第11話 身分証明


【33日目 午後2時頃 ワシントンD.C郊外の高級住宅地カロラマ地区】



 大統領との面談から29日後。身分証明が出来たとのことで説明を受ける。


 カロラマ地区にある自宅のリビングでコリンズ海兵隊大将、アンダーソン海兵隊上等兵、ベーカー空軍少尉も同席して一緒に聞く。説明してくれるのは大統領主席補佐官さん。




「ミズ・コーディ、これらが合衆国における身分を証明するものです。いずれも正式に発行されたものでどこに出してもおかしくはありません。

日本に行かれる際は一般のパスポートもしくは公用パスポートのいずれか又は両方を必要に応じて発行します。

これでミズ・コーディはアメリカ市民となりました。おめでとうございます。そして合衆国を選んでいただきありがとうございます」




「首席補佐官さん、ありがとうございます♪これで私も堂々と胸を張って外を出歩けますね! 嬉しいです。なんと御礼を言えば良いか……私のできる範囲で合衆国には協力しますので言ってくださいね?」




 私の身分証明は三種類の証明書からなっている。出生証明書、社会保障カード、そして高校の在学証明と成績証明書である。


 全部ワシントンD.Cのもので大統領官邸のゴリ押しで強制発行させた正規の物。


 データ上も、発行機関の原簿がちゃんと存在していて再発行も可能ということで、私、どこからどう見ても立派なアメリカ人の高校生になったようです……




 ちなみに誕生日は一か月チョイ前にフロリダ州タンパ近郊に出現した日である12月7日で設定しました。元々の日本人としての誕生日はおかしいでしょうからね。


 私が在学していることになっている高校はワシントンD.C有数の名門私立高校。ただし病気治療のため入学以来一度も登校したことも定期試験を受けてもいないという幽霊生徒。これはしょうがない、データとか書類上の身分は創造できても人間関係までは創造できないからね。




 だから成績は測定不能で実質最悪の成績だけど別に問題は無い、大学に行く気もないから。今のところは……


 ……ん? まてよ? 日本に行ったときアメリカから来た超美少女である女子高校生で留学生! そしていずれはアメリカ人超美少女の女子大生! 周りを女子高生や女子大生に囲まれて美人だの可愛いだの言われながらチヤホヤされる……なるほど、悪くない。



 これは一つ、本当に女子高生に成りすますのも一考の価値ありですか?



 ふーむ。となると高校とか小中学校の経歴などアンダーカバーを充実させておく必要があると言わざるを得ませんね……



 幼い時に事故で両親を失って父親の親友である海兵隊大将が親代わりとなって病気と闘いながら高校生になりました。可憐な超絶的美少女アメリカ人高校生は親代わりの海兵隊大将の在日本アメリカ大使館赴任に同行して未知の国日本へ。美少女だから日本語はペラペラです……




「アリスちゃん、何を怪しげな発言をさっきから……あなたはどこからどう見ても美少女なんだからなんの問題もないんだよ?」



「あう……エマさん……ベーカー少尉! あー、なんか私、気を失っていたようですね? でも安心してください、もう大丈夫です。で、どこから聞いてましたか?」


「えーと『本当に女子高生に成りすますのも一考の価値ありー』あたりからよ。全くどんなヘンテコな夢なんだか?」


「うわー、ないわー、そんなヘンテコな夢、あり得ないです。可笑しいですねえ、悪魔でも乗り移ったのでしょうか? でももう大丈夫です。悪魔は去りました」



「だったら良いけどね……ほら首席補佐官さんが忙しいところわざわざ来てくれたんだから、ちゃんと聞きましょうね?」


「うん、ごめんね、首席補佐官さん。続きをお願いします」




 ……つい声に出ていたようだ、危ない危ない。私が元は日本人で男というのは秘密なのだ。こんなの言わなきゃ分からないというか言っても信じてもらえないだろうから安心は安心。


 しかし……さっきベーカー少尉から注意されたけど思いのほか心地よくて気持ち良かったのは女性化した上に若化して心が子供になったからなのだろうか? よし、更に距離を縮めてナチュラルに甘やかしてくれるまで持っていきましょう。





♢♢♢♢





 アリス・コーディへの身分証明の説明を終えた首席補佐官がホワイトハウスに戻って大統領に結果の報告しているーー先ほど身分証明を渡して説明したときのアリス・コーディの反応や印象など気づいたこと全てが報告の対象である。


 場所は大統領執務室オーバルルームの隣り、キャビネットルームと言われる閣僚会議を行う大部屋である。そこには国家安全保障会議メンバーに加えて大統領補佐官全員と科学技術政策局長官、そして航空宇宙局長官も参加している。



