第13話 謎の答え
【43日目 午後2時頃 ワシントンD.C郊外の高級住宅地カロラマ地区 プラス13時間 東京 1月19日 】
首席補佐官さんから身分証明を頂いてから10日たった。あと10日後には日本に出国する予定になっている。
コリンズ海兵隊大将は中央軍司令官を離任。海兵隊大将兼ねて在日本アメリカ大使館特任公使に任命された。海兵隊大将なら首席公使であるべきなんだけど、そうなると自由が利かないし現任の首席公使さんの扱いに困るかららしい。
中央軍司令官の交代式や赴任準備のためここ1週間は不在となっている。家族と出国するからコリンズさんとは日本で合流する事になる。
アンダーソン海兵隊上等兵、ベーカー空軍少尉は軍に在籍しながら在日本アメリカ大使館アドバイザーという肩書きをもらった。在日本アメリカ大使館に行けばコリンズ特任公使をトップとして20人ぐらい入れる事務所と付属する特任公使執務室とアドバイザー室をもらえるらしい。
「コリンズ特任公使の下に大使館職員が20人もつくんだってね、すごいね! そんなに職員さんが沢山いてやることあるのかな? ベーカー少尉もアドバイザーでしょ? お仕事いっぱいあるのかな?」
「アリスちゃん、あなたも大使館アドバイザーなんだよ? 名刺も1000枚準備してあるからね?」
「ええっ、私はただの高校生になるのでは?」
「もちろん高校生だけど大使館アドバイザーでもあるんだって。というかほんとに高校に行くの? 何かやりたいことあるから日本に行くんだと思ってたけど」
「……そうなんだよね。でも年齢的に学校行ってないと変じゃないかと思って。で、学校に籍置くんだったら週1くらい顔出しても良いかな〜なんて中途半端なこと考えちゃったのよ……どうしようかな、ちょっとチヤホヤされたいって色気もあったけど実際は面倒臭いだけかもね」
「そうなのかー。じゃあ席だけ置くって割り切った方が良くない? 体弱いとか病気とか言えば休学にしてくれるよ」
「うん、1回2回行ってみてダルそうだったら不登校になるよ。で、どうなの? 大使館のお仕事って」
「うーん、正直分かんない。ぶっちゃけ私の仕事ってミズ・コーディの側近として脇を固めるってことだけだから。要はアリスちゃん次第なのよ。
ちなみにコリンズ特任公使の下に着く20名のうち15名って連邦政府から派遣される各省庁代表のエリート達らしいよ?みんなミズ・コーディ担当だって。
国防総省からも2人。科学技術担当の高位文官と統合参謀本部(JCS)から空軍中将だってさー。それでJCSの空軍中将はコリンズさんの補佐役で15人の出向者のまとめ役なんだって」
「うへー、私のために? なんか気の毒で悪いね。具体的に何する人たちなの? そのエリートさん達は」
「多分だけどね、アリスちゃんの動向を把握して本国に報告ってのが半分。アリスちゃんと仲良くなるってのが半分?」
「あらら、それは大変だ。そんな任務持ってるなら週に一回は懇談会でもやってあげてネタを渡してあげないと可哀想だね?」
「さすがアリスちゃん! 優しいね。そうしてくれたらコリンズ海兵隊大将も助かると思うよ。あの人は官邸や国防長官辺りからそれとなくプレッシャー掛けられてるだろうからね、お気の毒に」
「うーん、私としては合衆国には身分をもらった恩もあるし使徒3人の出身国だし、かなーり特別視してるんだよ? 特殊アイテムもいっぱいあげたでしょ? まあ、日本と同じくらいかな?」
「そこよ! アリスちゃんって日本の何なの? 皆んなそれが分かんなくて困ってるのよ。ねえ、誰にも言わないからお姉さんには教えてくれる?」
「あううーーそう言われるとーー」
「ね、お願い、手を握ってあげるから。アリスちゃんは手を握ってもらうの大好きでしょう? ほらほら」
「うはー、やばい、声が……何で知ってるのよ手を握って欲しいって……」
「お姉さんのお姉さん力を侮ってはダメよ。私には歳の離れた妹が二人もいるんだから分かっちゃうのよ?」
「あああ……日本には私の大切な人がいて……守らないといけないから〜」
「えええ!マジで?本当に?誰なの!どこにいるの!」
「……有朱遥香ちゃん24歳です〜可愛いんです〜。大好きなんです〜」
「あららら、女性なのね? ほーう。でも年上なのね。アリスちゃんのお姉さん好きってその有朱遥香さんが好きってことから来てるのかな? なるほど、写真とかはー無いよね。アリスちゃんは異世界イースから一文なしで手ぶらで来たんだものね。どこに住んでるの有朱遥香さんは?」
「埼玉県のT市だと思うーー引っ越してなければ」
「そうか。ミズ・コーディ最大の謎。大統領も悩んでわざわざ日米首脳会談&防衛・外務閣僚協議まで行って知ろうとしていた謎をこのエマ・ベーカー空軍少尉が解明した! けど誰にも言わないって言ったからね。で、有朱遥香さんにはすぐに会いに行くの?」
「アリス・コーディとしては面識ないから困ってるのよ〜どうやったら自然に会えると思う?」
「誰だったら面識あるのよ? でも困ってるなら一緒に考えてあげる。自然に会う方法ねえ?」
「アリスちゃん、好きな人がいるんだね? そういうことは歳の近いミラ・アンダーソン上等兵に相談して欲しかったよ……」
「あらら、ミラちゃんいたのね? しかもお話を聞いていたと。アリスちゃん最大の謎の答えが共有されてしまったようですね」
「もう良いよ……どうせ日本に行けば分かることだし。ただ有朱遥香さんに迷惑がかかると困るって思ってたからだし」
「ふんふん、自然に会う、なかなか難しいねえ。お仕事何してるの?」
「保育士だけど育児休業してるはず。でもそろそろ再開するかな〜」
「保育園開園して勤めてもらったら?」
「え。そんな事できるの?」
「合衆国連邦政府の力、本気出せば凄いよ?
