楓橋夜泊
仲麻呂は勉学に励むため、唐の教育機関である太学に入った。真成が悪い夢に
「最近、眠りが悪いのだ」
副都・洛陽にある
「夜中に目を閉じるだけで、恐ろしい夢が頭をよぎる。そのせいで、私は眠ることができぬ……」
奥の廊下では、成人を迎えて間もない留学生が、しばしの談笑を楽しんでいる。鮮やかな着物の帯が、二人の視界の端で揺れた。
「恐ろしい夢とは、一体どのようなものだ」
真備がそう尋ねると、真成は片方の手で頭を押さえた。思い出すのも、苦しいといった様子で。
「何かが……、何かが、私を追いかけてくる夢だ。あれが一体何なのか、それは分からぬ……」
彼の話によると、それは「人の形をした何か」らしい。視界に捉えた瞬間に、逃げ出したくなるような何か。彼はその何かから、必死に逃げることしかできないのだと。
「私はそれが怖くて、夢の中でひたすらに逃げ惑う……。このままでは、休まる気も休まらぬ」
「それは、辛いことだな……」
真備が背中をさすってやると、彼は少しの安堵を浮かべた。しかしその顔には、昨晩の疲労が色濃く残っている。
「いや、貴君が耳を傾けてくれただけでも有り難い。今夜は少し、良い気分で眠れそうだ」
真成は人懐こい笑みを浮かべ、真備に感謝の意を述べる。それからしばらくは、彼の夜から悪い夢は消えた。
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