幕間 セレside 最期の疑問

 クトファの町の裏出口。私は鬼力封じの手錠をされている上に警備兵2人から両脇を抑えられている。


「ギルド『ダタン』所属・元冒険者セレ、本日をもってその身柄を町外退去とする!」


 警備兵の声と共に手錠が外された。そして裏門が閉められる。これで私は二度とクトファの町に入れなくなってしまった。


 返された荷物の中にあった財布の中身は当面の2~3日分の生活費のみ。こんなものでどうやって生活しろっていうのよ・・・。


「一体、どこで間違えちゃったんだろう・・・」


 原因は幼馴染のルーブルとあのライオネスのリーダーが私を見捨てたからだ。特にあのウィルマって女がルーブルにある事ない事を吹き込んだのに違いない。そうじゃなきゃルーブルは私を見捨てる事はなかったハズよ!


 全てを投げ出してあの女を殺したいけど、武器を没収され冒険者としての資格も失ってしまった私にはもう今の状況を乗り越える気力はない。せめてエルがそばにいてくれたら違ってたかも。


「もぅ行かないと・・・」


 とは言え殺人未遂の前科持ちの私が行く当てなんてない。この町はもちろんの事他にも近辺の町や村、三ヶ月前までいたザルクの町や生まれ故郷のブレベス村にも私の前科が知らされているハズ。なので冒険者として復活する事は出来ないし故郷に帰って長居する事も難しい。



「おお!間に合った、セレ!!」


 私を呼ぶ声が聞こえる、もしかして・・・。


「すまん、少し遅れてしまったようだ・・・セレの出所する時間を保安局の連中がなかなか教えてくれなくてなぁ」


 なんと私を呼び止めたのはエルじゃなくて盾役のザラムだった?


「ざ、ザラム?」

「さあこんな町とはオサラバしよう!何、お前を養う事ぐらい我輩に任せておくのだ!」


「どうして?なんで貴方が・・・エルは?フィスはどうしたの??」

「・・・我輩はエルカートとは縁を切った、フィスについては知らないが恐らく彼女も抜けている事だろう」


「一体何があったっていうのよ!貴方やフィスまでが抜けたらビーストハートはもうおしまいじゃない!!」

「セレには言いづらいが・・・話してやろう」


 私が保安局に逮捕された後、エルはギルドの受付嬢の女をパーティーに入れた事・クエストに失敗してCランクに降格した事・更にはルーブルと口論の末冒険者達の前で恥をかかされた事。どれもこれも私の予想外の出来事ばかりだった。


 そして最も許せないのがエルも私を見捨てた事・・・信じていたのに!信じていたから私をあげたのに裏切られた!!涙があとから溢れて止まらない。


「気持ちは分かる、だから我輩もこれ以上エルカートについていく事は出来なくなった」

「ぅぐっ・・・貴方に何が分かるのよ、エルを・・・信じていたのに」

「知っているのだ、セレがエルカートと恋仲であったことは・・・しかしそれは我輩も同じなのだ」


 え?


「パーティーのリーダーと女を取り合うワケにはいかなかったから我慢していたのだが・・・こうなってはもはや遠慮する必要はない・・・セレ、どうか我輩と一緒になって欲しい!」


