第20話 帰 国
【139日目 東京時間4月25日(月)1400頃 北太平洋上空】
4月も下旬になってきて暑くなってきた。如月茜ちゃんはあのあとすぐにアルバイトに採用されて毎日保育園のお手伝いをしている。結局女子バスケットボール部には入らないことにしたんだって。
希望すればフルタイムのアメリカ大使館正規職員に身分変更できるという破格の待遇を聞いて茜ちゃんの両親も大喜びで、すぐさま希望をして即日採用された。
茜ちゃんの両親が言うには「大使館職員なんて一流大学を出てもなれるか分からないのに高校二年生にして採用された! 石に噛り付いても辞めないで続けるように。何なら部活辞めてでも大使館の仕事を優先した方が良いよ!」とのことで、茜ちゃんもその通りだと思ったのだろう。
「アタシはこっちに転校して来たからこの高校の女子バスケットボール部に仲間がいる訳じゃないし新しい人間関係を構築するのもエネルギーが要るから。将来のこと考えたら大使館直営保育園のバイトに専念するよ。アリスちゃんよろしくね?」だって。
もちろん全面的に任せてくださいとニッコリ断言しましたよ。この高校は原則アルバイト禁止ななんだけど茜ちゃんと二人で担任に「アリス・コーディの紹介でアリスと一緒に大使館でバイト」って言ったら即座に認められた。
茜ちゃんが大使館ロゴの入った名刺をもらったときは本当に大喜びで、大切そうに名刺ケースを鞄に入れていた。かわいい。
そんな訳で私は毎朝に茜ちゃんと一緒に登校して一緒に下校。一緒に大使館でアルバイトという実に楽しい生活を送っている。しかも保育園では遥香ちゃんともお話して、颯太くんを抱っこしたり遊んであげたりで大満足。異世界イースに居た時に目指していた生活が早くも実現してしまった。
……さて。アメリカ政府からの要請で特殊アイテムの追加作製のためアメリカに帰国する事になった。帰国ってなるのは私はアメリカ市民だからね。
以前ワシントンで作った全長20mの巨大な永久発電機は効率よくエネルギーを取り出すとニューヨークのマンハッタン島の全電力を供給できる能力があるということだ。このタイプの永久発電機をもう一つと小型の永久発電機を10台ほど。
そして亜空間ルームコントローラーを10台。そして飛行神器テトラへドロンを10台欲しいそうである。
日本に供与する分も含むということでこれらのアイテムを早めに欲しいと言われてアメリカに行く事にしたわけ。
アメリカにおいては特殊アイテムの事は最重要国家機密として秘匿してきたわけだけど本格的に利用を開始しようとすると周辺情報が漏れ出してしまったらしい。
カナダとイギリスには特殊アイテムの概要が漏れてしまったようだ。アメリカ政府としては当面日本以外とは情報の共有を行わないという方針でイギリスとカナダに対しては「もう少し待て」と説得しているんだって。
アメリカ大統領から直接イギリスとカナダの首相に電話会談で説得したらしいのでイギリスとカナダはかなり本気だったみたい。
このことはコリンズさんから聞いたけど特殊アイテムに関与する人が増えるとやむえないかもねえと話しておいた。特にアメリカとイギリス、カナダは常に密着しているからね。あんまり厳しいこと言っても出来ないことってあるから。気にすると精神衛生に悪いので気にしないことにする。
一つのタイミングとしては12月8日。恐らく私の神の神格がレベルアップするのでそうなれば私の使える手段が増えるし……そうなれば今以上に情報を拡散しても良いかなと思っている。
亜神は誕生してから一年経過するとレベルアップしてできることが増える。私の場合はフロリダ州タンパ西方20マイルの地点で地球に出現した時からの起算で一年間。つまり今年の12月8日がレベルアップの日になるはず。
レベルアップした後は「宇宙間ゲートの作成」「宇宙内転移」「生命体の創造」「分身の創造」が出来るようになる。使える神力も大幅に増えるし。
分身の創造は「物質創造F」「生命体干渉F」「精神構造干渉F」「神域干渉F」の神技を組み合わせることにより可能となる。
私の分身は亜神(時空)である私の劣化型端末である。宇宙間ゲートの接続がある限り宇宙間ゲートを通じて知覚と思考を共有できる。また、亜神(時空)の神力を分身(劣化型端末)において限定的に行使できる。
なお私の本体が死んだ場合でも私の分身が本体化して亜神(時空)に変化する。流石に亜神(時空)としてのレベルは初期化されてしまうけれど。私の分身を沢山作っておけば作るだけ私は死ににくくなるのです。
