第49話 ただいま

【9月14日 午後9時頃 舞鶴航空基地】


「ええ? そうなんですか? でも、あの子は嘘を言っているようには思えなかったですよ? しかも、魔法! あれは手品でもトリックでもなく、間違いない本当の魔法ですよ! それは間違いありません!」


「確かに。僕も君の歯を見せてもらったから分かる。彼女が飛行するのも見た。間違いなく魔法という技術は存在するんだろう。しかし、水無瀬美咲さんとは別人なのかもしれないよ? 嘘を言っているという自覚がないだけなのかもしれないけど」


「そうなんですか……? そうですねえ。

あの子、美咲ちゃんにそのことを言うの嫌だなあ。千葉県の自宅に水無瀬美咲さんが行方不明にも迷子にもなっていなくてぴんぴんしているなんて」


「それはそれとして、異世界が危機に瀕していて、しかも地球に繋がるゲートが露朝国境付近のロシア側にあるとは。彼女にパソコンの地図ソフトと照合してもらって間違いなくゲートの場所を特定できた」


「そのことについてはーー隊司令、どうするんですか?」


「この話が本当だったらまさに地球の、日本の危機だよ。最初はロシアの危機だけどね。何しろ、ゲートの場所が日本に近すぎる。黙っては居られないな。そもそも我々が彼女の言うことを聞かなかったとしても違う誰かに訴えるだろうから。

あの魔法の力があれば必ず耳を傾ける者がいるだろうからそれなら海上自衛隊、防衛省が最初に耳を傾けた者になるべきだと思う。

今から館山の21航空群司令と厚木の航空集団司令部に相談するよ」






【9月15日 午前10時頃 舞鶴航空基地】



 翌朝になって私は女性自衛官さんに案内されて隊員食堂で朝食を頂いた。8カ月ぶりのまともなお食事! 感動です。それに海上自衛隊のお食事は美味しいって評判だからね。実際美味しくて満足したよ。久しぶりの温かいご飯とお味噌汁!



 朝ごはんの後は昨日に隊司令さんとお話ししたお部屋に案内されて説明されるには。今日の午前中にヘリコプターで神奈川県の厚木飛行場まで飛んで連れて行ってくれるんだって。やった〜! 希望どおりだ!


 で、厚木にいる海上自衛隊の偉い人に会ってもらってからそのあと直ぐに市ヶ谷の防衛省に連れていかれるかもって。話の展開が早い! じゃあ、千葉のお家にはいつ帰れるんだろうか。



「あのー、千葉の自宅にはいつ帰ることが出来るんでしょうか? 木更津のお父さんともお話したいし。8カ月間も行方不明だから心配していると思うんですよ。こんな体になっちゃったけど、アタシって水無瀬美咲だし」


「昨日から水無瀬1佐には連絡しているけど繋がらなくてね、ごめんね美咲さん。それに外見が大幅に変わっているからご家族に説明するにもジックリと準備して説明した方が良いと思うんですよ。まずは、女神さまの言っていた異世界の危機、ひいては地球の危機ですからこっちを大至急対応しましょう」


「……うん。外見がこんなに変わっちゃったからね。アタシもそれは目を逸らしていたんですけど実は心配で。認めてもらえなかったらどうしようとか」


「ますはご自宅の様子を把握しますのでちょっとの間任せてもらえますか? 美咲ちゃんの気持ち良く分かりますのでちゃんと調べますよ!」


「はい、幕僚室長さん、お願いします。自宅のことも大事だけど異世界の危機のことも大事なんです。異世界にはアタシの第二の家族が待っていますから。女神さまからのお願いをどうやってかなえるか悩んでいたんです。よろしくお願いします」





 朝の10時にはヘリコプターに搭乗して舞鶴航空基地を離陸した。私は今は女性海上自衛官の夏服を着せられている。私が着ていた異世界の衣装は現代日本では浮きまくりだからね。コスプレでもあり得ない生地の手作り感とクオリティ。見方によっては高級品かもしれないけど、普段着るにはおかしすぎる。冬の服だし。私たちが乗ってるヘリコプターはSH-60K対潜ヘリコプターだって。後部座席の2席に私と隊司令さん、もう一機に幕僚室長さんと幕僚の人がついてきてくれた。





 舞鶴航空基地から厚木飛行場までは3時間ぐらいかかった。ヘリコプターに乗るのは初めてだけど、結構振動があって、山岳地帯を飛行すると上下の揺れ? 突然降下したり上昇したりが結構あって乗り心地はあんまりよくない。