 ザラムの突然の告白に言葉を失う。


「そ、そんな・・・私、貴方の事は・・・」

「それも分かっている・・・未だエルカートの事が忘れられないのだろう?あるいはあの幼馴染のルーブルという男の事か?」


「エルは・・・私を裏切ったし、ルーブルの事は別に・・・」

「無理強いはしない、セレの気持ちが我輩に向くまで何年でも待ってやる・・・とにかく一緒にここを発つのだ」


 正直どうしていいのか分からない。ザラムの事は仲間だとは思っていたけれど恋人という範疇にはなかった。


 しかし町から追放される前科持ちの女についてきてくれるザラムは信じていいのかも知れない。ザラムの想いを受ける受けないはさておきここは彼についていこう。


「わかった、こんな前科持ちの女でまだ貴方への答えは出せないけど・・・よろしくお願いします」

「おお!任せて置け!セレが我輩のそばにいてくれれば何だってやってやる!!」


 跪いて私の右手を取りキスするザラム、武骨な印象とは逆に繊細なところもあって驚いている。案外彼との未来も考えていいかも。



     「けっ、次から次へと男替えやがってこの淫売が・・・」



 突然の声に振り向くと・・・さっきまで私が待ち望んでいたエルカートがいた。


「何の用だ?もう我輩はビーストハートを抜けたから無関係のハズ」

「ああ?誰が認めるっつった?勝手に話進めて人の女取りやがって・・・」


「確か我輩の記憶では『あんなクズ女はもういらねぇ!』と言っていたな、ならばもうアンタの女ではない・・・セレへの侮辱は許さん」

「すっかりナイト気取りだなぁ・・・おいセレ、てめぇ良くも俺にフカシぶちこんで恥かかせてくれたなぁ?落とし前はつけさせてもらうぜ?」

「な、何の事?」


「お前、幼馴染のルーブルのヤツがハズレ属性の念属性だっつってたろ?カマかけてみたらアイツは風属性だったんだよ!」


 る、ルーブルが風属性?そんなワケがない!でなきゃあの属性が分かった時あんなに落ち込んだりしなかったハズ!


「そんなのウソよ、彼は念属性・・・」

「ぅるせぇぞ!お陰で大恥かいちまったじゃねぇか!ザラム、てめぇもビーストハート抜け出した罰を与えてやる・・・」


 エルの逆ギレに唖然としてしまう私、しかしザラムが私を守るように前に出る。


「我輩からも最後に教えてやろう、ルーブルとやらの属性・・・あれは風属性ではない、他の者達は騙せても同じ風属性の我輩はゴマ化せん」

「ザラム!何を言いやが」

「あの時ヤツは空気を使ってナイフを投げたというが、我輩が見逃すことのない空気の変化は全く感じられなかった・・・やはりセレの言う通り念属性だったのだろう」

「ざ・・・ザラムぅ」


 ルーブルにエル、次々と私を裏切る中で私を信じてくれるザラムに思わず感激してしまう。もう私にはこの人しか残されていない。


「てめぇ・・・それが分かっていてどうしてあン時言わなかったんだぁ?!」

「あの場でそれを主張したところで冒険者達の反応はいまいちだった事は一目瞭然、ならば退いた方が良いと判断したまで・・・それにルーブルとやらの属性などもはや我々にはどうでもいい話だ」


「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!どいつもこいつも勝手なことばっかしやがって!!全員ぶっ殺してやるぅ!!手始めにてめぇらから始末してやる!!!」


 そういってエルは剣を構える。得意のチェインソードを使うつもりだ・・・弓と矢があれば応戦できるのに!


「セレ、大丈夫だ・・・ヤツの技は剣の間合いのみ、盾の間合いに入った瞬間スクェアボンバァを決めれば我輩の勝ちだ」

「へっ・・・俺様も見縊られたモンだぜ、覚悟しな!ロングチェインっ!!」


バリィィィイイイイイッ!!!


「ぐ・・・ぐぁあああああああぁぁああああああああ!??」


 次の瞬間、ザラムの全身に電撃が走った!どうして?エルのチェインソードは剣から電撃を流すスキルだったハズ・・・ザラムとの距離は開いていたのにどうやって?


「俺は飛び道具を使えるようになったんだよ、このブレスレットのお蔭でなぁ!」


 全身に火傷を負いひざから崩れ落ちるザラム、私は彼を助けようと近づくも左腕で撥ね退けられる。


「セレ、早く逃げ・・・ぎゃぁああああ!!」


 ザラムは2度目の電撃をくらい・・・そして事切れた。


「ぃやぁああああああああああああ!」


 その大きな身体は無残にも黒焦げになってしまった。せっかく・・・せっかく頼っていける人を見つけたのに!


