第19話 帰り道

【121日目 東京時間4月7日(木)午後6時半頃 県立T高校】



 茜ちゃんと帰宅デートです。大使館の車には先に帰ってもらってシークレットサービス二人が後方を追随している。



「あのね、このアメリカ人の人たちは私の警備に付いている人たちなんだ。私ってアメリカ政府の結構重要人物に指定されているから。学校の中までは付いてこないけど外だとかなり密着されるけど気にしないで?」


「うわー凄いね、そんなことあるんだね、分かったよ。色々と事情があるんだろうから聞かないよ?」


「ふふふ、助かるよ。しかし茜ちゃんは美少女だよね〜バスケをプレイしてる時もカッコいい美少女なんだろうな〜」


「ははは! 何言ってるの、アリスちゃんの方が美少女でしょー? 朝に会ったときにアタシ痺れたもん……アリスちゃん最初にニッコリ微笑んで挨拶してくれたでしょ? クラスの子達みんな惚れたと思うよ? 笑顔の一撃でクラス男女問わずに落とすとは……凄いよね……」


「ええーそうなの? だとしたらみんな自分の心を上手に隠せるんだね? 私、全然気が付かなかったよ。

……でも悪意は感じなかったから良いけどね。クラスの居心地が悪かったら速攻で不登校になる予定だったからね……だからまだ登校できるよ。それに茜ちゃんがいるなら毎日登校しても良いかなって思ってるし」


「あらら、そんなこと。不登校にはならないでほしいな。アタシは毎日アリスちゃんの顔見たいし。そうそう、今日貰った名刺はさっそくお父さんお母さんと妹に見せて自慢しよう。ところで大使館のアドバイザーって何する人なの? …あ、聞いちゃいけないんだっけ?」


「……茜ちゃんだったら良いよ問題ないよ。えーと私はとあることについて私しかできない特殊技能を持っていてアメリカ政府から超重要人物と見なされているってわけ。だから警備も厳重なのよ」


「へえ、まだ高校生なのに凄いね。で、なんで日本に来たの?」


「日本の文化が好きだし漫画とか読みたいし。生活してみたかったんだ。だからアメリカ大使館別館で保育園やるっていうから付いてきたんだ。大使館別館に住んでいる特任公使とか園長とか副園長は私の仲のいい友達なんだ。あ、そうだ。茜ちゃんはバスケットボール部だから時間はないかもしれないけど、アメリカ大使館直営の保育園でアルバイトしてみない?私もしょっちゅうお手伝いしてるし」


「大使館直営保育園ってアルバイトとかできるの?でも時間がなー。興味あるけど」


「平日は部活終わり1時間くらいでもいいし。土日保育もやってるから半日2~3時間でも良いし。勤務シフトは適当でいいから気軽に来てもらって幼児と遊んでもらえばオーケー?私がそんな感じだからね」


「ふーん。そんなでいいならちょっとやってみてもいいかなあ」




「待遇はめちゃくちゃ良いよ? まず、採用されたらアメリカ大使館の正規職員です。希望すればフルタイムの大使館職員として永久に勤務できます。給与その他待遇は大使館職員の基準となります。職員なんだから当たり前なんだけど。それから名刺ももらえます」


「え!あの名刺もらえるの?俄然興味出てきた!アルバイトしようかな?」


「じゃ官舎に帰る前に保育園に寄ってパンフレットと待遇なんかの説明聞いてみる? 園長か副園長居ると思うから」


「うん、説明は聞いてみたいからよろしくね。アタシって将来は看護師になりたいから保育園にも興味はあるんだ。官舎の隣のマンションに保育園が出来るって聞いて気にはなってたんだ。お隣の若奥様も正規職員に採用されて凄い話題になってたし」


「ふーん。隣の若奥様って?」


「有朱遥香さん。引っ越しの時に出会ってね。気が合っちゃった。仲いいのよ」


「わー、ホントに?遥香ちゃんは私も仲いいからー!気が合うねえ!やっぱ顔とか似てるから似た者同士仲が良くなるんだろうか。私と茜ちゃんも私と遥香ちゃんも似てるもんねえ?」


「?そうかもね。アタシと遥香さんって似てるって言われたし。アタシとアリスちゃんも似てるって言えば似てるのかなあ?」


「うん似てると思うよ? 茜ちゃんは健康的でスポーツ美少女で私は華奢でひ弱だけどね」




 とかしゃべってるうちに電車は乗り換えて最寄り駅で降りて保育園に着いてしまった。保育園に入ってエマ園長にアルバイトの説明をしてもらって茜ちゃんとは別れた。





♢♢





 自宅に帰宅した如月茜。さっそく両親と妹を集合させて今日のことを話している。



「それでこれがアリス・コーディちゃんの名刺だよ、カッコいいよね」



 名刺をしげしげと眺める父親と母親。妹は大使館のノベルティグッズのクリアフィルとかキーホルダーとか物色している。



「アリスさん?ってほんとにアメリカ大使館アドバイザーなんだね。高校生なのに凄いね」


「そうなのよ。アリスちゃんは特殊な技能があってね?アメリカ政府が超重要人物に指定しているんだって。常時警備が張り付いているのよ。今日の帰り道もシークレットサービス? の人二人がついてきてたよ」







