第26話 迎 撃

【240日目 東京時間8月4日(木)1300頃 ワシントン時間 8月4日(木)0000頃 ワシントンD.C郊外の高級住宅地カロラマ地区】



『……マスター。この家に侵入しようとしている人間が六人いる。若い女と男が五人だ……』



 ワシントンのカロラマ地区にある自宅の外に配置している調教した眷属の強化カモメ達からの報告を聞いた私はベッドから飛び降りた。

 ちなみに異世界イースにおいては調教した動物とは概ね1kmの範囲でお互いに意思を伝達しあえるが地球では半径20mの範囲でしか通じない。そのためカモメたちは私の寝ている部屋の近くまで飛んできて報告してくれるのだ。


 私は急いで服を着替えながらみんなに念話で呼びかける。


『みんな! この家に侵入しようとしている人間が六人いる! 急いで起きて着替えて寝室を出て廊下にでてくれる?』



 私は茜ちゃんとエマ園長の三人で再びアメリカに来ていた。アメリカ政府から特殊アイテムの追加発注をお願いされたからまた観光かねて旅行しようと思ったのだ。


 別にアメリカに来なくても特殊アイテムを日本で作って亜空間ルームにぶち込んで亜空間ルームコントローラーごと渡せばいい訳だけど、折角アメリカ観光できる口実があるんだから機会は活用しないとね……! 高校生だから夏休みだし部活やってるわけじゃないから暇だし。夏季補修授業? そんなものには出ません。



 今日はワシントン、カロラマ地区にある自宅での2泊目。三週間超の旅行日程なのでまだまだ始まったばかりだ。これからワシントンだけじゃなくてフロリダ、メキシコ湾を左に見ながら西に向かってニューメキシコ。カリフォルニアにまで足を延ばそうと思っていたのに深夜に襲撃を受けるとは!



 私は久々に時空間操作で作り出した「マイホーム」つまり私が住居兼ねて要塞としても使っている閉鎖異空間の開口部を直径1.5mで展開した。茜ちゃんとエマ園長が寝室から出てきたので「マイホーム」に入ってもらう。私もマイホームに入ってから開口部を隠蔽用障壁で塞げば私の必勝の態勢が完成である。

 何しろ私が時空間操作で作り出す閉鎖異空間は言わば小さな別宇宙とも言えるのだ……この異空間の中に入ってしまえば外部世界からは見ることも触れる事もできない……いちおう直径1μmの穴をあけてあるので念話や調教が途切れることもないし外部に向けて攻撃魔法や時空間操作による攻撃を放つこともできるから不便はない。安全地帯から一方的に敵をタコ殴りにできるのだ。



 強化カモメ達に侵入者の状況を聞くと既に玄関から堂々と家の中に侵入したという。警備の人は賊六人を目の前で見ていながらなぜか対処しようとしなかったらしい……おかしい。




『強化カモメ達。侵入者に「睡眠」を打ち込んでみて』



『了解したー。 ……マスター「睡眠1」は効果が無かった。』



 なんと!? 「睡眠1」の効果が無かったと? 『睡眠耐性』を外した御子柴君で試してみたら簡単にかかったから効果が無い訳はないのに……!



『だったら「睡眠4」を試して?』



『了解ー  ……若い女と男二人にはかかったが残りの男三人にはかからなかった』



 !! むううーヤバい。地球に帰還してから初めての強敵かもしれない。そんな奴がいるとは……どうしようか?



『マスター、男三人が眠り込んだ若い女達三人を抱えて離脱しようとしているぞ』


『逃げようとしている男三人の膝をレベル4攻撃魔法で打ち抜け! 風・水・火弾は使うな土か光弾!』





♢♢





 ワシントンの高級住宅地カロラマ地区のとある邸宅。そこに接近する六つつの影があった。吸血鬼男爵たちとその部下である吸血鬼ソフィア・タッカーである。

 吸血鬼男爵は北の国の拠点を吸血鬼公爵に引き継いで国連本部のあるニューヨークへ外交官として乗り込んだ。そこで主要国の国連大使を数人支配下において尋問したところ……アメリカの国連大使が知っていた!

 ……アメリカ人高校生アリス・コーディ。ワシントンのカロラマ地区に居住するこの高校生が人類では制作できない超超希少アイテムを作るという……こいつが探している亜神に違いない。何としても支配下に置かねば。




 先月の中旬からアリス・コーディの自宅を張っていたが警備が厳しくなかなか接近できない。リスクを犯して警備員を支配して何回か家の中に侵入したものの、いずれも留守で空振りだった。

 しかし8月に入って邸宅に動きがあった。住人が帰ってきたようだ。若い女三人だ……どの女がアリス・コーディなのか分からないけど三人とも支配すれば問題ない。





 邸宅を警備する5人の警備員は既に無力化したので障害にはならない。吸血鬼男爵である私の他に吸血鬼男爵二人、吸血鬼士爵二人、そして吸血鬼ソフィア・タッカーの合計六人で邸宅への侵入を試みる。爵位を持つ「真なる吸血鬼」が五人もいるのだ。楽勝だろう……


 私や他の吸血鬼男爵が放った精神操作攻撃によって警備員が呆けて突っ立っているので楽なものだ。玄関から堂々と。静かに侵入していく。


 全員が上下黒のスーツ。黒い目出し帽で手には9ミリ自動拳銃H&K USP .45 Tactical。サプレッサーを付けると少々大きいがやむを得ない。音を立てるわけにはいかないからな。




 吸血鬼士爵二人を先に歩かせて廊下を歩いていくと。突然ゾワッと悪寒を感じる。



「士爵、何らかの精神攻撃だ!気をつけろ!」



 全員が姿勢を低くして壁に張り付いて手にした拳銃を構える。



「ソフィア何してる!警戒しろ!」


「ハイ、男爵~でもどうやって?」


「怪しい奴が居たら拳銃で撃て!」


「はいい~ 拳銃の訓練もロクにしていないのに~」




 壁に張り付いて敵を探していると今度は突然吸血鬼士爵二人とソフィアが崩れ落ちた! そしてさっきよりも遥かに強い悪寒!




