第48話 舞鶴航空基地

【9月14日 午後2時頃 舞鶴航空基地】



 2階に上がって隊司令室を探すーこっち側の廊下の突き当りか。右側の廊下をてくてくと歩いていく。


 廊下の奥にある隊司令さんの部屋ーーこの部屋が司令室って書いてあるけど司令室に入るには総務室っていう事務室を経由してくださいって書いてある。

 フーム。どうしよっかな。こっちの幕僚室ってところに行ってみようかな。でも、不審者として警戒されたらどうしよう? 


 ……まいっか。いざとなったら「神聖魔法」かリーナさんの持ってる「精神操作C」の連発で逃げればいいか。「闇魔法」もあるしね!



「コンコン! 失礼しまーす」



 私は幕僚室に入っていった! というのも、幕僚って幹部だから、話が早いと思ったのだ!



「コンバンワ~。あたし、木更津航空補給処の水無瀬1佐の娘で水無瀬美咲っていいます。迷子になってしまったので助けて欲しいんですけどお願いできますか?」



 幕僚室の中では緑色のフライトスーツ(飛行服)を着た航空機搭乗員らしき隊員さん4人がソファーに座って楽しげに駄弁っているところだった。

 突然の訪問者、しかもそれが17歳の南欧系人種なのでビックリしているのでしょう。会話が途絶えて呆然とされています。


 ちなみに今の私=リーナちゃんは日本人である私そっくりの顔をしていて日本人的な雰囲気のある美少女です。つまり、日本人みたいな柔らかめの雰囲気の南欧系という、たぶん日本人が見るともの凄くカワイイ感じの美少女です。私も鏡を見てビックリしたからね。可愛すぎて。



 ……しかしリアクションが返ってこない。ちょい心が折れそうになるけどお父さんと一緒の職場の人だから大丈夫! ちゃんと聞き取れなかった可能性があるかもだから、もう一度ハッキリと伝えてみよう。



「あのー。私、水無瀬美咲っていうんですけど迷子になっちゃってー」


「はいはいはい! 迷子なんですね! ささ、部屋に入って! 外は暑かったでしょう? 冷たいお茶がありますから休憩してくださいね! アイスもあるよ!」



 フライトスーツを着ている4人のうち一番年上っぽいおじさんがスクッと立ち上がると満面の笑みで私を部屋の中央ーーソファーのところに案内してくれた。


 他の3人の隊員さんは蜘蛛の子を散らすように散らばっていったと思ったら冷たい麦茶とお菓子、カップアイスを持ってきてソファーに座った私の前に並べてくれた。


 おじさん4人(2人はお兄さん?)にメチャクチャ大歓迎されたみたい。







「……それで美咲ちゃんは千葉県木更津市に住んでいる高校ニ年生で、海上自衛隊木更津航空補給処に勤務している水無瀬1佐の娘さん。そして今は舞鶴航空基地の中で迷子になっていると?」


「はい。そうなんです」




 私はなにか申し訳ない感じで元気なく返事する。最初に神聖魔法の「カルム」を発動して心を安静にしてもらってから話をきいてもらうかーーみたいな感じで深く考えないで気軽に部屋に飛び込んだのが悪かった。お父さんと同じ海上自衛隊の人ってことで気が緩んだんだろうね。魔法を使うタイミングがないまま色々と説明させられてしまっている。




「千葉県の高校生がなんで舞鶴の基地の中にいるのか。しかも日本人に見えないけど日本語ペラペラ。不思議だなあ。美咲ちゃんってここまでどうやって来たの?」



 あー、上手い言い訳が思いつかないーーどう答えれば正解なのかわかんないーー



「……空飛んできました。舞鶴港の上空から周りを見渡したら海上自衛隊の飛行場が見えたから助けてもらえるかと思って?」


「うんー? 空を飛んだって? どうやって?」



 もうやけくそである。なるようになれーー! 飛行!