アメリカ大使館直営の保育園。保育士にアメリカ人半分入れて英語教育もやります。
モデルケースとして埼玉県のT市で開園。どうですか? 有朱遥香さんの住んでるすぐ側で。
保育士としても可能性あるし、子供いるなら父兄としても関係が!」
「おおお! 天才ですかミラ・アンダーソン上等兵! というか二人とも妙に日本事情に詳しいのは知識転写のお陰か。なるほどなるほど便利ですね……特任公使付書記官になる皆さんにも転写してあげようかな。わざわざ私のために遠い日本に島流しにされるんだから可哀想だよね?」
「うん? そんな大盤振る舞い大丈夫? なんかどんどんバレちゃうよ?」
「それもそうなんだけどーーそばにいる人達ってなんか情が移っちゃう気がしてさ、放って置けなくなるかなーと。だって私のために人生が大きく狂った? 人達だと思うとね。でも少しは様子を見てからにするか」
「アリスちゃん、書記官の人たちのことは置いておいて保育園開園やっちゃう? やるなら私が園長やりたいなー。大学では心理学やってて児童心理を専攻してたんだ。日本で保育園の運営、楽しそう!」
「じゃあじゃあアタシは副園長する! 保育資格は持ってないけど1歳児や2歳児からアンダーソン先生と慕われる美少女副園長! テレビの取材来るかもしれません」
「そっかー。ならお願いしようかなー。エマ・ベーカー園長先生、その正体はアメリカ空軍少尉! そしてミラ・アンダーソン副園長はアメリカ海兵隊上等兵! 英語に加えて軍人精神も培います。自衛官にウケるかな?」
「で、アリスちゃんはアルバイトの高校生ね。身体が弱くて学校には満足に行けないけど保育園には行けます……ってなんかおかしいか。どう見ても学校の方が楽だね?」
「別にアリスちゃんは身の上をいちいち説明しなくても良いんだから適当で良いのよ。じゃ園長であるアタシが。えーとコリンズさんに電話で進め方を相談するか。
でね、有朱遥香さんのこと、どこまで開示して良いかな? 完全に秘密にするか、アリスちゃんの存在秘匿レベルで情報共有するか……」
「うん、迷惑にならないようにしたいけど秘密にしすぎるとかえって迷惑になることもあるかもしれないし。私の秘匿レベルってのがバランスいいかもね、どう思う?」
「園長はその方針でいいと思うな。ミラ副園長はどう思う?」
「はい。園長の仰る通りですね、アタシもアリスちゃんレベルにしといた方が実質的に動きやすいかな。みんな訳わかんないのに理由のわかんない指示されると間違いの元だからね。軍人じゃないんだから」
「よし決まったね。電話でコリンズさんに相談して手配するよ。園長と副園長に任せてアリスちゃん、大船に乗ったつもりで安心していいよ、じゃ早速」
『あーもしもし、エマ・ベーカー少尉です。ちょっとアリスちゃんのことで相談というか報告ですーはいはい。それですよ。なんと有朱遥香さんという! 可愛らしい日本の女性に! 会いたい一心で日本に行きたいということがわかりました! 私が聞き出しました。手柄ですよね?
それで埼玉県のT市。そうそう西武鉄道のそこですーー 」
日本の地理も私並みに知ってるもんなー。とてもアメリカ人とは思えない知識の厚み。やっぱ知識の転写は反則的チートだねえ。
「アリスちゃん、コリンズさんが連邦政府への手配は全部俺に任せろってさ。具体的な調整があったら園長の私が受けるからアリスちゃんはデーンと構えていればいいから」
「うん、分かったよ。ありがとうね、みんな」
こうしてミズ・コーディ最大の謎の真相は大統領及び合衆国連邦政府内関係者達に驚きと共に一気に広まった。そして海の向こうの日本にもその激震の一部が伝わるのであった。
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