第16話 編入手続

【55日目 東京時間 1月31日 午前9時半頃 県立T高校】


 日本に到着した日の翌日の午前9時半頃。


 大使館の特任公使付庶務の人の案内で私は県立T高校へとやってきた。案内してくれた庶務の人は日本人で30代くらいの女性。アメリカ大使館勤務の日本人って結構いるみたい。エマ園長とミラ副園長も付いてきてくれた。保護者ポジションのつもりらしい……




 乗ってきた大使館の車が高校に着いたら正門で待ち構えていた学校職員に誘導されて校長室に一直線。部屋の中に入ったら校長先生と教頭先生そして来年度の2年生学年主任になるという40代後半と思しき女性教師が待っていた。


 高校の校長先生たちとアメリカ大使館のメンバーがお互いに挨拶をした後に校長先生が声をかけてくれた。



「ようこそT高校へ。本校への編入歓迎しますよ。4月からのアリス・コーディさんの登校を学校一同楽しみにしていますよ!」



 ……あんまり注目されるのは困るんですけど……歓迎してくれるのは嬉しいけど、後々不登校になりづらくなっちゃうから。




「……ありがとうございます……でもワタシは体が弱いので何時入院してしまうか分かりませんので……お気遣いなく?」



 私のカバーストーリー、病弱設定に基づいて弱々しく儚げに返事をしてみる。



「まあ、まあ、アリスさん体が弱いのね、大丈夫です。この私、学年主任がしっかりとサポートしてアメリカ大使館とも緊密に連絡を取って行きますので安心してくださいね」


「……はあ、ありがとうございます。よろしくお願いします」


「……アリスさんは日本語が非常にお上手で、まるで日本人のようですね。これなら学校生活にも支障がないように思います。そのお年で日本に住んだこともないのにどうやって習得されたのですか?」


「校長先生、アリス・コーディさんはアメリカ国務省及び国防総省そして大統領官邸からの肝いりでアメリカ大使館特任公使付アドバイザーに指名されるほどの天才。日本語程度簡単なものなのですよ……」



 特任公使付庶務のおばさんが校長先生の疑問に対して自慢げ? に回答してくれた。 



『……アリスちゃん? この特任公使付庶務の人は随分と口が軽そうだけど大丈夫かな?』


『うん、多分だけど私たちが知らないところで私の情報は拡散していってると思うんだ……アメリカ政府に色々と手配してもらってる関係でしょうがないと思う。どうせ何時かはバレていくんだからあんまりカリカリしないようにしようかなと』


『……分かった、エマ園長はアリスちゃんの父兄なんだから問題があったらピシッと釘を刺すからいつでも言ってね?』


『うん、ありがとうね、エマ園長』




「アメリカ連邦政府の肝入り……なるほどなるほど、それは素晴らしいですね……わが校の生徒たちにも良い影響がありそうです。ということは大使館のお仕事で授業を休むということもあるのでしょうか?」


「それについては同じく大使館特任公使付アドバイザーであるエマ・ベーカー合衆国空軍少尉がお答えします。あ、これ名刺ですヨロシク」


「おお、これはご丁寧にありがとうございます」



 ここで名刺の交換会になった。私の名刺も頂戴って言われたので渡しましたよ。




「……それで、大使館の任務の性質上口外できないものもあるのです。アリス・コーディがそのような立場にあるということ余り口外されぬよう要請します。

従いまして理由の説明できないお休みは少なからず想定されますのであまりご心配されることなく、そのようなものとしてお考え下さい。

また、出席日数とか試験評価など進級や在籍資格に影響があるという場合は大使館庶務または保護者の私に連絡してください」


「なるほど分かりました。では編入は来年度四月からということで第二学年からのスタートです。四月七日が始業式です。あとは学年主任から説明してもらいますのでお聞きになってください……」



 その後学年主任と私担当になる予定という20代後半の女性英語教諭の人と細かいお話。細々とした学用品などの説明は全部大使館庶務のおばさんに丸投げして気楽にふんふんと聞いておく。


 文理選択と芸術選択どうしますかと聞かれたから理系で美術選択にしておいた。私が日本人だった時は理系人間でしたから。音楽とか書道とかは自由が利かなそうだし美術だったら最悪、作品のみ提出でも合格点くれるでしょう……分かんないけど。