「はい。こうやってですね」



 椅子に座ったままの姿勢で空中1.5mくらいまでフワーッと浮き上がった私は浮いた姿勢のまま冷たいお茶をグビリと飲む。冷たくて美味しい。4人の海上自衛隊航空機搭乗員の皆さんはのけ反ってしまって目を見開いている。







 結局、私が女神さまにロシアにあるゲートで繋がっている異世界に放り込まれて8カ月かけて地球に戻ってきたこと。「飛行」の他にも色々と魔法が使えること。異世界が死霊使い達によって危機に瀕していて助けを求めに来たことなどを全部話してしまった。


 私が魔法を使える「聖女」であることを証明するのに、病気かケガの人いないですかって聞いたら腰痛の人と虫歯の人が居たので「治癒」をかけてあげた。


 腰痛は治ったとしても本人が治ったって言ってるだけでいまいち証明にはならなかったけど虫歯の人は劇的だった。虫歯が痛くなくなったばかりか、過去に治療してあった歯の金属や樹脂製の詰め物が全部外れてしまったのだ。もちろん歯は完全に健康な永久歯になっている。真っ白である。


 とりあえず、全員が歯の「治癒」を希望したので治してあげたら全員が完全な私の味方というか、信者というかーー完全に私を信用してくれた。聖女ってすごい。


 ところでこんな夜になっても隊員さんが職場に居るのは演習中で夜間待機中だから大勢の人が残っていたんだって。普段だったら少数の当直と勤務員しかいないらしい。良かった。ラッキーだったみたい。




「……なるほど。そういうわけで水無瀬美咲ちゃんはそんな姿になってここに居るんだね。

ふーむ。まるでラノベのような漫画のようなお話だけどさっきの「飛行」とか、「治癒」とか。魔法にまちがいないよねえ。

ちょっと待ってくれる? 隊司令に報告してくる。安心して、悪いようにはならないよ。いい人だからね」




 私の話を聞き終わった幕僚室長さんーー4人の航空機搭乗員の中で一番年上っぽっかったおじさんは部屋を出て行って報告に向かった。



 隊司令さんに報告に行った幕僚室長さんが戻ってくるまで他の3人とお話をする。話の内容は異世界の死霊使いの話がメイン。吸血鬼の件は一切話さなかった。なんとなく今は伏せた方が良いような気がしたから。


 あとお菓子とかアイスとか好きなだけ食べていいからって言われたから少しばかりアイテムボックスに収納させてもらった。手に持ったお菓子が一瞬のうちに消えたり出現したりするのを見てみんなビックリしていた。ふふ。人をビックリさせるのってたのしい♪







 30分くらいして幕僚室長さんが帰ってきて今から隊司令さんとお話してほしいといわれる。隊司令さんの部屋に行くのに残りの3人もついてきてくれる。私のことが心配だからついてきてくれるんだって!







 結局、隊司令さんにもさっきと同じような話をして魔法を見せて納得してもらった。いちおう希望としては千葉県の自宅に帰りたいということと、女神さまが言う異世界の危機をなんとかすべく助力を得たいということをお願いした。


 でも、自宅への帰宅はさておき異世界の危機をなんとかするってのはすぐには無理かも。あんまり期待できないなーと思う。4人の航空機搭乗員の人たちや隊司令さんの反応があんまり良くなかったんだよね……外国での武力行使がどうだの、ロシアが認めないだのいろいろ難しそうだってことはなんとなく感じた。




 今夜は舞鶴航空基地の中の女性自衛官宿舎に泊めてもらうことになった。担当の女性自衛官さんに案内されて宿舎に行ってお風呂を使わせてもらった。8か月ぶりに暖かい湯船に浸かって入浴! そして部屋には簡単な夜食が準備してあって嬉しかった。おなか減ってたし、この8ヶ月間は異世界の携帯食とかパンばっかりだったから。お腹を満たして清潔なシーツを使ったベッドに潜り込むことが出来た。快適だ~文明って素晴らしい!





♢♢♢♢





 水無瀬美咲と自称する外国人女性を女性宿舎に向かわせた後。舞鶴航空基地第23航空隊司令は幕僚室長と先任伍長の二人に問いかける。



「さっきの水無瀬美咲さんという外国人女性の言ってること、本当だと思う?」


「え? 隊司令、本当ですよ。あんなに日本語上手だし、日本のこと知ってるし、千葉県木更津のことも良く知ってました。

外見は一見外国人ですけど顔はすごく日本人っぽく見えるし態度や振る舞いも日本人高校生っぽいですよ? すごく良い子ですしね。父親の水無瀬1佐のことも随分と話してたじゃないですか。私はあの子の味方ですよ?」


「そうなんだけどね。僕は水無瀬1佐とは入隊同期なんだけどさっき水無瀬1佐に電話して聞いてみたんだ。

そしたら、確かに美咲ちゃんって娘は居るけど行方不明にも迷子にもなっていない、家にちゃんと居るって言うんだよ」



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