 飛ぶこと自体はスキル「飛行」を異世界に居る時から散々使ってきたから怖くはないけど揺れると気持ち悪くなるから困る。




 着陸したヘリコプターから降りたら黒い車が待っていて乗せられる。隊司令が隣に、幕僚室長さんが助手席に乗って、先導するパトランプの付いたランドクルーザーの後について走り出した。

 あらら、滑走路のど真ん中をぶっちぎって反対側にいくんですか。どこへ行くのか聞いたら海上自衛隊の航空集団司令部というところの司令官さんに会うんだって。




 隊司令さんの説明によると、この厚木飛行場ってアメリカ海軍の航空基地になってて今から行く航空集団司令部って滑走路を挟んだ向こうのアメリカ海軍管理区域側にあるんだって。フーン。


 確かに滑走路脇の駐機場には見たことない戦闘機がおいてあるなあ。なんだろうね? あ、アメリカ海軍の空母「ロナルド・レーガン」艦載機のFA-18E/Fですか。そうですか。




 目的の司令部に着いて、航空集団司令官さんとお話。昨日の夜と同じ話をして、「治癒」で虫歯を治療をしてあげたら劇的に態度が急変した! 薄毛は治癒できないですかと聞かれたので試みたけど効果はほとんど無かった。禿げている状態は病気でも怪我でもないってことかな?


 遅めの昼食をテイクアウトの軽食で済ませて直ぐに滑走路の反対側に行って再びヘリコプターに。東京市ヶ谷の防衛省に行くんだって。私たちがヘリに乗ったらあっという間に離陸して高度を上げた。


 市ヶ谷までは15分ぐらいで着いちゃうらしい。早いなあ。ウラジオストクからのフェリーで舞鶴港に到着して。そして舞鶴航空基地に飛び込んでからまだ一日も経ってない。展開が早くてなんかぼーっとする。千葉県の家にはいつ行けるんだろうか。

 そもそも私って自宅ではどういう扱いになっているんだろうか。なんとなく行方不明になっているか死んでしまっているかのどっちかじゃないかと思っていたけど、こんな姿で水無瀬美咲だって分かってくれるかな。しっかり考えるのが怖くて目を逸らしていたけど。



 市ヶ谷の防衛省のビル屋上に着陸したヘリから降りてビルの中に入っていく。ヘリまでお迎えに来てくれていた人が言うには海上幕僚監部というところに行くんだけど、お父さんが市ヶ谷に来てくれているって! 早く! 早く!




 エレベーターで7階まで降りて会議室のようなところに案内される。中に入ると、お父さんだ! いつも見慣れている夏の制服を着ている。私とおんなじだ!



「美咲? なのか?」 


「そうだよ! 美咲だよ! ただいまお父さん!」



 私はお父さんに抱き着いた!



「えーと。美咲は今まで異世界に行ってつい昨日日本に帰ってこれたばかりなんだよね?」


「うん。そうだよー」


「異世界に最初に行った時ってどうやって行ったのかわかる?」


「それがねー。よくわかんないんだよー。気が付いたらね、立派で豪華な部屋に立っててね。同じ部屋には変な気持ち悪いゾンビが居たの! 怖かったんだよー」


「そうかそうかあ。大変だったね、お父さんにお顔を見せてくれる?」


「うん。これでいい?」



 私は抱き着きの体制から体をやや話して顔が見えるようにした。久しぶりのお父さんの顔だねえ。あんまり変わってない。私が居なくても平気だった? 心労で多少老け込んでいても良かったんだよ?



「ああ。美咲だね。一見日本人じゃないように見えるけど、どこからどう見ても娘の美咲だ。いったいどうしてー。おーい、亜希子! 入っておいで! 美咲に間違いないよ!」



 亜希子って、お母さん? 部屋の隅に置いてあったパーテーションの蔭からお母さんが出てきた!



「美咲なの? ああーーそうね。ヨーロッパ人みたいに見えるけど美咲だね。美咲、いつの間に髪を染めてカラーコンタクト入れたのってくらい美咲ねえ。こっちおいで!」






 お父さんとお母さんに今までの事を話した。二人ともウンウンと聞いてくれた。ああ。分かってくれないかもって心配していたけど何の問題もない。いつものお父さんとお母さんだ。



「ということは、私たち夫婦に娘がもう一人出来たってことになるのかな? 悪くないっていうかかなり嬉しいわね。あなたは姉がいいの? それとも妹が良いの?」


「うん? 何のこと?」


「私にもよくわからないのだけど、千葉の家には水無瀬美咲ちゃんは居るのよ。今朝も元気に高校に登校していったし。なぜだか分からないけど水無瀬美咲は二人いるみたいね。千葉の自宅と、今こことにね」




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