「なるほど……ミズ・コーディは身分証明に大喜びで『合衆国には協力するからその時は言ってください』と発言されたと。

それから日本に行ってから高校に編入を希望する、と……高校生にしか見えないし実際16歳とのことだから当然と言うことですね?」



「大統領、その通りだと思います。ただし今日になって急に思いついたようですので日本に行く目的とは思えませんね……」



「それですよ。日本に行く、そして生活する……この目的が全くわからない。困りましたね、何回か補佐官に直接質問させましたが『行ってみたいから』とか『面白そうだから』など到底、真の理由とは思えません……」



「先日の日米首脳会談に伴う外務・防衛閣僚協議においては日本側からなんらのアプローチも示唆もありませんでした。日本側はミズ・コーディについて何も知らないのでは? との感触です」


「国務長官の言われるとおりで防衛サイドからもなんのアクションもありませんでした」



「首脳会談でも何もなかった。これは想定の範囲だったから日本側にはお土産を渡したし恩を売っておいた。ミズ・コーディが日本とどんな関係があるのか分からないが多分敵対関係では無く好意的な物だろうからね」



「我が中央軍司令官はほぼ毎日ミズ・コーディに張り付いています。二人を見ているとまるで親娘のようにミズ・コーディがコリンズ海兵隊大将の顔色を伺ったり意見を求めていたりしているようです。それでもミズ・コーディが日本に行きたい真の理由は分からないと証言しています」


「我が合衆国の軍人がそれ程に親密な人間関係を構築出来たのは素晴らしい……日本に行った後も是非ミズ・コーディの隣で合衆国の国益を守って欲しいね」


「全くその通りです。ミラ・アンダーソン海兵隊上等兵とエマ・ベーカー空軍少尉の二人もファーストネームで呼び合う姉妹のようだとの事で日本でも更に関係を強固にするよう期待しています」




「エネルギー長官、科学技術政策局長官、航空宇宙局長官は何かコメントは有りますか?」



「エネルギー省の研究者からは今のところ提供された特殊アイテムの再現どころか作動原理の端緒さえ分からないとのことで。今のところは色々と試しているところです。

言えるのがミズ・コーディが言った『破壊不能である』という事。今のところ、破壊どころか傷一つ付かない。

というか科学者が言うにはあの燭台や永久発電機は『物質ではない』との見解ですね、何か別のものであって物質やエネルギーと全く反応しない。相互作用が無いと」



「ふーむ。意味はわからんが、分からんなりにすごいと言うことか?」



「永久発電機の能力ですが、あれ一つでジェラルド・R・フォード級原子力航空母艦の全ての動力を賄ってお釣りが来ますね、恐ろしいほどの発電量ですよ……

ミズ・コーディはそんなものをあのとき一瞬で生み出しました。彼女は人間なんですかね?」


「ミズ・コーディは魔法が使えるという異世界イースにおいてさえ彼女にしか出来ない多くのことを実現できる特別な人物で重要人物であると自分で言っている。

全くその通りだと思い知るね、やはりミズ・コーディを合衆国の友として何としても繋ぎ止める必要がある。

幸い本日、ミズ・コーディはアメリカ市民になってくれました。素晴らしいことです。

これで彼女が日本に行ってもアメリカ市民であること、そして合衆国軍人3名が側近として張り付くというポジションを得ています」



「大統領、ミズ・コーディが日本に行く前に何か別のものを提供してくれないか頼んでみたらどうでしょうか。あるいはもっと踏み込んで大型の永久発電機をお願いするとか?」


「ふーむ、そうだね。国防長官、コリンズ海兵隊大将に内々に聞いてもらえないかね?」


「了解です、聞いてみましょう。案外と気前よくくれるかもしれませんしね……」





♢♢♢♢





 翌日、コリンズ海兵隊大将の打診に対してアリスは気前よくOKして大型トレーラーを呼んだ。


 そしてそのコンテナに入るギリギリ入る最大長の、長さ20m直径2mの永久発電機を作ってあげたのであった。アリスの神力を丸一日費やして制作した大作である。




 エネルギー長官からその事を聞いた航空宇宙局長官は大型トレーラー持参でアリスに何か作ってくれと泣きついた。


 アリスは「ベクトル操作」によって空中を自由自在に機動する一辺が1mの正八面体(各頂点に長さ2mのアンカー付き)を3個も作ってあげた。これも神力を朝から夕方まで費やして制作した。最後に一辺10cmの小型サイズをおまけで10個付けてあげた。




 ……アリスはベーカー少尉に良い感じに甘やかされて物凄く機嫌が良かったのだった。


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