いつもあなたを想っています


 私は疑問に思っていた。

 プリンセスコスモとはこれまで2回の遭遇があったのに黒薔薇のプリンス様が思ったよりも落ち着いていて、コスモへの執着が見られないんだよ…。このままでは白百合の野郎に出し抜かれてしまう…!


 しかしここで折れる私ではない。次なる計画。黒薔薇のプリンス様の心境の変化を生み出すきっかけとなったブラックプリンセスを生み出す必要がある。

 私はコスモを罠に落として監禁する計画を立てることにした。催眠術の特訓に加え、いつも金魚のフンのごとくくっついている白百合のナイトを生け捕りする計画も立てていた。私はぐっと拳を握りしめて誓う。

 今度こそ、やり遂げてみせると…!


「ミュゲ」

「はっ! 黒薔薇のプリンス様! 本日もご機嫌麗しゅう!」


 靴磨き最中に拳を握りしめているという変なシーンを見られたのが恥ずかしくて握った拳をさっと隠した。そんな私をプリンス様はなんとも言えないような顔で見下ろしているが、そんな顔も美麗で素敵。


「……衣装代を与えたのになぜ、服を新調しないんだ。仕立て屋を城に呼んでも断ったそうじゃないか」


 彼の視線はお仕着せ姿の私に注がれた。

 そうそう、ここで頂いているお給金と一緒に衣装代として頂いている特別手当。なんかよくわからないけど3ヶ月前からプリンス様から服を仕立てるようにと言われて、支給されてるんだ。私が四六時中お仕着せ姿なのを気にしていらっしゃるようなのだ。

 そのお心遣いはありがたいが、仕事中はお仕着せが一番働きやすいし、基本おしゃれして出かけることもない。自分の服を新調する必要性を感じないのだ。

 それに、私は現在お金を貯めている最中なのだ。なんの為かって……プリンセスコスモをブラックプリンセスに仕立てるドレス資金のため…!


「貯めてからとっておきのドレスを作るんです!」

「…足りないなら出すが」

「いいえ! ご心配御無用です」


 来週支給分のお給料&特別手当で足りると思う。問題なしだ。

 私の数カ月分のお給料と手当はすべてコスモのための真っ黒なウェディングドレスに変わる。懐はとても寒いけど、いいのだ。私は黒薔薇のプリンス様の御為ならば、着の身着のままでも…

 別に衣装を仕立ててやるというプリンス様のご厚意を遠慮すると、なんだかもやもやしたような複雑なお顔をする彼の姿があった。


 使い捨ての手下にまでお気遣いくださるプリンス様…なんてお優しい……もうちょっとです。待っていてくださいね!



■□■



 貯金し続けること数ヶ月。ようやくそれを使う機会が巡ってきた。

 お城にやってきた仕立て屋に注文つけまくってようやく完成したウェディングドレス──アニメで見たドレスそっくりに仕立てたものをマネキンに着せると、これに薔薇の飾りがついたベールをかけて……はぁ、素敵…とうっとり眺めた。サイズに関しては簡単にお直しできるように工夫しているので問題ない。彼女に着せたときにちゃちゃっと直して貰う予定だ。

 あとはコスモを罠に落として催眠術をかけるだけだ。ついでに白百合のアイツを止める手段も考えねば…!


「ミュゲ、仕立て屋が来たと聞いたが…」


 私が脳内でこの後の段取りを立てていると、ノックなしにプリンス様が入室してきた。いや、雇い主だし、ここプリンス様のお城だけどさ。できれば乙女の部屋にはノックして入室してほしいです。


「は、はい! 先程注文のドレスを納品に来てくださいました」

「……黒の……これは」

「はい! 結婚式の準備を進めておりました!」


 黒薔薇のプリンス様とプリンセスコスモのね!

 どうどう? プリンス様の色を全面に出したドレスですよ。アニメに忠実に作らせたからプリンス様の好みにドンピシャだと思うのだけど……ちょっとしたゴスロリチックでとっても可愛いと思うの!