そもそも私は宇宙間ゲートと分身が新たに作れるようになったら固定型の宇宙間ゲートを作ろうと思っている。その候補地がアメリカと日本なのだが……さすがに固定型の宇宙間ゲートを作ってしまったらゲート自体の秘匿できないだろう……そんなこんなでアメリカ政府には今年の年末までは今の方針を継続してほしいと伝えたわけ。
ちなみに固定型の宇宙間ゲートを作るのは私の生存確率を上昇させるためというよりも人類繁栄のためのテストケースとして、いかに豊かな世界を構築できるのか? 地球人類にトライしてもらいたいという気持ちからなんだ。
固定型宇宙間ゲートは一度作ってしまうと破壊も解除も出来ないし宇宙間ゲートの作成枠8のうちの一つを永久に食ってしまうという難点はあるものの、地球出身者としては地球人類のためなら多少は負担しましょう、という気持ちなわけです。
アメリカに行くにあたってダメ元で茜ちゃんに「一週間ぐらいアメリカ行ってくるけど一緒に行く?」って聞いたら「行きたい!」だって。これは楽しみ♡遥香ちゃんにもアメリカに遊びに行かないか聞いたけど幼児連れだと迷惑ではと遠慮されてしまった……まあそうだろうね、主婦だしね……
という訳で私たちはいまアメリカ空軍の仕立てたいつもの要人輸送機Cー37B、ガルフストリームG550ビジネスジェットで米軍横田基地を離陸、太平洋上空をワシントンに向けて飛行している。
1215米軍横田基地を離陸して1520アンドルーズ空軍基地着陸の予定。
同行者は私の他にミラ副園長と茜ちゃん、そしてシークレットサービスの5人だ。コリンズ特任公使は日程をずらして書記官15名と一緒に渡米して日本政府への特殊アイテム供与に立会する。コリンズ特任公使以下のチームは今や日本における特殊アイテムの米国代表窓口となっているのである。忙しそう……
そんな訳で保育園の責任者エマ園長はお留守番になってしまった。ごめんね。
「茜ちゃん、海外旅行初めてなんでしょ。パスポート大丈夫だった?」
「うん、パスポートって県の事務所で発行で二週間くらい掛かるってお父さんに聞いてたけど外務省から直接発行してくれたみたいで色も違うのよ〜」
茜ちゃんは首から下げたパスポートケースから濃紺色のパスポートを取り出して見せてくれる。かわいい。
なるほどーー日本政府発行の公用パスポートだね。なになに? 茜ちゃん外務事務官になってんじゃん高校生なのに。うへ〜日本政府フリーダムだなあ。
「アメリカに行くって決めて2日目にはアメリカ大使館の人から渡されたのよ。これ使って大丈夫なんだよね普通と違うらしいから心配で……」
「大丈夫大丈夫。米軍基地から米軍基地へ米軍の要人輸送機で移動、税関入管は形だけ……なんならパスポート無くてもOKだよ。私達の移動は常にシークレットサービス同行だし。アメリカ国内ならこの人たち、普通に武装するからね?大船に乗ったつもりでいてよ」
「へええ、そうなんだー。アリスちゃん凄いね!」
「ふふふ、そんなに褒められると照れるなー。でも私って褒められるの大好きだからもっと褒めて?」
「アリスちゃん凄い上に信じられないほどの美少女で可愛いし声も素敵だよね。ニッコリ微笑んでその声で茜ちゃんって呼ばれると心が震えるよ」
「あうう……褒められるって素晴らしい……こんなに気持ちがいいなんて……茜ちゃんありがとう」
「アリスちゃんをいい気分にさせるには手を繋ぐか握ってあげると良いんだよ。手を握られると心が落ち着いて幸せなんだって。ほらほら握ってる私もかなり幸せだしウィンウィンの関係ってやつ?得しかないよね」
「ミラ副園長が〜 茜ちゃんには恥ずかしいから秘密にしてたのに〜」
「じゃアタシも。これでいいの?」
「あうーうん。これでいいんです。ミラ副園長も茜ちゃんもありがとう。こんな最高の日々が来るなんて半年前は想像もしなかったよ」
「……それそれ。アリスちゃんが半年前にタンパのマクディール空軍基地に来た時……その前はどこで何やってたの? それから茜ちゃんと毎日一緒にいてどっぷりとキャッキャウフフしてるけどいい加減に喋ったら? もういいんじゃないの? アリスちゃんって、茜ちゃんを手放す気無いよね?」
「ええーなんで分かるのよ。でも茜ちゃんは高校生で未成年だから〜」
「アリスちゃんも高校生で未成年じゃん。まあいいよ好きにすれば」
「……アリスちゃんアタシに何か重大な隠し事があるんだね?」
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