第45話 地球へのゲート

【8月3日 ゲート付近 吸血鬼居住地】



 エリトリア王国王都を出立してから8ヶ月、ポーランド王国の城塞都市クラクフを出て5ヶ月が経った。



 クラクフを出てからは出来るだけ人気のない場所を選んで休憩して魔力を回復させてから闇魔法「闇空間」を発動、闇空間に入り込んでから箱馬車の中で寝るというスタイルに変更した。


 魔力満タンなら半日以上闇空間を維持できるから移動速度は落ちて効率は悪いけど安全に寝ることはできるから安眠できるしね。


 こんな感じでひたすら移動に専念しているうちに一か月も経つと全く人に出会わなくなった。


 集落にも行き当たらないし人が通る道も無くなってしまったので遊牧民のような定住しないような人達しか居ない地域に到達した訳ですね。


 更に移動していくと地球のロシアにあたる永久凍土地帯に突入した。初夏だったので雪はほぼ無いし、意外と気温は高い。


 北極海沿岸に近づくと北極圏なので一日中陽が沈まない白夜になっていた。最高気温は15度くらいあって多少肌寒い程度の快適な気候なのは意外だった。もし冬だったら一日中オーロラが見える神秘光景が見えたんだろうけど、常に氷点下30度から40度の極寒気候で移動は無理だったかもしれない。運が良かった。


 日本にいたら経験も出来なかった体験なんだけど異世界に飛ばされたことを考えるとあんまりインパクトはなかった。永久凍土のツンドラ地帯を沈まぬ太陽の下で黙々とスキル「飛行」を併用しながら半ば飛ぶように駆け抜ける私。ちょっとカッコイイよね。





 ……ところで私は既にゲートのすぐ近くに来ている。実は一週間前にはここまで着いていて色々と情報を収集したりとか、今後どうするかを考えていたんだよね。


 ゲートの周辺は吸血鬼達の居住地となっていて多くの真なる吸血鬼と眷属吸血鬼が暮らしている。話を聞くと、最近になってゲートを使った地球側への移民が始まったらしい。

 ただ、ゲートの向こうという未知の世界への移民はしり込みする人が多くてあまり希望者は居ないようで、希望すれば比較的簡単に移民候補者として選ばれるんだって。


 聖女の能力を持っている私なら吸血鬼たちの制止を振り切ってでも強引にゲートを通過してしまうこともできると思うけれど、穏便にできるならその方が良いので移民として希望することにしようかな。


 ゲートを通ってから向こうの安全な居住地まではかなり遠いらしい。それにゲートから出た場所って少し物騒な場所とのことで目立たないように一度に10人ずつくらい、1日2~30人くらいを移動させてるんだって。なのでとりあえずゲートを通過する順番待ちをしているって訳。ゲートの向こうが物騒ってどこなんだろうね? できれば日本に近いところであってほしいけど、地球で物騒なところと言われてもピンとこない。



 あと、女神様が言ってたように地球に行ったら地球の神様を探さないといけないけどどうやったらいいのか見当もつかない。地球の神様に会って私を元の姿に戻してもらうことと死霊使いたちの討伐のご助力をいただくことをお願いしなきゃいけないのに……女神様がお告げでもしてくれればいいのに。女神さまは8ヶ月前に私の頭の中から消えてしまって以降なんの音沙汰もない。




 ……ゲートを使って地球に行ったとしても神様と会う方法が分からないなら当面は日本に戻って日本の両親と会うこと。そして、地球の近代兵器を用いて死霊使いを討伐するよう各所にお願いしてみよう。

 そして、死霊使い討伐のめどが立たない場合に備えてエルトリア王国にいる家族たちが日本に移住出来るように頼んでみよう。

 このためには地球でも私の聖女スキルを躊躇なく使っていくよ!



名前 リーナ・フィオーレ

種族 人(女性) 

年齢 17歳 体力G 魔力F

魔法 ー 

身体強化  ー

スキル 闇魔法C 水魔法C 火魔法C

   精神操作C 飛行C

   怪力C 再生C

称号 フィオーレ公爵家長女




名前 水無瀬美咲

種族 人(女性) 

年齢 17歳  体力ー  魔力F

魔法 ー

身体強化 ー

スキル 光魔法5神聖魔法5治癒魔法5

   身体強化5毒耐性5麻痺耐性5

   杖術5聖杖術5

   アイテムボックス5鑑定5

   異世界言語(万能) ナビゲーション

称号 リーナ・フィオーレに憑依している地球人。

   聖女。魂だけになっている。





 この8か月でステータスは年齢が17歳になったのを除けば全く変化ない。







【9月10日 ゲート】


 ようやく私がゲートを通過する番になった。長かったなあ。8か月もこっちの世界にいたことになるよ。





 今は私たちゲート通過希望者を先導する吸血鬼のおじさんの後に続いてゲートに向かって山道を歩いている。


 やがて山の中腹に木の茂みで秘匿された洞窟があった。吸血鬼と思われる見張り2人がいて私たちを一人ひとりチェックしていく。一瞬ゾワッとする悪寒を感じたから私たちのステータスを「鑑定」しているんだろう。


 チェックが全員終わってからその洞窟の中に入って奥へと進んでいく。私以外の9人はお互いに知り合いのようでリーダーらしき人を中心にしてまとまって行動している。この人たちは今日初めて出会った人たちで面識はなかった人たちだ。みな緊張しているのか、あんまり会話は無い。




 長さ100mくらいはあるトンネルを通ると最奥は直径20mくらいの円形ドームになっていて円形ドームの一番奥の壁に張り付くように「ゲート」があった。


 ……これがゲートか……




 一番目につくのが直径3mほどの円形のゲート境界面。キラキラと光輝く波打つ水面の様だ。神秘的な美しさがあって見ているとその存在感に吸い込まれそうになる。


 その境界面を囲むように漆黒の枠。幅は5cmくらいだろうか。



 ゲートの傍にも吸血鬼の見張りが2人いて、私たちにあれこれと説明してくれる。地球側の準備は整っているので何時でもゲート境界面を通っても良いそうだ。ゲート通過に当たって危険も注意事項もないということで、ゲート境界面に進むよう見張りの吸血鬼に促される。



 まず最初に私以外の9人がゲートの境界面に飛び込んだ。


 一人残された私は一人だけでゲート境界面に飛び込む。8カ月ぶりの地球への帰還。家族のみんな、ちょっとだけ待っててね! 日本に行って死霊使い撃退の目途か、日本での生活の目途をつけてから助けに戻ってくるからね!



 視界が一瞬にして切り替わった!



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