第17話 自宅訪問

【55日目 東京時間 1月31日 午前11時頃 保育園向かいの官舎】





 ガチャリと扉が開いて遥香がでてきた!



「こんにちは~アメリカ大使館のエマ・ベーカーです。」


「同じくミラ・アンダーソンです~」


「同じくアリス・コーディです~」



 遥香ちゃんはニッコリして有朱遥香です、と自己紹介した後、私たちの名刺を受け取ってくれた。



「……ああ、ホントにアメリカ大使館の方なんだ……お向かいのマンションって突然一階に保育園を作るらしくて。しかもアメリカ大使館の直営らしいって噂になってたんですよ」


「そうですか。まだ周辺の地域の皆様への具体的なご説明は行っていないかもしれませんね……あ、これアメリカ大使館のノベルティグッズです、良ければどうぞ」



 エマ園長は遥香ちゃんに紙袋を渡した。紙袋の中にはキーホルダーとかクリアファイル、冷蔵庫なんかにくっつけるマグネットが入っている。



「ああ、すみません、ありがとうございます。えーと、玄関だとなんですから中にお入りになります?」


「はい! ありがとうございます。是非!」





 一年四カ月ぶりの自宅に遠慮がちに入っていく。なぜか自分の家という感じはしなくて人の家って感じがする。なんでだろう? 不思議。



「すみません、狭いので食事するテーブルで申し訳ないんですけど……畳よりテーブルの方が良いと思って」


「ありがとうございます。では遠慮なく」


 四人掛けのテーブルに遥香、隣にミラ副園長、正面にエマ園長。私は遥香の斜め向かいに座る。



「改めまして、大使館特任公使付アドバイザーのエマ・ベーカー合衆国空軍少尉です。大使館直営保育園の園長でもあります」


「大使館特任公使付アドバイザーのミラ・アンダーソン海兵隊軍曹です。副園長です」


「大使館特任公使付アドバイザーのアリス・コーディです。保育園ではスタッフとしてお手伝いをする予定です。ハイスクールの1年生です」ニッコリ。


「あら、高校生なの? ものすごく若くて可愛いお嬢さんだと思っていたけど、大使館のアドバイザーって凄いね」



 遥香がニッコリしてくれる。感動です……感動に打ち震えつつニッコリ返しをしていると……



「アリスちゃん、なにニッコリ返しするだけで返事しないのよ? 遥香さん、この子は私たちが保護者になってるんですけど一緒にアメリカから来日したんです。

こんなに飛びぬけて可愛いのに割と優秀で日本語も出来るしいろいろと特殊な才能も有るので大使館アドバイザーになってるんですよ……

まあ、割と優秀と言うか飛びぬけて? 桁外れに優秀なのかな?」


「へへへ、エマ園長、あんまり褒めると照れちゃうよ? まあ、桁外れに優秀といってもほんの2~3桁ですからお気になさらず?」


「あはは、アリスさんは優秀なのね。お姉さんも色々と教えてもらいたいな~」


「もちろんですよ! いくらでもなんでも。なんなら英語とかすぐにおしゃべり出来るようになりますよ!」




 遥香に思いっきりニッコリ光線を発射してありったけの好意を伝達しているとエマ園長が保育園の説明を始めた。



「では説明させていただきますね。保育園は4月から開園なんですが日本人の保育士を募集中なのですが……この建物は何かの社宅でしょうか?」


「ああ、空自衛隊の官舎なんです。たしか入間基地の管轄なのかな?」


「なるほど。ご案内の通りこの保育園はアメリカ大使館肝いりで設置するテストケースでして……保育園の職員には身元確かな方を考えているので自衛隊官舎の方なら安心ですね。

保育士や栄養士、看護師の資格を持たれて隙間時間やフルで働きたいという方がいらっしゃれば歓迎なんですけどこの官舎とかにいらっしゃいますかね?」


「ああ、たくさん居ると思いますよ。私だって保育士の資格はありますので雇ってほしいくらいです……」


「ほう! 保育士さんはまだ枠に余裕があります……丁度よいですね、フルでもパートでも如何様にでも対応できますので是非採用したいです。言い忘れましたが待遇はアメリカ大使館の職員となり大使館員基準の報酬体系となります。悪くないと思いますよ?」


「えっ、そうなんですか? ちなみにフルタイムだとどうなりますか?」


「えーと、前職の給与を参考に設定するので一概には言えませんが、前職にかかわらず新規採用者の最低基準は月額およそ30万円、ただしボーナスはありません。それに超過勤務と通勤、扶養手当など。大学新卒の方の年収とほぼ同じになると考えていただければ。パートの場合は時間分の支払いになります」



 遥香ちゃんは目を見開いて驚いている。はて、そんな驚くことが?