「ザラム!アンタよくも仲間を・・・ひぎゃあああああ!!」


 いつの間にか近寄っていたエルの剣が私の胸を貫いていた。


「ひゃっはぁ!次はテメぇだセレ、この後はフィスもアリエも・・・そんで幼馴染のルーブルも殺してやるからあの世でまた会えるぜ・・・チェインソードぉぉ!!」


 電撃が私の全身を駆け巡る。五感全ての感覚が全て激しい振動のみを捉えている。もうダメだ。何もできないままなんて・・・


 ぼんやりと映像が浮かんでくる・・・これは何?


 小さい時の私。

 ルーブルと仲良く遊んでいた事。

 誰よりも早く光属性に目覚めた事。

 ルーブルを置いて修行していた事。

 村をでてクトファで冒険者になった事。

 エルに誘われてビーストハートに入った事。


 次々と今まで経験してきたことが頭の中で甦る。もしかしてこれが人間が死ぬ前に見る走馬灯というヤツ?またルーブルとウィルマって女に裏切られる光景を見させられるの?


 次の瞬間、辺りが暗くなる。クトファのダンジョン?

 逃げだしたルーブルを私のフォトンナイフが襲う。

 左足の腱を打ち抜かれたルーブルを更にエルがいたぶりフィスがとどめを刺す。

 エルと抱き合いながらそれを見届けている私達。

 ようやく邪魔者がいなくなるのね。


―――――


 町外れの林でエルとザラムがルーブルにリンチを加える。

 私とフィスはそれを冷たい目で眺めているだけ。

 ザラムのスクェア・ボンバァで叩きのめされて虫の息となったルーブルに、とどめ

 とばかりにエルとのキスを見せつけ絶望させていた。

 ハズレ属性のアンタなんかお断りよ。


―――――


 町の中央を流れる川沿い。

 つまづきコケているザラムとフィスの向こうにはルーブルが全力で走っていた。

 彼を逃がすまいとフォトンナイフの体勢に構えると横からエルが弓部分に触れて

 鬼力を込める。

 そのまま放たれたフォトンナイフは電属性が加わりライトニングレーザーとなって

 右足を打ち抜き行動不能にさせた。

 エルと一緒に倒れたルーブルに向かい弓を構えて引き絞る・・・。

 幼馴染なんてウザイだけ。


―――――


 ギルドの酒場でAランク昇進の打ち上げをしている。

 みんな盛り上がっているのにルーブルはしょんぼりしたままだ。

 サンドワームのクエストはルーブルの指揮があったから成功したのにどうして?

 そんな彼にどこの馬の骨とも知らない女が気安く声を掛けてくる。

 お酒の回った勢いのままに怒鳴りつけて下がらせる。

 ルーブルは私のモノなんだから!


―――――


 クトファの町にある展望台で倒れた女を抱き寄せているルーブル。

 彼を誑かした女を打ち抜いたのは私。

 どうしてそんなことしているの?

 もうその女は急所を撃たれて手遅れなのよ、アンタはその女に騙されていただけ

 なんだから。

 早く私のところに戻ってきなさいよ。


―――――


 再び展望台で。

 2人の警備兵に捕らわれた私を助けようとしたルーブルを横の女が抑える。

 何よその顔は?

 人のモノを盗られた私の方がアンタよりずっと怒ってるんだから!

 そんな据わった目で睨んでも怖くないわよ!!


―――――



 この光景は何?どれも覚えのない記憶だけどどこかで経験してきた感じがする。

 これがホントに私のしてきた事なら・・・何回も殺されたルーブルは私を嫌って当然だ。


 でもどうしてこんないくつもの記憶が出てくるんだろう?


 私が最期に思った事は・・・この奇妙な疑問だった。


・・・

・・

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