第3部 吸血鬼編
第22話 黒い石
【139日目 ワシントン時間4月25日(月)1520頃 アンドルーズ空軍基地】
約15時間のフライトを経てアンドルーズ空軍基地に到着。入国手続きを行ってワシントンの高級住宅地カロラマ地区にある自宅へと向かう。車は大統領官邸が回してくれた。
大統領はミズ・コーディ(私のこと)がワシントンに来るなら会いたかったそうなんだけど、現在、特殊アイテムの関係でホワイトハウスや大統領周辺の監視が厳しいため会うのを断念したそうです。
約30分かけて自宅へ到着。約四か月ぶりのワシントンの自宅だけど埃っぽくもなく実に綺麗に爽やかに維持されていた。毎日大統領官邸のスタッフが手入れしてくれたんだって。ありがとうございます。
事前調整で特殊アイテムの受け渡しをこの自宅で秘密裏に行うとしていたので大統領官邸から首席補佐官さんが待っていた。
「お久しぶりですミズ・コーディ、ミズ・アンダーソン、そして初めましてミズ・キサラギ。またお会いできて光栄です。大統領からは会えなくて残念、次はぜひ会えるように工夫するので是非お会いしましょうとのことです」
「はい、ありがとうございます。アカネ・キサラギはホワイトハウスに行ったことが無いから次回は是非。それで、特殊アイテムのことですけど?」
「はいはい、後日この家の前に大型トレーラーを停めますのでその中で作って頂ければと思っています。いかがでしょうか?」
「……そのことですが、既に作ってあるのです。大型の亜空間ルームに納めてありますので今日お持ち帰りになっても良いんですけど?」
「なんと! そのような大型の亜空間ルームが存在するとは! それでは今頂けるなら持ち帰りたいのですがよろしいですか?」
「良いですよ。亜空間ルーム開口部オープン! えーと、ここに……はいどうぞ?」
私は私のカバン用に使っている亜空間ルーム開口部を展開すると手を突っ込んで亜空間ルームコントローラーを取り出した。内径30mある超大型亜空間ルームのコントローラーである。
「中を確かめてください。ご要望の特殊アイテムが入っているはずですので。一応この紙が収納されている特殊アイテムのリストですので後で確かめてください。追加の希望があれば早めに言ってくださいね?」
「おお! ありがとうございます! それでこの超大型亜空間ルームコントローラーは我々が頂いても?」
「良いですよ。でも大きいからと言って中に人が入ると窒息して死んでしまうかも。気を付けてくださいね、コントローラーを持ってない人には開閉できませんから……では念のためにこれも付けましょう……
特殊アイテム『アース大気』と『水生成』『光生成』『浄化』です。うまく使えば人間が長期にわたって亜空間ルームの中で生活できるでしょう」
「……ありがとうございます! 見たことない特殊アイテムですので後ほど説明を聞かせに伺わせます……では私はこれで」
大統領補佐官さんはウキウキと帰っていった。いちおうアメリカでやるべきことはこれで終わったので休憩してから軽めの夕食を頂いて寝ることにする。
夕食は官邸のスタッフが簡単なものを準備してくれたので有難くいただいた。フライト中お話しちゃったから寝てないし、疲れたので早めに就寝。
【140日目 ワシントン時間4月26日(火)0900頃 ワシントンD.C郊外の高級住宅地カロラマ地区】
アメリカでの用事は済んでしまったので後は観光して遊ぶだけだ。大統領官邸からアテンドの職員が来てくれているので早速ワシントン観光に行こうかな?