「そんな好待遇、希望者が殺到しますよ……それに私なんて、ついさっき会ったばかりなのに……いま採用決めちゃって良いんですか?」


「良いんです。採用のすべての権限は園長である私と副園長、そしてアドバイザーのアリスちゃんにあるのです。

ついでに遥香さんが、このひとは! という方が居ればご紹介してください。4~5人なら即採用します。やはり良い人には良い人との繋がりがあるものです。私はそのことを良く知っているので人材の採用にあったては重視しているのです。

私たちの名刺100枚と保育園の説明チラシーーこのチラシは来週から各所に配置しようと思ってましたけどーー遥香さんに30部預けますので4~5人目安でお声がけください。

なんの資格もない方でも2名程度なら事務または庶務で採用できますので」



「そんなに私を信用していただいて良いんですか~? 私たちさっき初めて会ったばかりなんだけど……?」


「……良いのです。私たち三人が全員一致で遥香さんをオファーしようと思ったのですから」


「……そうなんですね? ありがとうございます。アメリカ大使館職員の待遇なんて、ホントに希望者が殺到しますよ? ぜひ私を雇ってください。それと4~5人の声掛け任せてください」


「そうそう、声掛けにあたっては広くオープンに掛けるのではなく親しいお知り合いに内々に掛けてください。その結果一人とか二人とか別に該当者なしでもかまいませんので。来週いっぱい目途でお願いします。疑問点があれば私エマ・ベーカー園長に。ヨロシク」



「任せてください! ああ、お茶も出さずにすみません。何がよろしいですか?」


「すみません、じゃ紅茶でもいただけますか? アリスちゃんは林檎フレーバーが好みなので、もしあればお願いします」


「あら林檎フレーバーの紅茶は旦那が好きで常備してるんです。よかった今から準備しますからちょっと待ってくださいね?」







「……ところで小さいお子様がいらっしゃいますが、歳はいくつくらいなんですか?」



 エマ園長が聴いてくれた!



「一歳半ですね〜男の子ですよ」



 遥香ちゃんが足元に絡んでくる幼児を抱き上げて私に見せてくれる。



「こんにちは〜アリスですよ〜」



 ニッコリ笑顔を発動しつつご挨拶する。



「アリス!まーま!アリス!」



 おお! 名前を認識してくれたようだ……両手をそっと差し出すと手を伸ばしてくれるので両脇を優しく持ち上げて自然に抱っこした。私の顔をシッカリと見てくれてご機嫌みたい……



「ふふふ、良い子ですね〜」



 抱っこしてると遥香ちゃんの紅茶の用意が捗るのでちょうどいい。この子も私に抱っこされて嫌がらないどころかハッキリと懐いてくる。


 ……アレだろうか。遥香ちゃんと私って顔が似てるし。聞くところによると幼児でも美人で可愛い女性は大好きらしいし。私って特級の美少女だからね……ふふふ、しっかりと可愛がってあげよう。名前は颯太くんだけど名を呼ぶわけにはいかない。私が知ってる訳ないからね……





 颯太君を抱っこしながら紅茶を頂きつつお話を続ける。ふうむ……この林檎フレーバーティーは、いつもの奴だね。いまだに好みは変わっていないみたい。



「ところで何故アメリカ大使館が保育園の経営を行うことになったのでしょうか。なんか不思議ですので勧誘すると聞かれると思うんですよ」


「そうですね聞かれるかもしれませんね。実はこの保育園事業を言い出したのは大統領官邸なのです。同盟国との絆を深めるためにふさわしいものはないかと考えた結果、テストケースでやってみようと。

既に着任している駐日アメリカ大使のハンター・キング前大統領もこの保育園には注目していてお向かいのマンションに大使公邸を作って居住するくらいです。

ちなみに駐日アメリカ大使の住居ですので警視庁とアメリカ海兵隊から常時警備されるほか前大統領ということでアメリカ本土から大統領警護隊シークレットサービスも来日して常駐警備する予定です。

警備に当たっては駐日アメリカ大使公邸であるとともに保育園が入居しているお隣のマンション全体と近辺を警備しますのでこのあたり、特にマンションと官舎周りは日本でも最高度に安全な地域になりますよ? ……安心です」


「へえ、そうなんですね……それで園長先生の特任公使付アドバイザーの特任公使って何なんですか?」


「これはですね。任務の内の一つが保育園の運営であることは言えますがこれ以上のことについては大使館の任務の関係で言えないのです。ごめんなさい。犯罪的なもの、反道徳的なものではありませんのでご安心を」


「いえいえ、そんなことは心配してないのです。名刺にある肩書を説明するときにどういえばいいか聞きたかっただけなんです。逆にすいません……」


「なら保育園の経営と言っていただいて間違いではありません。そのようにお答えになってください」


「分かりました。じゃあ来週目途に連絡差し上げますので」



「はい、お願いします……突然お邪魔して長居しちゃいました。

あ、そうそう、勧誘するときの役に立つかもしれませんから記念写真でも撮っておきましょう。保育園園長、副園長、バイトの女子高生アメリカ人3人と映っている写真があれば話も弾むでしょうし?」



 その後、官舎リビングの中で全員それと私たち一人ずつと、外に出て改装中の保育園の建設業許可票の前で同じく全員と私たち一人ずつ。請負業者の名前とか書いてあるアレです。



 写真を撮り終わったらSNSを交換し合って手をブンブン振りながら別れた。さようなら〜またすぐに会えるけどね!





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