「ソフィア! どうした! 大丈夫か?」



 後ろにいたソフィアを観察すると意識がないようだ。しかし息はしている……二人の倒れた士爵の様子は? ……ソフィアと同じようだ。まずい。半数が無力化された。これでは作戦を継続できない。撤退だ!



「作戦は中止だ!撤退するぞ。意識のある吸血鬼男爵は意識のない士爵を抱えて玄関に向かう。行動開始!」



 私はソフィアを左腕で抱えると引きずるように引き返していく…… 突然目の前が真っ白になったと思ったら目が見えなくなった! そして他の吸血鬼男爵達の悪態と呻き声……この世界にあるスタングレネードか? しかし爆発音がなかった。



「『再生』を使って眼を回復させろ!」



 「再生」を自分にかけていた私は突然に右足に激しい衝撃を受けてもんどりうって仰向けに倒れた。何があった?




 銃の発射音はしなかったが空気を切り裂く破裂音は一瞬聞こえた。何らかの攻撃だ! 視力が復活してきたので右足を見ると膝がグズグズになって膝から先がほぼ千切れている。ヤバい、このままでは死んでしまう。




 邸宅の廊下は明るめの常夜灯によって十分な明るさがある。仰向けのまま周囲を見回すが敵はどこにも何も……誰もいない。おかしい。そんなはずはないのに。チラリと3mくらい離れてしまったソフィアをみると完全に意識が無く微動だにしない。どんな精神攻撃なんだよ!



 ヒタヒタと姿は見えないが足音と人の気配が近づいてくる……やむを得ない、離脱しよう。捕まるわけにはいかない……特に真なる吸血鬼は。



「『潜航』して離脱する!急げ!気を失っている士爵二人は抱えて連れて行けよ!」



 私とソフィアは離れてしまったので置いていくしかないけどしょうがない。アイツは人間だから殺されることはないだろう……





♢♢





 強化カモメ達の報告によると「光弾4」と「土弾4」が膝に命中して賊の男達三人は倒れた。


 レベル4攻撃魔法は7.62ミリ小銃弾程度の攻撃威力を持つほか着弾時には属性効果として「光弾4」の場合は激しい閃光を発する。閃光に目を晒されるとしばらく目が見えなくなる。




 私はマイホーム開口部を展開すると外に出てⅯ4カービン型携行神器を取り出して賊に向かって慎重に前進しはじめた。エマ園長も同じくⅯ4カービン型携行神器を構えて隠蔽障壁も起動しているのだろう、姿が見えない。


 茜ちゃんはⅯ4カービン型携行神器を構えてはいるが隠蔽用障壁は展開せずにエマ園長の障壁に隠れているみたい。




 私も隠蔽用障壁を展開して先に進む……廊下の角を曲がると……いた! 若い女一人と男が五人倒れている!


 男の一人はは明らかに右ひざに大怪我を負って膝から下が千切れているように見える。強化カモメの攻撃魔法「土弾4」によるものだろう。

 土弾の場合は強力な慣性効果を発生させて命中部位を破壊しながら吹き飛ばしてしまう。魔法が命中した時には時速50kmのスクーターに激突されたほどの衝撃を感じただろう。




 私たち三人で賊に向かってゆっくり慎重に近づいていくと……突如男達の身体が廊下の床に沈んでいくように消滅して消えてしまった!



『逃げられた! 強化カモメ、どこに行ったか分かる?』


『……家の外には異常はない……』




 ……おそらく亜空間に潜り込んだのだろう。念のために玄関の方向に闇弾2を10発ほど撃ち込んでみたが何かに当たった感じは無かった。



「みんな、賊の男達には逃げられちゃった。足の千切れた男は右足と武器を置いて逃げて行ったね……一応証拠だから保存しとくか。

強化カモメ2号!亜空間ルームここに開けとくからそこらの足とか武器を放り込んどいて?」


「ああ、ちょっと待ってアリスちゃん、その足を鑑定してみるから! 鑑定すると体の一部であっても情報が得られることがあるのよ  ーーはい鑑定終わりました」




「なんて表示されたの茜ちゃん?」


「うんエマ園長、聞いて驚いてよ……『吸血鬼男爵ジョセフ・ゲオルゲの右足』って表示されました……」


「……マジで? 吸血鬼ってホントにいたの? ……正直いって茜ちゃんとかあの勇者魔王コンビが冗談ぶっこいてるとばかり……ごめんね?」


「いやいや、ごめんねって謝られても……もともと吸血鬼がいるって証拠なんか何にもなかったんだからしょうがないよ」




「ねえ二人とも? 吸血鬼が居るっていうはっきりした証拠ならここにいるよ、この女のステータス見てよ。

なんかこの人見おぼえあるなーって思ったんだけど……私が地球に出現したフロリダ州タンパ近郊のリゾートホテルの従業員で、タンパ市内まで車に乗せてくれたけど家に泊まれってしつこかった人じゃん……あの時から目をつけていたのか~」



名前 ソフィア・タッカー  

種族 人(女性) 吸血鬼

年齢 23  体力 G  魔力D

魔法 ー

身体強化 ー

スキル 精神操作E 噛みつきE 飛行E 

   変身E 血液操作E 怪力E

   再生E 鑑定E 吸血鬼の種

称号 吸血鬼男爵の??




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