しておいた方がよくない?」
「ああ、そうかもな。でも俺たちは鑑定が使えるから吸血鬼とか? 死霊使いとか? そんなのがいたらすぐにわかるだろ? 心配いらないって」
「分かったー。亞聖、リーナって女に出会ったらソッコーで鑑定かけてね?」
「まかせとけって。吸血鬼だったら俺の聖剣で真っ二つにしてやんよ」
「亞聖ヨロシクー。でも、あの白い世界に居た女が言ってた『吸血鬼』『死霊使い』『宇宙人』ってホントにいるのかなー。
アタシはそんな奴らとの戦争なんて嫌なんだけど。
だいたい、あの異世界でだって魔王討伐なんて嫌だったけど無理やりだったし。
あの、とんでもなく強い『勇者』君が居ればまだいいけど勇者が居ないんじゃ怖くて戦えないんだけど。
ってか、あの勇者なんて聖女のアタシ並みに治療、回復魔法が使えたし。アタシなんか居なくても魔王討伐アイツ一人で良かったと思うし」
「そういや『勇者』と『女盗賊』も地球にかえってきてるんかな。アイツらの正体がわかんないから確かめようがないけど」
「そんなの分かんないよ。アタシたちの周りには居ないよ? いれば鑑定掛ければ分かるしょ?
でもアタシたち三人で強敵と戦うには不安だし。忌々しいけど、『女盗賊』のスキルは役に立つし。
しかもあの2人のスキルには敵を探したり物を見つけたりする便利な技があったから」
「リーナって女は『死霊使い』が異世界から攻めてくるって騒いでいるらしいな。迷惑な奴だ。
そんな強敵は、もしいたとしても軍隊に任せときゃいいんだよ。
「おい、大魔導士! おまえ、リーナって女に同調して『死霊使い』から地球を守るなんて変な気起こすんじゃないぞ!」
「うん、分かったよ皇すめらぎくん……」
異世界から帰ってきた聖騎士である皇すめらぎ亞聖あせいは後ろを振り返って秋津あきつ平八へいはちに釘を刺した。
秋津あきつ平八へいはちは早豆大学の2年生。聖女や聖騎士と同じく異世界から帰ってきた大魔導士である。
あんまり優秀な大学とはいえないけど大学の保育・幼稚園コースで真面目に勉強していた。今年の一月までは。大学で授業を受けていた時に突然異世界に放り込まれて、異世界の宮廷魔術師に憑依させられたのである。
……およそ一年間の過酷な異世界生活において気の弱い僕は「勇者」「聖女」「聖騎士」にいいように使われた。
「女盗賊」は控えめで可愛くて美人で性格の好い良識のある御令嬢だった。
僕が憑依していた宮廷魔術師のおじさんは極めて強靭なエロい精神力を持っていて、しばしば僕の意識をオーバーライドして勝手に「女盗賊」の御令嬢に対してセクハラ行為を繰り返してしまっていた。
当時は魔王討伐のプレッシャーから逃れるように精神力の弱い自分を正当化していたけど地球に帰ってきた今考えると後悔しかない。「女盗賊」さんが地球に帰ってきていたとしても合わせる顔がない。
今日、理研を訪問するというリーナさんは自称「聖女」らしいから「女盗賊」じゃないよねー-。
おっと、リーナさんが待っている本部ビルの会議室についてしまった。
「聖騎士」皇すめらぎ亞聖あせいと「聖女」池尻いけじり樹里亜じゅりあの二人はノックもしないで会議室のドアを開いて中に入っていく。
慌てて後につづいて僕も会議室に入っていくとー-。
そこには目つきの悪いおじさん4人に囲まれるようにして立っている、天使が居た!
身長は160cmちょいくらい。スタイルはスリムだけどバランスよく調和されている。女性的で健康的なボディライン。
髪の色は明るいブラウン、瞳の色もブラウン、というよりもアンバーなのかな?
着ている服は高校生が着るようなグレーのプリーツスカートに白地のポロシャツに白いスニーカー。カワイイ。
そして顔はー-途方もない美少女だった! 健康的でスポーティななかにも優し気で親しみやすさが溢れている!
しかもこんなフツメンの僕に向かってなんとなく微笑みかけてくれている! リーナさんがこんなにカワイイ人だったとは!
……そうだ、ステータスを拝見させてもらおうかな? でもいきなり勝手に見たら印象が悪いかもしれない。じっくりとお話をさせてもらって人間関係を構築しつつ、許可を得て教えてもらうか鑑定させてもらおう。そうしよう。
ところが! ここに人間関係を構築するという概念の無い奴が居た!
「おいおい、聖女(笑)って聞いてたけどどこが聖女なんだよ?
「なになに、
名前がリーナ・フィオーレで
「種族は人で女性
年齢は17歳、体力がGで魔力がF
「魔法と身体強化はナシで
スキルが闇魔法C、土魔法C、火魔法C、精神操作C、飛行C、怪力C、再生C
「そんで、称号がフィオーレ公爵家長女だって?
「このステータスのどこが「聖女」なんだよ。むしろ闇魔法とか、怪力とか、再生とか、魔物のスキルじゃないのか?
魔物じゃないにしても偽聖女、闇落ち聖女、悪役令嬢じゃないか。公爵家令嬢ってなってるし」
「キャハハ! ウケるー。亞聖あせい、冴えてるー。悪役令嬢ってピッタリじゃん。この子は悪役令嬢で決まりだね!」
「アハハハ! じゃ悪役令嬢のリーナさんにご挨拶させてもらおう! 俺は『聖騎士』の皇すめらぎ亞聖あせいだ! キリッ!」
「アタシは『ほ・ん・と・う・の聖女』の池尻いけじり樹里亜じゅりあだよ~ よろしくね悪役令嬢さん?」
この連中のあんまりな態度に頭が痛くなってきた。「本当の聖女」樹里亜じゅりあはメチャクチャ上から目線でリーナさんにマウントを取っている!
……しかしこの聖女の目つきと態度には見覚えがある。あの過酷な異世界生活において、メチャクチャ強い上に第二王子でもあった「勇者」(正体は不明)に媚びる「聖女」樹里亜じゅりあ。
当時は聖女の正体が樹里亜じゅりあだとは知らなかったけど、自分の気に入らない女を攻撃して貶める性根は今と変わらないようである。
控えめで可愛くて美人で性格の好い良識のある御令嬢だったあの「女盗賊」。
性悪で阿婆擦れの「聖女」樹里亜じゅりあは勇者の第二王子から見えないところで女盗賊に嫌がらせをしてイビリ倒していた。
そんな可哀そうな女盗賊にセクハラ行為を繰り返してしまっていた最低の僕。
すいません、僕のせいじゃないんです。僕が憑依していた宮廷魔術師のおじさんの強靭なエロい精神がわるいんです。許してください……
いきなり悪役令嬢などと決めつけられたリーナさんも、周りを囲んでいる目つきの悪いおじさんたちも目を見開いて唖然としている……恥ずかしい。
こんな頭が悪くて性悪な連中と仲間と思われるのは真っ平ごめんだよ……
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