第5話 ワシントンへ


【4日目 午前9時頃 フロリダ州タンパ マクディール空軍基地】



 空軍が準備した特別機に搭乗するため、私はタラップを登って機体の中に入る。座席はゆったりと10席ほどしか設定されてない。内装は白を基調としながらも座席はブラック、床も濃いグレー、壁面は明るいオーク材? による装飾がなされており落ち着いた雰囲気で高級感を醸し出している。悪くないね。



 案内のCAさんである空軍兵士さんがこの特別機の説明を色々としてくれる。


 え? これ要人輸送機なんですか? 国防長官とか国務長官も乗るって? ああそうですか、なるほどなるほど、割と良い気分です。接待も極まりましたね。アメリカ合衆国の閣僚並みの扱いですよ? 一年半前は想像もできなかったなーー当たり前だけど。


 私の後ろには中央軍からの随行で司令官以下5名がついてきてくれた。全員海兵隊員だね……司令官が自分の息のかかった使いやすい人選をしたのだろう。分かりますよその気持ち。


 初めて行くところには事情がわかっていて話を通せる権力者がいてくれたら便利で楽だからね。中央軍司令官コリンズ海兵隊大将のご同行、ありがたいです。









 マクディール空軍基地を離陸してシートベルト解放のサインが出る。空軍の制服を着たCAさんがお菓子と飲み物を好きなだけくれるので遠慮なく貰ってモグモグ食べる。



 マクディール空軍基地の中でもカモメがいたから3羽追加で調教して強化した。例の「パチンコ玉くらいの大きさの淡く輝く球体」3個を追加して作って取り付けた。強化カモメって使い勝手が良くて便利だから調教できる時は逃さずに調教しておきたい。ワシントンに行ってもカモメ調教できるかな? 海からちょっと距離があるけどポトマック川があるから居るんじゃないかな?






 ジュース飲んだり菓子をモゴモゴと食べているうちに着陸するようだ。ワシントン近郊メリーランド州にあるアンドルーズ空軍基地。大統領専用機エアフォースワンを運用している基地でもある。


 アンドルーズ空軍基地から国防総省ペンタゴンまでは21マイル。車で30分くらいで着く予定なんだって。






♢♢♢♢






 ワシントンに所在する国防総省。通称ペンタゴンは米国の政府機関としても、世界の軍事支出と比較しても群を抜いて多額の予算を執行している機関と言える。

 その額は2020年ベースで7780億ドル(約84兆円)であり世界全体の軍事支出の39パーセントに達する。


 その国防総省のトップである国防長官。彼は執務室に国防副長官、陸海空軍省の各長官、統合参謀本部議長、陸軍参謀長、海軍作戦部長、空軍参謀長、海兵隊司令官の9名の最高幹部を集めて打ち合わせをしていた。



 国防長官が9名の最高幹部たちを見回しながら発言する。



「ミズ・コーディがマクディール空軍基地を離陸しました。あと3時間ほどでペンタゴンにやってきます。

中央軍司令官によると彼女は非常に温厚で優しく、我が合衆国に対しても非常に好意的とのことです。

国防総省としてはミズ・コーディについて他の各省に先んじて良い関係を築くことができました。

荒唐無稽とも言える彼女の話を馬鹿にせず誠意を持って丁寧に対応した結果ですね。素晴らしいです。さすが海兵隊魂で幾多の戦場を切り抜けた勇者であるコリンズ海兵隊大将だけあります」



 発言後、国防長官は海兵隊司令官をチラ見する。



「長官、ありがとうございます。コリンズ中央軍司令官もそのお言葉大変に光栄に思うことでしょう。ミズ・コーディのことは引き続き海兵隊にお任せいただければ万事大丈夫、お任せください」



 この海兵隊司令官の発言に空軍参謀長がすかさず口を挟む。



「いやいや、ミズ・コーディはマクディール空軍基地を頼ったのです。たまたま中央軍司令官が海兵隊出身だっただけのこと。

ミズ・コーディの基地でのケア、ワシントンまでの移動全て空軍の行ったことです。

しかも中央軍司令部で一番最初にミズ・コーディを邪険にせず親切に司令官室まで案内したのは空軍少尉の女性ですよ。ミズ・コーディからは『親切なお姉さん』と頼りにされたとか。ミズ・コーディのケアは我が空軍が相応しい。