 学年主任が言うには私のこの高校編入にあたってずいぶんと教育委員会から指図が出ていて校長以下ピリピリしているんだって。申し訳ないです、感謝します。




♢♢




 高校の編入手続きの後は大使館直営保育園の改修現場に行ってみる。直線距離は5kmくらい、車で20分くらいかけて到着した。


 保育園の隣には有朱遥香ちゃんが住んでいる官舎があるーーもちろん私が有朱宏冶だった時に住んでいた官舎なんだけどね。保育園改修現場には入れないので道路上からお向かいの官舎一階の一番左端ベランダを見てみる。


 30mほど離れているけど32倍率の遠視5を使えば1mの至近距離である……と思ったら魔術が自分から半径20mしか効果がないのでそこまではなかった……20倍くらいかな? いずれにしても遥香ちゃんはここに住んでいるはず。





 するとベランダの掃き出し窓が開いて洗濯物を干しに出てきた人物が! 遥香ちゃんだ!


 遠視を使ってジッと見る……懐かしい……全然変わっていない? いやいや、チョイふっくらとしているような……?


 隣を見るとエマ園長とミラ副園長も遠視を使って遥香ちゃんを見ている。


 3人の若い美人外国人が見ていることに気づいたのだろう、遥香ちゃんがこっちを見て会釈してくれた! 思わず両手を大きく上げてブンブンと振る私。隣の二人も一緒になって手を振ってくれる。




 ……なんか一分くらい手を振り続けて遥香ちゃんも小さく手を振り返してくれたものの最後には会釈をして部屋に戻ってしまった……




 エマ園長がハンカチで顔を拭いてくれる。涙がでて泣いてしまっていたみたい。はあ……しばらく動く気にならない……エマ園長とミラ副園長に肩を抱かれてしばらくジッとしていると。



「じゃあアリスちゃん、今から遥香さんに会いに行こうか?」


「ええ、エマ園長、不自然じゃないかな?」


「全然。いま挨拶したじゃないの。お向かいのマンションでアメリカ大使館直営の保育園やります、良かったら働いてみませんか?

声をかける十分な理由だし今手を振りあって十分なお知り合いになってる。

アメリカ大使館という鉄板の信用があればどこからどう見ても不審者ではない。

しかもアメリカ人の若い美人が3人も!警戒する要素など微塵もないでしょう?」


「さすが園長だね、ミラ副園長も納得です。さあアリスちゃん行きましょう、今なら在宅なのは明らかです! この絶好の機会を逃さずに会ってしまうのです。会えばなんか起こります、問題ないです」



「……分かった。行こうか。……行くと決めたらさっさと行こう。エマ園長が最初に話を切り出してね?」



 私たちは道路を歩いて官舎ベランダの反対側へと歩いていく。正面のエントランスから入って行って一階外廊下を右に進む。一年四カ月前は毎日歩いていた廊下だ。玄関に到着するとエマ園長が躊躇なくインターホンのボタンを押す。



『…………はーい。どちら様でしょうか?』


「こんにちは~。私さっき道路上から手を振ってご挨拶させていただきました、アメリカ大使館特任公使付アドバイザーのエマ・ベーカー合衆国空軍少尉でございます。

実はお向かいに出来たマンションの1階にアメリカ大使館直営の保育園を準備中でその様子を見に来たんですけど先ほどお宅のお嬢様と手を振りあってご挨拶しちゃいました。

これも何かの縁ということで保育園のことをお話させてもらおうかと。該当する幼児がいらっしゃれば入園の。保育士や栄養士。看護師などの職員もフルタイム、パートタイム様々に募集をする予定なのです。

我々はアメリカ人ですしこの近辺の事情にも明るくないので。丁度手を振って面識があるお嬢様にヒアリングをさせていただければとおもいまして。いかがでしょうか。アメリカ大使館の者ですので怪しくはありませんよ?」



 さすがエマ園長。よくも口からスラスラと出まかせを言えるものです。意外と説得力もあるのかな?



『……ああ、はい大丈夫です……ちょっと待ってくださいね』



 ぱたぱたと音がしてガチャリと扉が開いた。遥香ちゃんがでてきた!




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