「茜ちゃん、ミラちゃん、ワシントン観光に行こうよ? 案内してくれるアテンドの人が来てくれてて案内もしてくれるんだって……私もワシントンってほとんど知らないから行ってみたいし……」
「うん行こう行こう! アタシなんてアメリカ人なのにワシントン観光したことないから! 茜ちゃんもワシントン初めてでしょ?」
「もちろんワシントン初めてだよ! みんなで行ってみよう!」
♢
ワシントン観光に繰り出した三人は最初にホワイトハウスを外から見学して次いで南側にあるリンカーン記念堂、国会議事堂を見てからスミソニアン自然史博物館に入ってみた。
「……すごいねーーアリスちゃん、石がいっぱいあるよ?」
「そうだね……副園長、石が好きだったの?」
「全然。別に嫌いではないけどね。好きでもないよ。石だからね」
「……アリスちゃん、ちょっと! アタシの特技『お宝探知』が反応しているのよ……何だろう? ちなみに、アリスちゃんが作った特殊アイテム? は反応するよ。この反応ってお宝ってことだよね?」
「へえ……この博物館に私の神器に匹敵するお宝があるってことか……何だろうね? どっちの方向かな?」
「……この通路をまっすぐ行って。多分突き当りを右かなあ?」
茜ちゃんの示す方向に歩いていくと大きな丸い台座に安置された直径30cmほどの真っ黒い石の球体があった。
「ふーん。これかあ……確かに僅かな神力を感じるねえ……なんだろ?」
「私の第2の特技『鑑定』で見てみようか?」
「うんお願い。私たちぼ魔法『ステータス』って人物もしくは人物に準ずるものしか分かんないからねえ……アイテムのステータスや説明を閲覧できる茜ちゃんの『鑑定』って凄く便利。けどなぜか私の知識転写では複写できないんだよね~残念。
展示説明文によると……えっと、なになに?『五年前に南極点で発見された謎の球体。完全なる球体で、材質不明。何故か氷雪に埋もれることなく露出していた』だって」
茜ちゃんが「鑑定」を使ってくれている……
「うーんと。アタシの鑑定さんによると『感応石:付近に神が近付くと感知する』だってさ。分かる?この説明で?」
「うん、説明自体は分かるけど、何なんだろうね……? 神を感知してどうするっていうのかなあ。こんなもの誰が作ったのさ、意味わかんない」
「まあまあ。非常に珍しいものであるのは間違いないからコリンズさんに報告するよ。もしかしたらこんな風に公開しない方が良いのもかもしれないし。写真撮っておこう」
私たちはその『感応石』をバックで記念写真を何枚か撮った。
【140日目 ワシントン時間4月26日(火)1200頃 中国、北朝鮮、ロシアの国境が交差する国境地帯のロシア側山岳地帯】
中国、北朝鮮、ロシアの国境が交差する国境地帯のロシア側山岳地帯。そこには木で覆われて目立たぬように洞窟が隠蔽されていた。現地時間では深夜の1時頃なので辺りに人工照明のないこの辺りは漆黒の闇に包まれながらも空は満天の星が煌めいていた。
その洞窟を100mほど進むと直径3m程の円盤があって、その円盤の表面は穏やかに揺らめく水面のようで淡く水色に輝いている。
その輝く表面から怪しげな男達が現れる。
一見すると地球人類と変わらないスラブ系白人種にみえる男が二人。
「こっちの世界に来るのは久しぶりですね吸血鬼公爵閣下」
「そうだな。この世界、アースというらしいが、アメリカ合衆国のソフィア・タッカーからの報告を聞いてもアイツの証言だけでは要領を得なかったが感応石の反応があったのだから間違いない。この世界に神がーー亜神がいる」
「感応石の反応があったはいいですが感応石がどこにあるのか分からないから困りますよ。やっぱりソフィア・タッカーの言うフロリダかハワイですかね?」
「どこにいるかは分からないけど本格的に亜神の捜索を開始する。この国の南にある比較的に自由に活動できる国に潜入して活動拠点を築くぞ」
「……了解です。既にかなりの根を浸透させていますから一カ月もあれば活動拠点を構築できるでしょう」
「頼むぞ吸血鬼男爵。しかしお前、見た目が目立つから注意しろよ?」
「分かっていますよ吸血鬼公爵閣下。我々には『変身』があるから問題無いんですよ……忘れたんですか?」
「……そうだったな、変身を使えば問題ないな。我も長らく現場で活動してないから失念しておったよ……ではしっかり頼むぞ?」
「わっかりましたー。じゃあ私は『飛行』で国境を越えて首都まで侵入します。ちょっと遠いし携帯は繋がりにくいので連絡は頻繁にはできませんけど私がこの世界の人類に遅れをとることはありませんから心配は無用ですよ?」
「分かっておるわ。ただし我々の正体が拡散することは無いようにしろよ?」
「当然ですよ。そもそも『鑑定』出来る奴が居ないんだから我々の正体がバレるわけありませんって」
「……気をつけろ。『鑑定』持ってる奴はいないと思うけど注意はしておけ……この世界には亜神が居るんだからな。
それと極稀にいる『お宝探知』を持っている奴。このゲートの場所を探知できるという厄介な奴だから見つけ次第排除な? いや、従僕にできるならそのほうがいいか」
「りょーかいです。任せてくださいって。じゃ行っていきまーす」
吸血鬼男爵は顔を右手でスウッと翳して典型的な東洋人の顔に変化させた。そして軽く跳躍すると風船が風に流されるように空中を上昇して暗い夜空に消えていった。
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