特に異世界イース! 恐らくミズ・コーディは異世界へ自由に行き来するなんらかの技術を持つはず、このフロンティアを冒険して開発するには空軍の空中機動力が絶対に必要ですから。ミズ・コーディは是非空軍で面倒を!」



 空軍参謀長の発言に対して普段から海兵隊と共同戦線を張ることが多い海軍作戦部長が海兵隊の肩を持つ。



「これは聞き捨てなりませんね……空中機動力こそ海軍の誇る空母打撃群に勝るものはありませんよ? もちろん強襲揚陸艦を中心とする海兵隊の海兵遠征打撃群も頼りになります。

ミズ・コーディのことは海兵隊司令官の仰る通り海兵隊にお任せして我が海軍がしっかりとサポートすれば最高の成果が得られるでしょう。海軍と海兵隊が居れば陸海空全ての戦闘力を備えて海さえあれば世界中どこにでも機動出来ます。

中央軍司令官がミズ・コーディとの会話で聞いたところイースという異世界には大陸が6個あって密集しており地中海と言われる浅くて広大な海を囲んでいるとのこと、まさに海軍と海兵隊が活躍できるフィールドであると言えるでしょう!」





 国防長官執務室では空軍VS海軍・海兵隊連合の醜い争いが繰り広げられていた。



 陸軍参謀長が空軍の加勢をしようかと思ったところ国防長官から止めの言葉が。



「皆さん仰ることごもっともですけどミズ・コーディが希望されているのは身分証明の取得と何故か日本への渡航と日本での生活だそうですね。この辺のケアを特に国務省にしてやられないようにどうやったら良いか」



「国務省など我が軍の威光を傘に来て調子に乗っているだけの者たち。在日本米国大使館には武官をはじめ国防総省からの出向者も多数居りますし在日米軍というパワーもあります。提案なんですが、マクディール基地の中央軍司令部にいるミズ・コーディと面識のある空軍少尉……彼女を在日本大使館勤務にしてミズ・コーディ担当にするよう国務省にねじ込めませんか? 在日米軍司令官である第5空軍司令官に彼女のサポートを全力で行わせますので!」



「なるほど~空軍参謀長のご意見もっともですね、その方向でも良いかもしれなー」



「一人では足りなくありませんか? 中央軍司令官の秘書の女性海兵隊上等兵! 非常に優秀でミズ・コーディとの面識もあります。必要なら軍曹にでも少尉にでも昇進させます! 彼女も日本大使館にねじ込んでミズ・コーディの担当に! 在日海兵隊司令官に全力でケアさせます! 必要ですよね?

あと中央軍司令官のコリンズ海兵隊大将! 彼を在日本米国大使館顧問として派遣して国防総省の代弁者にしましょう! 海兵隊大将が行けば大使を除いて誰も文句は言えません。幸い在日本大使は政治任命が遅れて不在ですから日本大使館は国防総省の自由自在ですよ!」



「おおう……なるほど、海兵隊は統合軍司令官ポストを削ってでもミズ・コーディを重視するその意気込み、しかと受け止めました。 ただし統合軍司令官は大統領指名で議会承認を要しますからすぐと言うわけにはいきませんよ?」



「承知しております。コリンズ海兵隊大将も引き続きミズ・コーディと一緒に仕事をしたいと熱望していましたから是非お願いします」



「それならマクディール基地司令を日本大使館に派遣しましょう! 彼は優秀な上にミズ・コーディと丸一日! 基地内をエスコートして食事も一緒に取った仲です! 

階級は空軍大佐でそんなに偉くもなく下っ端でもないと言う丁度良さで議会承認も不要です。

どうでしょう彼ならば絶対に嫌とは、いや、ミズ・コーディとうまくやれます! マクディールでの実績がありますからね!」



「……空軍参謀長、一応分かりました。上手くネジこめればやってみましょう」





 こうして国防総省におけるアリスの分捕り合いから始まった醜い議論は何となく建設的な結論に収まったのであった。国務省が割を食う方向で。



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