【121日目 東京時間4月14日(木)午後1時半頃 首相官邸】




【日本政府は今回のアメリカ政府から得た情報に起因して有朱遥香さんに接触したり調査することを自粛する。そのかわりアメリカ政府は有朱遥香さんを警護する理由を日本政府に開示する。開示範囲と時期及び条件は事務レベルで速やかに協議する】



 この取り決めに従って有朱遥香さんを警護する理由の開示について事務レベルで交渉してきた日本政府。しかしアメリカ政府から引き出せた情報は極めて限定的だった。



【本当に死活的に重要な人物が他にいてその人物にとっての重要人物が有朱遥香さんである】




 この開示内容に対してなんとか本当の理由を引き出そうとしていたところ、アメリカ政府がとんでもない提案をしてきた!


 ……驚くべき内容。


「アメリカはエネルギーを無限に生み出す永久機関を含む複数の地球では再現できない超技術を入手した。アメリカはこの超技術に関して日本とのみ情報共有することを提示する」




 総理官邸には安全保障会議メンバーの閣僚と与党幹部が集まっていた。アメリカ政府から提案された情報を共有するためである。もちろん特級の機密扱いである。内閣官房長官が現状と経緯を説明している。





「……というわけでアメリカ合衆国から提案を受けたわけです」



「官房長官、今の話は本当なのか?冗談ではなくて?」




 メンバーが沈黙する中、与党幹事長が問う。


「本当ですよ。なぜ『日本とのみ情報共有』なのか全く教えてくれないので理由は説明はできませんけど」


「官房長官が申し上げた通りなんですが、一点関係が有るかもしれない件があるのです。アメリカが有朱遥香さんという日本人を必死になって日本国内で警護しているのです」


「うむ。総理大臣そのことは聞いている。今回のことと関係あるのかね?」


「分かりませんが関係が無いというのも逆に変だと思いまして……なにしろこの二つの件は全くもって不自然ですしアメリカ政府は満足のいく説明をしてくれません。こんな特殊な案件が2つも独立して存在するとは考えにくいので一つのことから起因して生じたのもではないかなーと」




「とすると『本当に死活的に重要な人物が他にいてその人物にとっての重要人物が有朱遥香さんである』だったね。この『本当に死活的に重要な人物』がアメリカが手に入れた超技術の関係者ということになる」


「幹事長の仰る通りです。完全な推測ですが案外とこれが正解ではないかと思います。そのことを踏まえて今後は有朱遥香さんの警備については対応していく必要があるかと。

そう考えるとアメリカが有朱遥香さんを全力で守ろうとしている理由も説明がつくんですよ」


「官房長官の言った通りアメリカは有朱遥香さんを守る。その為だけに前大統領を大幅に格下げ承知で駐日大使として送り込んできたのです。

現に有朱遥香さんが住む航空自衛隊の官舎の隣の大使館別館は大統領警護隊シークレットサービス一個中隊が警備をしていて、そのほかにアメリカ海兵隊も一個分隊が常駐警備しているのです……いくらなんでも異常なんですよ」




「分かった。このことについては真偽を確かめる必要があるな。とりあえずこの推定が正しいならアメリカに対してはある程度強気で交渉できるかもしれない。良いことだ」



「そうなのです。大統領にはアメリカが手に入れた『エネルギーを無限に生み出す永久機関を含む複数の超技術』の情報共有にとどまらず一部アイテムの共有または譲渡を要請しています」


「うむ、当然だな。是非とも実現したいものだ」




「アメリカ側の交渉窓口から聞き取ったところによるとアメリカ連邦政府内では超技術の結晶である特殊アイテムはエネルギー省、国防総省、科学技術政策局、航空宇宙局がそれぞれ担当しているとのこと。国内におけるカウンターパートに特別チームを編成させて対応させたいと思っています」


「科学者や学者先生は秘密の管理に脇の甘い人が多いから厳選してくれよ?特に外国人研究者や留学生。外国企業に簡単に情報を流出させるような秘密を守れない組織や研究者は外してもらおう」


「従来からアメリカとの秘密技術情報のやり取りのある組織に限定して厳選します」


「頼むぞ。日本にとっても死活的に重要であることは明らかだからな」


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