 ──ゴウッ…! ボゥッ

 ウキウキしていた私の気持ちは消し炭となったドレスの残骸を前に萎えた。マネキンに飾られていた美しい黒のウェディングドレスが一瞬にして燃え去ったのだ。──いや、消された。黒薔薇のプリンス様の魔法によって。


「はぁぁぁあ!? ドレスが! 給料半年分(と特別手当)がぁ!!」


 なぜ!? なぜ燃やす!? デザイン気に入らない? それとも自分で用意したかった系?

 私はまさかの狼藉が信じられなくて、ドレスを燃やした張本人を見上げた。しかし文句を紡ごうとした私の口は言葉を発するのを拒絶した。

 なぜなら、彼は瘴気を撒き散らし、こちらを恐ろしいお顔で睨みつけていたからである。


「…誰と結婚だって?」


 地の底を這うようなひっくい声が地獄への案内のように聞こえて私は震え上がる。なぜここで魔王ムーブするのか。プリンス様の敵は私ではないぞ!

 しかしそんなこと言える雰囲気じゃないので、私は恐怖で歯をカチカチ鳴らしながら萎縮する喉を叱咤した。


「ぷ、プリンセスコスモでしゅ…」

「……。お前は女だろう?」

「女でふ、ひゃい」


 いかん、恐怖で舌がもつれてふざけた返答に聞こえる。

 なぜかプリンス様に私の性別を再確認されたし…えっ、私って男に見える?

 今にも私を殺害しそうなくらい恐ろしい形相をしていたプリンス様であったが、私の返答を聞くなりその真っ黒な瞳に困惑の色を見せていた。彼は眉間にシワを寄せて何事か考えた後にハッと何かに気づいてしまったような表情を浮かべていた。


「まさか…ユリウスとじゃ」

「なんですって! 冗談じゃありません!」


 なぜ私がプリンス様の憎き恋敵である白百合の野郎の結婚をプロデュースしなきゃいけないのか! そんなことするわけがないだろう!

 私はあなたを幸せにするために生まれ変わったのだぞ!


「これは、貴方様との結婚式用のドレスです!」


 私がはっきり黒薔薇のプリンス様とプリンセスコスモの結婚式用のドレスだったのだと告げると、なんだか彼は毒気が抜けたような顔をしていた。ドレスはもう消し炭に変わってしまったからなんにもならないけどね! ちくしょうめ!

 地面にしゃがみこんで炭に変わったドレスの残骸に触れる。あぁ。こんな一瞬で壊れてしまうのか…私の夢が……


「……そうか、私との結婚式…」

「そうですよ」


 いくら愛しのプリンス様とはいえやっていいことと悪いことがある。流石に今回のことはヘラヘラ笑って許せるようなことではない。

 普段と違って私が機嫌悪そうにしているからか、プリンス様は困ったような表情を浮かべ、しばし逡巡した後ボソリと言った。


「…似合うものを、用意させる」

「お早めにお願いします」


 私は気分落ち込み気味にドレス残骸の掃除をしていたのでその時のプリンス様がどんな表情を浮かべていたかはわからない。

 計画の頓挫に私は落ち込んでいたので気づかなかったが、使用人仲間いわくプリンス様はしばらく様子がおかしかったらしい。



 後日宣言したとおりプリンス様が立派なウェディングドレスを仕立ててくれたので私は文句はもう言わなかった。


 全体的に真っ黒なドレスはところどころに真珠が散りばめており、形はマーメイドライン。とっても素晴らしい出来で美しく、私が用意させたものよりも何倍も金額が張りそうなものだった。

 だけど…私の身体ぴったりに作ったらコスモの身体に合わないと思うんだけど……可愛らしいコスモにはマーメイドラインは大人っぽすぎて合わないと思うし…アニメのデザインと違うし、そもそも私に似合うように作っても仕方ないと思います…。

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